怪我の功名ってやつだよね!
ど、ど、どうしよう……! 見事にフラグを回収してしまった!
こんなことばかり華麗にフラグを回収していかなくたっていいじゃない!
「きゅーん」
オボロが申し訳なさそうに鼻を鳴らして私を見上げてくる。
そう、動物っぽいこの子達ならなにか分かるかと思うじゃない? それが、この子達にも分からないみたいでどうしようもないんだ。詰んだ。出れない。
最後の手段として緋羽屋敷へのワープはできる。
だけれども、ワープして帰ったら、山の探索は最初からやり直し。迷ってしまったせいでどこを探索したか分からないからだ。探索漏れがないようにしていないと、例の赤ん坊を連れた魔獣を捜すのに支障が出る。
全部の場所を捜さないと魔獣がいたか、いないかも分からないし、依頼人に報告ができない。
「んあー、どうしましょう……」
「クルゥ?」
アカツキが「見てこようか?」と言いたげにクチバシを頬に寄せた。
それでもいいんだけれど……方向音痴だと認めたくはない。変な意地が顔を出した。
「も、もう少し……もう少し自力で頑張ってみますね」
「クルゥ……」
めちゃくちゃ呆れられてるぅ!
でも、でも大丈夫。私ならいける。これ以上は迷わないからね! ええとこういうときってどうすればいいんだっけ。あ、そうだまずは山道を見つけるところからか! なら下りながら見つけるのが一番かな。よし、下ろう!
確か山で迷ったら下るといいって聞いたことがあるし!
(※ 迷ったら山頂を目指しましょう)
「大丈夫、まだ大丈夫……」
なんとなく目が死んできた気がする。時刻は夜中も夜中。というより明け方? あと一時間もすれば夜明けである。
背の高い木が多くて月明かりも乏しく、足元で木の根っこに引っかかること数十回。転びはしないけれども、さすがにここまで引っかけていると精神的にもくる。
「ケイカ……諦めぬ……のか」
「なんかもう、ここまできて諦めたら負けた気がするので諦められません……お爺ちゃん……」
「そう、か……夜明けまで……踏ん張る、のだ……」
「夜明け? 夜明けになったらなにかあります?」
「それは……お楽しみ……だな」
「そうですか」
幸いにもアカツキ自体が光っているので、完全な闇の中で歩いているわけではないことかな。下へ下へと降りているはずなのに、どうにも地上に着かない。遠回りしているからか? それとも、崖を避けて降りられる道を探り、途中でまた登ったりしているから?
ドツボにハマっている気がする。
「うわ……霧まで出てきましたし……いや、これは霧は霧ですけれど、朝靄ですかね」
つまり、日が登って来たということとなる。これで、この山で夜明けを迎えるのは二回目。常に姿を隠すスキルを使っているのでアイテムもそろそろ心許なくなって来た。
レキの霊力が尽きる前にパイを食べさせたり、飴をやったり……羨ましがるオボロや、地味に気にするシズクに同じように構ったり……それなりに消費している。
「疲労が……体力的には問題ないのに疲労が……精神的な疲労が……」
意地を張り過ぎた。
「しかもなんか、疲れすぎたんでしょうか……幻覚が見えて来たんですけれど」
棒のようになった足を進める。真っ白な朝靄の中、その向こう側に古いお屋敷のようなものが見えて目をこする。消えない。屋敷はそこにある。
しかしこの山に山小屋みたいなものはなかったはずだ。有志が作ったマップにも描いていなかったし……もしあのマップが偽情報なら、掲示板でそれなりに言及されているだろうしなあ。
なのに、どうしてか目の前に立派な屋敷がある。
「幻覚では、ないぞ……」
「え、本当に? どういうことですかこれ?」
「地名を……見てみるが、いい……」
「えっ、レキはなにか知っているんです?」
「ケイカ」
「あ、はい」
古ぼけてはいるが立派なお屋敷と、その手前……つまり私達が立っている側に大きな門がある。門の表札はなにも書いていなくて、名前も分からない。けれども、メニューから現在地のマップを呼び出せば地名は分かるのだ。
「えーっと……」
【現在地: マヨヒガ】
「迷い家!? えっ、嘘ぉ……」
どうやら迷いに迷った末、私はなんらかのトリガーを引いてここに来ることになったらしい。
誰にも見つけることができない、赤ん坊を連れた魔獣の住処。それはつまり、普通では見つけられない場所にある、ということだったのだろう。
これは偶然だ。しかし、監視の目もない状況でここに訪れることができたのは恐らく幸運だろう。依頼人の思惑など関係なく、くだんの魔獣と話をすることができるからだ。
さて、現在『マヨヒガ』の報告は掲示板でも見たことがないわけで……未発見マップだよねこれ?
「報告をかねて、こんなときは配信ですね!」
迷いに迷ったが結果オーライ!
挫けず頑張ろう!




