だって迷わないと辿り着けないんだもの!
「…………」
『大丈夫? 生きてる?』
『し、死んでる……』
生きてるわあ!
しかし精神的に辛い。なんなら一晩中舞い続けるよりも辛い。なにが辛いって……『意図的に迷い続ける』のが辛い! 当たり前だけども!
でもさあ、いくら方向音痴でもある程度は道を覚えちゃうものじゃない? マヨヒガチャレンジをしながら何時間もぐるぐると山の中を歩き続けるのも疲れた。何回か絶対に失敗してるし。知ってる道に出ちゃうから……!
このままだと、ますます道を覚えてしまう!
故に私が取った最終手段。それは……!
「怖い怖い怖いですって」
『ケイカちゃん目の前に木が』
「ひえっ」
街道を外れた時点で目隠しをしながら手探りでちょこまか移動する……だ。
他人がこの場面を見ていたら「馬鹿なの?」と言われること間違いないだろう。
なお、私が手拭いで目隠ししているからか『スクショ保存してもいいですか?』というお行儀良く許可を取る人や、恐らくは無断で保存している人達でコメント欄が溢れかえっている。
配信を三人称視点のもので行い、コメントを音声読み上げ式にしてある程度危険を教えてもらう『スイカ割り』みたいな方式で約三時間。その前からチャレンジしていることを考えると半日近く。この山の中を彷徨っていることになる。
正気に返ると私はなにやってんだろう? という気持ちになってきてしまうので、深くは考えない。
「くう……」
呆れ返った様子でアカツキが鳴く声が聞こえる。
「あっ、待ってくださいシズク。耳元でしゅるしゅるしないで! くすぐったいです!」
「しゅー?」
「ぴえっ、わざとやってませんか?」
『保存した』
『はー今日もいい素材出してくれるっすね〜』
当然だが、メンバー入れ替えは済んでおり、今はアカツキ、オボロ、シズク、レキの四匹に戻っている。
そして全員、ジンとのデートでお土産として釣って来た魚を使い、魚料理をたらふく食べたので体力小アップのバフがかかっていたりする。
だから山道を歩くこと自体、体力的にはなんの問題もない。ただし、目隠しで山道を歩いているため、いつどこに木があるかとか、崖があるかとかは全く分からない。
本当はレキあたりにツタを腕に巻いてもらって案内されたかったんだけど、レキは道を覚えてしまっているらしく、『迷う』という条件を達成できない。
だからこそ、コメント達にスイカ割りの要領で誘導してもらっているのだ。目の前に危機が迫ったときだけ声をかけてもらうようにすれば、道を覚えている人が誘導してきても私はさっぱり分からないので判定には引っかからない……はず。
これこそが、疲れに疲れ自棄になった末に編み出した、マヨヒガにもう一度行くための策だった。
『景色が変わった! マヨヒガ入ったぞこれ』
『もう目隠しとって大丈夫よー』
「ほ、本当でしゅか……」
涙声である。
いやいやいや、だって怖いんだよ!? 目隠しして崖があるかもしれない山道を三時間、うろつかないといけないとかなんの修行!? もしくは苦行!? 怖いに決まってるでしょうこんなの!
体感だともっと時間経ってる気がする……。
『もう大丈夫ですからね』
「はい……」
ゆっくりと目隠しを外す。
泣いてないだけ多分、結構上等なほうだと思うんだ。泣いてない。泣いてないもの……ただ目隠し取ってまぶしかっただけだもの……。
さて、視界が開ければちゃんとそこは、霧に沈むどこかの古い屋敷の前だった。『到着したよ』コメントを信じずに歩いていたら、多分門戸にぶつかってただろう。そんな無様な姿を配信するわけにもいかないので、ちゃんと信じて良かった。
もうすでに無様を晒しているとかそんなツッコミはなしで。
「んっんっ、ええと……マヨヒガに辿り着きましたね…………ようやく」
『声震えてらw』
『お水飲んできてもいいのよ〜無理しないで』
『ようやく。の一言に感情が全部詰まってるw』
いや、多分警告アラートみたいなのは鳴ってないし、リアルのほうでは問題なしのはず。結構な恐怖を味わったと思うんだけど……意外と影響がないもんなんだなあ。死ぬことはないって分かってるからか?
「それでは、最後のイベント行ってみましょう。ハインツの泊まっていた宿屋で、ユールセレーゼ達とパートナーご夫婦が映ったロケットペンダントと、遺書を見つけたんですよ。あとキメラ型の魔獣についてを研究した資料本ですね。場所などはのちほど攻略まとめサイトさんのほうに落とすので、今回はその辺は置いといて、しっかりイベントを見て行ってくださいね」
『遺書?』
『そういうアイテムって中身ちゃんと書いてあるん?』
多分これは、全文読めるのか? ということだろう。
「アイテムを使用すると必要な情報だけ浮かび上がって見られる形になっていますね。たとえば、遺書は封筒の中身が三枚ありまして……一枚目に挨拶と、残して死んでいってしまうだろうことへの謝罪。二枚目にはそれぞれの聖獣の名前を挙げながら『あんなことをしたね』、『君はこれが好きだったね』と思い出を語らう内容」
なお、アイテムの内容はイベントで渡すとボックスから消えて読めなくなってしまうことを懸念して、事前に情報の転写をしてある。メモも取っているし、内容はバッチリ頭の中に入っている……はずだ。
明らかに重要なアイテムは遺書のほうだし、あとあと必要になるかもしれないからね。念には念を入れる。
「そして、三枚目には『赤ん坊の成長を生きて見届けてほしい』『だから、新しいパートナーを見つけて生きてほしい』という内容でした」
私はこの一文に希望を見出している。
あとはユールセレーゼに手紙と遺品を渡して、スカウトを試みるだけ。
「着きました。はじめますよ」
彼女達が座っている庭の片隅。
そこへ足を踏み入れると、ざあっと白梅の花が風に乗って流されて行った。
「ハッピーエンド以外は、認めませんからね」
#神獣郷こっそり裏話
実はこの一連のミッション。追憶という形で周回できるんだとか。
でもとある人の「一回辿り着けたら次からはショートカットできるようにしたほうがいいと思います! 私がこのミッション見つけたりクリアできなかったら誰も見つけられなかったんじゃないですか!? 難易度調整しっかりしてください!」
というクレームが入って次のメンテでショトカが可能になったとか……。




