さて、ここからが演技と推理ショーの始まりだ!
「いえ、お目汚しまことにすみません」
すんっと真顔になってから笑顔を浮かべる。
そこでレキの拘束もゆるりと解かれた。
「ケイカさんには大事なお仕事を頼んでいますし、それくらいのお力になれるならば喜んでお金を出しますよ」
ニコニコとした爽やかな笑顔で対応する依頼主、ハインツ。
こちらも笑顔で対応しつつも、その瞳の奥の奥を見るように伺っていると、さっと目を逸らされた。
「これください。お店の前ではなんですし、移動いたしましょうか」
「悪いですよそんな……う、そうですね」
私が止める間も無くハインツがジェム・ツリーの苗木を購入してこちらに受け渡してくるのを受け取った。心なしか押し付けるような動作に、早技すぎるよなと目を細める。多分断られても無理矢理押し付けてきただろう。私に親切をして恩を作りたかったのかもしれない。
――そうすれば、恩返しを強要しやすい。
お騒がせしましたと周りの野次馬に謝って、こっそり配信を開始する。
『おつー、ケイカちゃんなにやってんのwww』
配信開始と同時にやってきた数人は掲示板で情報を入手したのか、それとも先程の野次馬の中にいたのか、事情を知っている人が多いようだ。
それなら好都合。言葉で配信するのではなく、手先をささっと動かしてホログラムのキーボードを叩く。ハインツに悟られないためには喋らないほうがいい。
【本日は私の配信にお越しくださり、まことにありがとうございます。ただいま、そこのNPCには秘密にしたいため、テロップで失礼します】
配信画面にポンと文字が浮かぶ。
コメントがいくつか反応があるうちに続きもタイピングしていく。
【野次馬していた人の中で協力してくださるかたがいたら、私達の後を追ってください。しかし、絶対に私達に見つからぬように】
そう、ちょうど近くにいたなら、そのまま逮捕に協力してもらおうという魂胆だ。
【先程の男性NPCが例の依頼主です。依頼主を無事逮捕するため囮になるので、配信を見ながらお待ち下さい】
『依頼人を逮捕? どういうこと?』
『どうやってそこまでこぎつけるのさ』
『そんな流れだったっけ?』
『あーでも、赤ん坊が平和に暮らすためには依頼主をどうにかしなくちゃいけないのかー』
ハインツの後を追いながらゆっくりと頷く。
【依頼主の目の前で行う私の推理ショーもありますので、どうぞお楽しみください】
『さっきまでふざけたことしてたのにこの温度差よ』
『温度差でグッピーが死んじゃう』
『ヒエッ、ケイカさん真顔じゃん』
『ヤンキーの顔してる』
「誰がヤンキーの顔ですかオラァ」
「ん? どうしましたかケイカさん?」
「いいえ? なんでもありませんわぁ。おほほほほ」
わざとらしい誤魔化しかたに入るツッコミと、コメントのエレヤンコールを眺めつつ、路地裏に入る。
どんどん人気のない場所を選んで進んでいくハインツの背中を睨みつけつつ、肩にいるアカツキの頭をくりくりと撫でた。
シズクと視覚を共有してみれば、私達の後をついてくるようにする人間が数人、壁越しに確認できる。感覚共有のスキルがだいぶ成長しているため、壁越しでも体温がスケスケで分かるという状態になっている。それもう透視では? という性能だ。
行く先から完全に人の気配が消え、ハインツさんが振り返る。
「この辺でお話ししましょうか。どうぞ、そこの休憩所を利用してください」
いやいやいや、こんなところに休憩所があるとか胡散臭すぎでしょ!
しかもご丁寧に行き止まり側の椅子に座らせようとしてきているしこいつ……隠す気ないのか?
「あら、ありがとうございます」
笑みは引きつってはいないだろうか。
言われた通りに行き止まり側に座って、相手も座るのを待つ。
路地裏に丸テーブルと椅子二つ。意味が分からないね。
これが極めて不自然だとは思わないのかこいつは? 罠を仕込むならもう少し自然に、丁寧にやればいいのに。引っかかってあげるけどさあ!
「それでは、仕事の話をしましょうか」
「ええ、それなのですが……」
困ったような顔を作って頬に手を当てる。
さて、ここからが演技と推理ショーの始まりだ!
果たして、私はしっかり女優になれるかな?
手打ちでそんなことを書き込んでいたものだからコメントでツッコミが入るわ入るわ。どんだけだよ!
おいこらコメント、そこ! フラグとか言わないで!
本番開始!




