器用値があればエサがなくとも釣りだってできる!?
キーは手に入れたことだし、一刻も早く解決に赴きたいところではあるけれど……。
「にゃ……」
「そうですよね、デートですもんね」
本日はジンとだけ、デートをすると決めてしまっているのである。
ユールセレーゼと会話するのにもレキは必要だし、できれば……そう、同じ狼であるオボロと、鳥であるアカツキは対面の場にいてほしい。それと、『とあること』が実現できるだろうシズクもやはり必要だ。
また会いに行くときはジンがお留守番になるため、今は彼を優先してあげないとね。
「というわけで、本日はゆったりまったり散歩配信です」
「なあーん!」
街中をジンと隣り合って歩きながら、配信を開始する。
『はいつー』
『おつー』
『おっ、攻略じゃなくてデートか』
『ジンくーん! こっち向いて!』
流れてくる『配信乙』の言葉に受け答えしつつ、ジンを見下ろす。読み上げ音声を使っている場合は、聖獣にもしっかりと音声が聞き取れるようになっているので、ジンは顔をあげてキョロキョロしてからにこっと笑う。
うん、勘で笑ったにしてはいい位置で笑ってくれた。やはりこの子は幸運猫。三毛猫のオスなだけはある。さっき見つけた遺書も、恐らくこの子じゃなければ見つけることができなかっただろう。
おっ、なんと街中に営業している釣り堀がある……!
釣り堀は山から繋がっており、外まで続いている中間地点になっているらしい。自然を利用した釣り堀で、街中を分岐した川が通っていて、遠くの海まで続いている……と。
だから営業している釣り堀の中に魚がいるかどうかは運次第。そして釣った魚は近くの調理場で料理が可能。その場で食べてもいいよ、という親切設計だ。
どうやら魚素材や食材集め用のミニゲームみたいな扱いになっているみたい。
……これは、やるしかないのでは?
ワンコインで一時間。今は幸運猫のジンもいる。ちょっと運試しも兼ねてやりましょうか。
……それと、今後『クイーンアユ』という食材も必要になるのでここで取っておきたい。こういうところがなければ山で釣りするか、トレードやらプレイヤーの販売所で手に入れようと思っていたところだ。
「釣り! やりましょう!」
『ええ、そこ確定で魚の出現が決まってないから本当に釣れないときは釣れないよ?』
『無言釣り配信になりそう』
『何言ってんだおまいら。あのジンがいるんだぞ?』
『完全に透明な幻影蝶をピンポイントで葬る幸運さを持った猫。あれ? いけるくね???』
「そうですよ! いけるんですよ! そう、ジンならね!」
「なうーん」
ジンを持ち上げてアピールすると、ジンは照れ臭そうに顔をてしっと肉球で覆った。あまりにも可愛い。
「釣り体験しまーす!」
「はいよ、500ゴールドだ」
「はーい!」
いかにも釣り親父です! って外見の人から釣竿とエサを借りて中へ入る。
中には誰もいなかった! さすがに笑う!
『その釣り堀、難易度高いことで有名なんだよ』
『ほかの場所なら釣り堀に何匹か確定で出現するようになってるんだけど、そこはそれすらランダムだからさあ』
『そうそう、他は数固定の無限湧きで、魚の種類だけランダムなのにね』
「なるほどなるほど。ですが、そういうところこそ、レアなものが釣れるのでは?」
『まあ、確かにね〜』
『検証も、ミニゲームよりマップ埋めとかミッションのほうに人員割いてるからなかなかミニゲームまで手が回らないんだよねー』
『これでケイカちゃんが出現する魚の分布調べてくれたら検証班としては大助かりです』
なるほど?
ならやるしかないじゃない!
「ジン、準備はいいですか? ジン……? あっジン!?」
話しながら振り返ると……なんということをしてくれたんでしょう!
ジンがエサ用の魚団子を全部食べてしまったではありませんか!
いや本当になんてことをしてくれたんだ!?
『はい、解散』
『おつかれっしたー』
『いやー、惜しかったねぇ〜』
「集合‼︎」
解散するんじゃありません!
大丈夫、大丈夫。いけるいける。私ならいけるって! 多分! だから待って!
『いや無理でしょこれ』
『針はあってもエサがない。魚が引っかかるわけがないって』
『まさかお金払ってエサもらってくるの?』
『お、散財か?』
なんでお金使おうとするとそんなに嬉々とするの?
その期待には残念ながら応えられないけれども。
「さて、皆様。私がなにに極振りしているプレイヤーか、ご存知なはずですね? 言ってみてください」
『器用値』
『光属性』
『ヤンキー』
『器用』
『器用値でしょ?』
『愛』
んっ、んー、なんか変なのも混ざっているけれども、よしとしておきましょう!
「そう、私は器用値極振り! つまり……」
ごくりと唾を飲み込むようなコメントが多数流れていき、『つまり?』と復唱する。
「つまりは、こういうことです! ジン、お魚さんはどこにいますか!」
「うにゃん」
ジンが手を指し示した方向を見る。魚影があることを確認。そして一番大きな針を釣竿につけて、どっしりと構えながら振りかぶる。
「つまり、こういうことです!」
そして、そのまま釣竿の糸を魚影に向けて振り下ろす。大きな針が背中の鱗に引っかかるように手のスナップを利かせながら調整。目を見開いて上手く行くように魚の動向を見守り、そのまま背びれを針でぶち抜いて引っかけることに成功。そのまま勢いよく糸を巻いて水面から力任せに引き上げる。
『物理!?』
『器用値ってそうやって使うもんじゃねーから!!』
『ひえっ』
『エレガントさどこ行った』
「お魚、獲得ですよー!」
そのまま糸と針と共に飛んでくるお魚をキャッチ。アイテムとしてボックスにイン! お名前は……?
『クイーンアユ……だと!?』
『激レアじゃん!?』
『うっそだろわろたwww』
よしっ、とガッツポーズをする。
これで必要なものは釣れたが、隣にはお魚料理を待っている可愛い相棒もいるわけで……。
「まだまだ行きますよー!」
「にゃーん!」
そして、検証結果。
ここは運がよければめちゃくちゃレアな魚が釣れる釣り堀なのだと、判明したのでした……。検証班にめちゃくちゃ感謝されてしまった! 嬉しいので、今後も運が絡みそうなミニゲームはどんどんやって行こう!
……そして、ユールセレーゼに会うのに欲しかったものも手に入れたことだし、あとは金銭で買えるものばかりだからそれもジンとのデートをしているかたわらに購入。
密かに準備を全て整えた。
ジンはこのデートでご機嫌になってくれたし、私も癒しになった。
あとは……このストーリーミッションのラストスパートを、行くだけである。
シリアスな中の清涼剤+クリアに必要な物品集め。
なにが起こるかは、本番が始まってからのお楽しみでございます!




