お目汚し、まことにすみません
「ケイカ……視線が……」
「……」
「ケイカ……」
私の真剣な眼差しが向けられているのはただ一点。
私はそいつを見つめながら、そっと手を伸ばす。あともう少し、あともう少し。ぷるぷると震える手で必死になって、そいつを掴もうとして――。
「やめ、なさい」
レキの背中から伸びてきたツタによって、手が払い除けられた。
ついで、ツタが両手を拘束するように巻きついて頭上に捻りあげられ、後ろに引っ張られてのけぞるような体勢になってしまう。
「くうっ、離してくださいおじじ! ジェム・ツリーの苗木ですってほら! 自宅の庭にジェム・ツリーを植えておけば一日三回、フィールドに出ずに採り放題ですよ!? 最終的に今払う代金分以上の収入になるはずです! レキも育ててみたいでしょう!?」
「それを……買えば……財布の中身が……なくなる、だろう」
「今後、それ以上の収入が見込めます!」
「今を、大事に……しろ」
店の前でレキと言い争いをしながら、どうにかこうにか拘束を取ろうとする。
このやりとりのせいで野次馬からの視線がものすごく鬱陶しいことになっている。
先程からずうっと、カメと言い争いしている女がいると噂になっているんじゃなかろうか。お店の人にとっては大迷惑である。
「ああっ! 待って! そこはだめです!」
「なにを、言っている……立ち去る……ぞ」
片足にもツタが巻きついて引っ張られる。泣きながら店にかじりつこうとしている私に、レキは容赦なく引き剥がそうと次々とツタを巻きつけてくるのだ。このお爺ちゃん容赦ないな!?
「待って!」
「待たぬ」
「ちょっと野次馬さん! 写真撮るのはやめてください!」
「見世物では……ないぞ」
あれ、写真?
よくよく考えれば……女の子が両手をツタで拘束されて頭の上で纏め上げられ、背中をそるようにしていて、足にも胴にもツタが巻きついて泣き叫んでる状況って……なかなかやばいのでは?
気づいてしまった。
どこのエロ同人ですか!?
「待ってレキ! 分かった! 分かりましたから拘束を解いてください!」
「できぬ……逃げるだろう」
「否定できないですけれども! さすがにこの体勢はまずい! 炎上しちゃいます〜! 財布がカラになる前に晒し者にされちゃいます〜! ファンに変なのが増えちゃいます〜! 変態はストッキンさんだけで手一杯ですよぉ〜!」
「喚くな、鬱陶しい」
「えっ、辛辣!?」
だんだん私達のノリに慣れてきたのか、お爺ちゃんの言動が荒々しい。
しかしこうして拘束されていると本気で動けないから困る……! 非常に困る! あ、ほらそこ! 撮影しないで!
「アカツキもなにか言ってくださいよ!」
「……」
頭の上でアカツキが溜め息っぽいことをしたと思うと、私の髪の毛をツンツンとつつき始めた。シズクもぐいぐい首を締め付けてきているし、オボロはバランスを崩すまいと踏ん張っている私の足元をぐいぐい押してくる。待って!? そんなことされてると道端で倒れちゃうって!
見事に全員私の行動を邪魔しにきている。よくできた聖獣達ですね……遠い目をしながら、しかし諦めきれずに店先のお値段が書かれたポップに視線を向ける。
「ほら! 見てくださいよ! 限定品ですよ限定品! 今ここで買わなかったらいつ買えるか分かりません! あらゆるものは一期一会! 今買わずにいつ買えばいいと思うのですか!」
「ご乱心なさるな……」
そう、いつもこうして散財するのである。
やんわりと止められたとしても、いつのまにか商品の代金を払っているのだ。
今回に関しては既に正気に戻っているんだけど、なんとなく意地になってしまって攻防を続ける。
「あまり、恥を晒すな……」
「ひどいです!? ううう、お爺ちゃん、なんてひどいことを言うんですか!」
「事実、だ」
野次馬がうんうん頷いている。おいコラそこの頷いたやつ! あとで覚えてろよ……! いや、やっぱり忘れて!
そろそろお店の迷惑になってきたかもしれない……しかしここで諦めたら自宅に設置できるガチャなんて滅多に出回らないだろうし……ううーん。
悩んでいるフリしてても買う前提で考えてしまうのがいろいろやばい。
やばいことを分かっているのに止められない。
「あの、もしよければ俺が払いましょうか……?」
え?
「本当ですか!?」
バッと振り返る。
沈黙。
――依頼主だった。
「あっ」
終わった。
「どうしました?」
「うふふ、なんのことでしょう?」
誤魔化しにかかる。お願いだ! 乗ってください! 後生だから! お願い神様!
「ですから、俺がお金出しますよって」
神は死んだ。
Q.今回から本番なんじゃなかったの???
A.いつのまにかこうなっていました。




