散財する前提でいつも買い物してます
「……おはよ……じゃなくて、えっと、おはようございます」
ログインをしてパチリと目を開く。リアルだと敬語キャラは次女のみで、私は普通に喋るから、ログインしたばかりの時間はたまに間違える。
見上げると、背中側に壁のようなもふもふ。ユールセレーゼの大きな体がそこにある。顔のほうに目を向けると、まだ目を閉じているから寝ているのかもしれない。
いやー、もふもふの毛皮に包まれてとる睡眠は最高でしたね。
次いで、彼女の口元にあるカゴをそっと覗く。すやすやとお行儀よく寝ている赤ん坊の姿がそこにあった。うん、大人しいだけで痩せている様子もないし、ちゃんと生きている。ユールセレーゼが頑張っている証だ。
しかし、あまりうかうかしていると彼女が自分自身の生命力を全部使い切って、死んでしまうかもしれない。
一応リアルに帰っている間は依頼の進行度が止まるので、彼女の寿命が削られることはない。正確には、表向きの時間経過はあるが、ユールセレーゼの生命力が消費され続けているという『タイムリミット』のほうは、リアルにいる限り止まってくれる。
だから、他にもタイムリミットのある依頼やストーリーなどがあったときは、クリアに必要な情報を集めてリアルで掲示板を眺めながら考える。推理をしてみる、などをすると失敗する可能性が減って効率がいい。
さっそくアカツキ達の分のアニマ・エッグを取得してボックスに仕舞った。
「もう一度来るには、また迷わないといけないんですよね……」
体を完全に起こして立ち上がり、ぐんと背伸びをして息を吐いた。
地面から脚を伝いながらシズクがするすると私の体を登っていき、いつもの定位置に収まる。アカツキも肩の上だ。
二匹もいると肩が凝りそうなものだけれど、そこまで細かい動作は設定されていないので問題ない。現実でやったら絶対乗せてられないけど。
「くうん」
「えっ、くれるんですか?」
「……」
「ありがとうございます」
ユールセレーゼが寝たまま鳴き声をあげ、気になったので寄ってみると白い梅の花が描かれたお守りを渡された。もしや重要アイテム? なにかのフラグを立てるやつか?
ともかく、こうして渡されるということは大事なものなんだろうと判断してボックスに入れた。
さて、地図を覚えたら来れなくなってしまうことだし、地図は一切見ずにヒノモトの街へのワープを選択することにする。
ワープして街の入り口へ。清閑な場所から、端っことはいえ一気に大通りに出たので騒がしさに耳を押さえる。
それから、私達はしばらく街を練り歩くことにした。待ち合わせ場所は決めているものの、今のところ私には成果がない。そして、監視の目もない。
あえて監視の目をつけてから行動し、依頼主に会おうという作戦だ。監視してくるということは、どうせ感覚共有で視覚情報を得ているんだろうし、それを利用する。
監視がついてから山のほうを気にしたり、明らかに幼い子用のおもちゃを一般店員さんから買ったり、いわゆる『匂わせ』をする。
そして、わざと人気のない場所を選んで依頼主に報告するのだ。『見つかりませんでしたごめんなさい』ってね。そうすれば相手は嘘だとドヤ顔で見抜いてくるに違いない。
あえて隙を見せることで、「お前のような無能に神獣はもったいない!」だのなんだの言ってくれれば万々歳である。そうなればこちらの作戦勝ちだ。
「んー、引っかかるまで露天でも見ていましょうか」
元気のいいお返事をするみんなを誘導しながら、ウィンドウショッピングをする。さーて、ハインツがつられて監視をよこしてくるのが先か、私のお財布の中身がなくなるのが先か。
……どっちだ! ふぁい!
次からが本番なので一旦切ります。
前回で言っていた「ぱちもん」について。
月間一位のやつを確認してきましたが、あちらはバーチャルモンスターでバチモン。音も意味も違いますし、こちらで使ったのは小ネタ程度で今後出るかどうかも分からない部分……ということでそのままにしておきます。
気にするな、という声も多数でしたので。




