そろそろ私もキレていいのでは???
「ということで、まずは挨拶代わりに通報します」
「うん、落ち着きましょうかケイカさん。待って?」
出会い頭に笑顔を浮かべて攻防する。
メニューに出てる通報ボタンに伸ばした手をストッキンさんが押さえつけ、リアルだったら青筋が浮かんできそうな力の拮抗を実現している。私も彼も力の能力値が平均以下なので似たり寄ったりな筋力しかないのだ。
こちらは笑顔で、対するあちらも引きつった笑顔のまま言葉を紡ぐ。
「やだやだ通報します。これは私からの愛情表現ですぜひ受け取ってください」
「そう言われると受け入れたくなっちゃうのでやめてくださいね?」
「さすがに気持ち悪いです」
「推しに言われると傷つくのでやめてください」
チッ。
「ならストーカーしないでください」
「申し訳ございません」
「そこは謝るんじゃなくてやめる方向にしましょう?」
私正論言ってるよね? え、私の言ってることまともだよね? なにこの変態野郎。
なお、聖獣達はお互いの相棒が大変だなとばかりに挨拶し合っている。せめてこの変態を止めてくれ。
「そもそもですよ、どうしてカメラ機能を使えているのですか? 今は撮れないはずじゃありませんでしたっけ?」
「あはは、偶然ですよ偶然」
「答えろ」
「あは……怖い」
敬語をかなぐり捨てて睨む。
ああん? いてこますぞコラッと心の中では思っているが、表には出さない。はしたないからね。笑顔だ笑顔。誰かが言っていたじゃないか。笑顔とは本来捕食者の顔で、威嚇とかの意味もあるとかなんとか。うろ覚えだけど。
心なしか幸せそうにしながら青ざめてみせるという器用な表情変化をさせながら、ストッキンさんは観念したように手を上げた。
「聖獣との視界共有をして、その状態で画面内録画をするのは、機能面でのカメラやビデオの使用とは別機能なんですよ。あくまでスキルですし。だからカメラ封印はまだされてます」
「裏技……抜け道……ってやつですか」
「え、ええ。どうしても気になってしまって」
「なんですかその執念気持ち悪っ」
「二回も言われてしまった……」
しょんぼりしているストッキンさんは置いといて、これはあとで通報か? と思案する。いや、スキルの制限までするとなると細かい処置となって運営もやりづらそう……というか、こいつが反省していればいいだけの話だったんだけど。
「せめて許可を取ってください。いいですね? 約束できますか? じゃないと今度は本気でBANのための証拠集めを始めますからね」
「はい……寛大なお慈悲をありがとうございます……」
「いい加減にしてくださいね。私としても、利用できる生産職がいなくなると困りますから。でも、だからといってそこにつけ込んで好き放題できるとは思わないことです。大嫌いになりますよ」
「大嫌いになりますよ……って、可愛いですね」
「ああ?」
「申し訳ございませんでした」
綺麗な土下座が決まった。
そこで本題に入る。
「で、録画をしていたのはどの子です?」
「はい……それでは、出てきなさい『ロウ』」
ひょこっと私の影から白い耳が二本飛び出してくる。
そして勢いよく影から跳ねて出てきたのは帽子をかぶった子供くらいのサイズのウサギ。ピンク色の目はペロペロキャンディのようにぐるぐるで、どこを見ているのか分からないような瞳をしている。
「ルナティック・マーチ・ヘアー。三月兎の『ロウ』です。影の中に潜るスキルがあり、隠蔽も得意なので情報収集とかに出てもらっていることが多い子ですよ。この子と感覚共有をして、録画を撮っていました」
「それでは、録画を見せてください」
「……」
「消さないであげますから見せてください」
「はい」
ロウはなんのロウかな? 正義のロウ? 可愛いは正義的な?
しかし、これは多分ストッキンさん的に見せたくないなにかもあるな。
渋々返事をして画面を映し出す彼の隣に行き、画面を覗き込む。
そこに映し出されていたのは、地面から見上げた私の生足で――。
「これ終わったら消しますね」
「ああ、そんな目で見ないでください……」
つまりだ。ウサギの名前はローアングルのロウだった。
とんでもない暴言が出てこないだけ、私の口はまだマシだと思うんだ……。
さーて、ストッキンさんをしばき倒すのは後にして、樹上にいたなにかの正体は……っと。
どうして変態はこんなに変態になってしまうのだろう(哲学)




