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【漫画単行本4巻発売中】神獣郷オンライン!〜『器用値極振り』で聖獣と共に『不殺』で優しい魅せプレイを『配信』します!〜  作者: 時雨オオカミ
特殊依頼『果ての地で忠義を捧ぐ』

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こころがしんどい

「……これ、は」


 狼の魔獣はいた。しかし、狼の姿は異様に不気味なものだった。


 目は四つ。そのうち二つは人間の目玉と似たもの。尻尾が手のひらのように先で枝分かれをしていて、禍々しい赤色のオーラが漂っている。

 背中にワシのような翼があり、後ろ足が馬の蹄のようになっているようだ。


 私達に気がついてこちらを静かに見据える瞳は暗く、しかし襲ってこようとする気配はない。こんな狼なんて見たこともないし、伝承関連でもこんな姿のものがあっただろうか? 


「こんな……妖怪とか幻獣とか、いましたっけ」



 コメントを急いで目で追っていく。

 その結論は、『ない』ということに帰結した。


「あなたと……お話をしたいんです。レキ」

「ああ……なんと、哀れな」


 抱きかかえていたレキをおろし、言葉をかける。

 狼の懐には確かに竹で編まれたのだろうカゴがあった。中身は見えないので、どうなっているのか、生きているのか死んでいるのかは分からない。


 それよりも、魔獣のモチーフがはっきりしているはずの神獣郷オンラインの中でモチーフ不明のキメラじみたこの狼の様子が気になった。


「レキ、なにか分かるんですか?」

「くう……」

「アカツキ殿も、オボロ殿も、シズク殿も……分かっておる。四匹、混ざって……いるな」


 四匹? 混ざっている? 

 一瞬理解できなかった。しかし、気付く。『狼』の魔獣をベースに、人間に似た瞳と手のひらに似た尻尾は『猿』、背中の翼は『ワシ』、足元の蹄は『馬』である。


 それらが合体したキメラ。

 そして、四匹ということはつまり……。


「かつて、誰かと共に生きた聖獣?」


 こんな姿になっているのはどうして。


「グオ……」

「理性は、しっかり……しておるのぉ……話を、聞くか?」

「え、ええ」


 コメント欄はその異様な姿や、闇の深そうなストーリーに(おのの)いたり興奮する言葉が綴られている。気持ちは分かるが、こちらはシリアスなのでいったん気持ちを切り替える。真剣に話を聞かなければ。


「レキ、お願いします」

(おう)


 レキが翻訳してくれているため、ゆっくりと、丁寧に『彼女』の物語が紡がれていく。その悲劇が、余すことなく。

 要約すると、権力争いの末の策略と悲劇……ってことだった。

 和風な世界観ではあるものの、国によっては貴族とか王様とかそういう概念もあるわけで……それに魔獣が巻き込まれることもあるのだ。


 ◇


 むかしむかし、とある貴族の家で権力争いがありました。


 兄弟で優秀な弟と、平凡な兄。しかし兄のほうは欲深く、弟が家を継ぐことを反対していました。


 弟は伴侶に恵まれて第一子が産まれます。兄のほうも、対抗するように幾人もの女性と子供を作り、自分こそを跡取り候補にしろと主張しました。


 子供がたくさんおり、兄である自分のほうが相応しいからと。


 しかし当主は弟を選びます。

 これに怒った兄は思いつきました。自分の血を残すため、弟の子と兄の子を取り替えてしまったのです。兄は愚かでしたから、弟に自身の子を育てさせ、なおかつ自分が裏から教育して牛耳ってやろうと思ったのでした。


 子の入れ替えはすぐに済み、あとは弟の子供を葬ってしまうだけの段階となった頃、弟は兄の策略に気がつき、兄から聖獣達と共に子供を取り返します。


 しかし兄に買収されていた側近達によって深傷を負い、このままでは己の子と共に自分達も殺されてしまうと考えた弟は、自身のパートナー達に子供を預け、逃しました。


 弟は権力には興味がなかったので、権力とは関係のない平和なところで子に生きてほしいと願い、聖獣達に安全な場所に連れて行くように頼んだのです。


 しかし、弟の言い分を信じられなかった兄により、弟は妻もろとも殺されて、聖獣達にも追っ手が向かわせられました。


 聖獣達はパートナーがいなければ、充分な力を発揮できません。一匹、また一匹と力尽きかけてしまい、彼女達がした行動は……一番強く、優しい狼の聖獣に、他三匹の力を融合させることでした。


 こうして赤子を守るために、ただ一匹残った狼は、悲しみと苦しさ、悔しさに魔獣の姿へと変貌しながらも安全な山を見つけ出します。


 迷わなければ決して辿り着けない屋敷に足を踏み入れ、たくさんの魔獣達の協力を得て狼はそこで身を休めることにしました。


 子供を生かすために己の生命力と、乳を分け与えながら、彼女はそこで辛抱強く暮らしています。


 そろそろ狼の生命力も危うくなってきたところ、ごく最近兄の使者が自分達を探していることを知りました。


 兄の扱う聖獣はカラスなのでカラスの侵入者は排除して引きこもり、身を守ることしかできません。


 そんなときに、カラスを見事神獣にまで導く人間を発見し、期待しました。もしかしたら、彼女になら、赤子を預けてもいいかもしれない。命尽きる前に、安全なところまで運んでくれるかもしれない。


 そう期待したからこそ、足を踏み入れた人間に手を出さぬように、魔獣達に伝令を伝えたのでした。


 ◇


「んんんんん……こ、これは……」


 依頼人が悪人だっていうのは確定したけど! けど! 

 これは、どうやって誤魔化すべきか……それとも、悪人の兄を法的にどうにかできるならしたほうがいいのか……? 


 というより、なんであのハインツって人は私に魔獣捜索を頼んだんだよ……! 


「こころがしんどい」


 誰だよこんな設定にしたの。もふもふと赤ちゃんは不幸にしちゃいけません! 

 翻訳を聞いて、沈み込む感受性豊かなコメント欄を横目に、私はどうすればいいかしばし考え込むのだった。


 よかった……赤ちゃん生きてて。

神獣郷こっそり裏話

ストーリーに沿っても、破綻させても自由だそうですよ? たった一人の赤子、たった一匹の魔獣がどうなろうと、世界は変わらず回って行くのです。

罪悪感は生まれるかもしれないけれど。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] むかし、むかし~ から始まる文章だとクエストの内容的におかしくなるので、数年前などの表現に変えてみてはどうでしょうか?
[一言] >コメント欄はその異様な姿や、闇の深そうなストーリーに慄おののいたり(改行不要) > 興奮する言葉が綴られている。気持ちは分かるが、こちらはシリアスなのでいったん気持ちを切り替える。真剣に話…
[良い点] 赤ちゃんが無事でよかった。 [気になる点] 乾いた血の跡があるということは…… [一言] 重いです。…前回と前々回は反省しないといけませんね。
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