おしゃべり道中録
さく、さくと山の中を歩き回る。まずは山道から、と先日散々舞を捧げた日ノ見櫓の場所までをだ。山道から外れるのは、最初に正道を行ってからにする。
「すまない……」
「いえ、まだ小さいですし」
歩くスピードに難があるレキは、私が胸の前でよいしょと抱えて歩いている。重さを気にしなくていいように、設定で感じる重量を半分にしてあるから大丈夫だ。
「そういえば、レキはキッチョウのままなんですよね。進化したり、神獣になる場合はいったいどのようになるんでしょう」
山頂を目指しながら、ふと疑問を口に出す。カメは蛇系統からの進化系なので、キッチョウは既に進化済みであるのと同じだ。それもボスだった頃の姿形そのままに。いくらレベルリセットで弱体化しているとはいえ、彼はかなりの有能さを発揮している。
有り体に言えば、これ以上の姿に進化することが想像つかなかった。
「ふむ……玄武へと、至る……こともできるが、このまま……聖獣から、神獣へと……神格を、あげる、ことも……できる……。全ての聖獣は……条件を、満たせば……そのままの、姿でも……神獣の、称号を……得ることは、できるのだ……その代わり、姿の変わる……進化をしなければ、身体能力などは、上がらぬ」
たっぷりと時間をかけて、なおかつ丁寧に説明をしてくれたレキの甲羅を撫でる。なるほど? 名前の頭についている『聖獣』の部分を、条件をしっかり満たせば『神獣』に変えることができると。
これも信仰が関係しそうかなあ。
それならば、もしかしたら未進化の状態で信仰を上げ続けたら初期ニワトリ。カッコ神獣カッコ閉じみたいになるのか。進化の際は共存者であるパートナーの許可が必要となるし、進化をキャンセルし続けたらそれも可能かもしれない。
だけれど、強くなりたいと願うこの子達に……そんなことをするのはあまりにも酷だよなあ。右にアカツキ、左にシズクと両肩からの視線に頷く。
この情報、聖獣とお話しすることが出来る人は持ってるのかな? まとめでは特に見たことがないのだけれど……AIとはいえ、みんな役に立ちたい! 好き好き大好き! って主張してくるから、この方法を試すのは倫理的にこう……なんか嫌だよね。そういう人が多いから、この情報が出回らないのかな。
もしくは、これを知っているレキのほうが珍しい、とか。
んー、意外とこれ。あるかもしれないぞ? 私は賢いんだ。集中して一晩頑張ったとかなんとか言ってたが、そもそも難易度のバカ高い、季節違いの植物を同時に育てるとかいう品種改良ができてしまったくらいだ。絶対有能だもんこのお爺ちゃん。
「……人には言わないでおきます」
「ときが……来れば……情報も……開示される、だろう」
「そうですか」
なにかのイベントとかで使うのかな?
「くーん」
「オボロ、魔獣はいる?」
「ひゅんっ」
オボロはぴすぴすと鼻を鳴らしながら首を横に振った。魔獣を探してもらってるんだけど、山に入ってから一度も見かけていない。進化イベントのときはあれだけたくさん襲撃してきたのに、だ。絶対におかしい。この様子はゲームとしては異常だ。モンスターが出現しないだなんてことは普通、ありえない。
だから魔獣がいない理由もなにかあるはず……それがなにかはまだ分からないけど。ともかく山頂に行ってから探索は開始だ。
……そういえば、ただのカラス相手にも襲撃してきたんだっけ。
「その辺になにか鍵があるのでしょうが……なぜなんでしょうね」
不気味なほど静かな山道で、わずかな恐怖をおしゃべりすることで誤魔化しながら、私は土を踏みしめた。
うーん、感じる視線は……多分ストッキンさんかな。
だからストーキングはやめろというに。
メッセージを起動して「ストーカーやめてください」と苦情を送る。
『すみません。ちなみにどこから視線を感じますか?』
歩きつつ、返ってきた言葉に首を傾げながら返信する。ずっと頭上をシズクやアカツキが気にしているのだ。多分そっちだろう。オボロは私にぴったりとくっついて離れないし……警戒しているのかな。
どうせストッキンさんの仕業。そんな風に思っていた私は、次のメッセージで凍りついた。
『わたくしの聖獣は影の中に潜んでいるので背後です。気をつけてください、多分頭上のは違います』
#神獣郷こっそり裏話
最近ケイカは、妹達に神前舞踊の真似をされてすごく恥ずかしいし困っているらしいですよ?




