追加依頼デートは迅雷と共に
「うにゃんうにゃんうにゃん〜」
楽しそうに三毛猫が横を歩く。
ご機嫌な鳴き声をあげながら足元をするすると通り抜けてくるものだから、結構歩きづらいんだけれども……可愛いから許せる。
ハインツの逮捕劇から少し。一度緋羽屋敷に戻って編成を入れ替えてきたのだ。あとは言われた通り、追加依頼としてハインツの利用していた宿屋を訪ね、ユールセレーゼのパートナーの遺品を探すだけとなる。
恐らく戦闘などの心配がないだろうから、という理由でジンとのデートをすることにしたのだ。屋敷に一匹だけお留守番していたお詫びである。するって約束していたからね。
万が一戦闘があった場合は逃げに徹するので私もジンも問題ないとは思うけれども、念のためにひとつ、待機所からパートナーを召喚するアクセサリーを買って身につけている。本当にピンチになったときだけアカツキを召喚するつもりだ。
その間は、ジン以外全員屋敷でお庭の改造をしたりスキルの応用を練習したり、各自お留守番を楽しんでいるはずだ。
ひとつだけしか持っていないのは……単純に高価だったからである。高すぎてそれしか買えなかったというわけだ。
そもそも特定の商売人NPCしか売っていないうえに、そのNPCは神出鬼没らしい。出現する位置が固定しておらず、各国、各街を回っているにしても、そのルートも一定ではない。
そしてなにより、このアイテムの作製方法がまだ発見されていない。
故に、そのNPCを偶然見つけるか……もしくはプレイヤーの交換所や販売所で買うしかないのだ。貴重なものなので当然のことながらクッッッソ高い。そりゃもうべらぼうに高い。なんでまた散財してるの私?
もう、これは性分だからと諦めるべき部分かもしれない。
「にゃあん?」
「ふふ、にゃー?」
「んにゃー!」
鳴き声を真似して足元のジンを見ると、機嫌良さげに目を細めて鳴いた。あー癒し。可愛い。この子がどんなふうに進化するのか、楽しみだなあ……猫科のままかなあ、それとも別の生き物になるのだろうか?
それもこれも、この子の意思と私の行動次第。
楽しみだなあ。
「ここですね、蓮華の宿」
「にゃん?」
「ええ、鍵についている蓮の花の模様が看板と一緒です」
見上げるのは、ちょっと古そうな宿。それほど大きいわけでもなく、老舗というわけでもなさそうだ。街中にあるグレードの低い宿といった雰囲気。
本当にここか? 本当にあのハインツがここを拠点にしていたと?
疑問しかないし、『違うんじゃないか』『間違えたんじゃないか』なんて気持ちが心の中を占めている。
あのキラキラしたロン毛のイケメン貴族が、失礼だが『こんな場所』を潜伏場所に選ぶと思うか? 普通。
本人に鍵を渡されたというのに信じられない……しかし、鍵はこの場所を示しているのだし、と中に入る。
「いらっしゃいませぇ」
「あ、あの……この鍵の部屋を探しているのですが」
「おや、それは……」
人の良さそうな顔で出迎えたご婦人が、鍵を見た途端にびっくりしたような反応を見せる。そりゃそうだよね。部屋を借りている持ち主でもない、他人が鍵を持っているんだもの。
「部屋の主が逮捕されてしまいましたもので。部屋の中を改めても良いと……ご本人から許可をいただきました。わたくしはあの人のご兄弟の遺品を探しに来たのです。渡したいかたがいまして」
ここまでなら、話しても構わないよね。
どうやらご婦人は事情を知らないようだし。
「……はい、分かりました。それではこちらへ」
んん? それにしてはなんか様子が変な気もする。なんでだろう。
まあいいか、ご婦人は聖獣を連れていないみたいだけど……まあ全員が全員聖獣とパートナーになれるわけではない。
この世界の伝承の通りに、そもそも聖獣とパートナーになれること自体が『選ばれた共存者』にしかできないものなのだ。
当然のことながら、生まれつき『共存者』になれない人も存在するし、『共存者』の中でもその格差で苦しむ人もいる。
プレイヤーは全員共存者になれるという例外があるけれど、NPCとしては共存者になれるかなれないかは才能のあるなしに関わるわけだ。
「まさか、正直にお話ししてくださるとは……思っておりませんでした」
二階に上がり、廊下を歩いていると、沈黙していたご婦人がポツリと言った。
えっ、あ、そういうこと!? 確かにハインツは部屋の場所まで事細かに教えてくれたけれども!
さっき、鍵を見せてびっくりしてたのも、もしかしてそれが原因だったの……? いやいや、普通挨拶されたら挨拶し返すし、目の前に話を聞ける人がいるなら聞くと思うんだけれども。
まさか、ご婦人を躱して侵入すること前提だったの……?
だったら驚きもするか。当然だよね……いや、ということは、このご婦人。ハインツがなにをしていたのかも知っているのか? ここまで察しがいいとなると……。
どっちが正規ルートか分からないけれど、なんか変なことをしたのは分かった。これもまた、性分だから仕方ないよね。
あとで依頼の攻略情報アップするときに、分岐の可能性を書いておけばいいかな。
「こちらです」
「はい、ありがとうございます」
案内されて扉を開ける。
「なあ〜ん」
「あ、待って、ジン!」
細い隙間からするりと猫が入り込む。
私はそれを追って、すぐさま部屋に飛び込んでいくのであった。
実は2ルート考えてるんですが、いまだにどっちにしようかなあ〜と悩みつつ進めてます。




