ミッション『赤ん坊を連れた魔獣を追え!』
宴会の約束をして数日。
「さーて、なにかありますかね」
私は再びヒノモトに来ていた。
アカツキの能力は進化してもあまり変わることはなかった。その代わり、これから取ることのできるスキルが増えていた。
太陽属性の上級スキルに関しては選り取り見取りだったから、しばらくはなにが必要か考えつつ様子見だね。このスキルが必要になった! というときに、スキルを取得するためのアイテムがなかったら意味がないからね。
しっかり節約しつつ、必要なときに必要なだけ使う!
それが節制の極意だ。
なお、いつのまにか半分以上減っていることのあるお金はこれに当てはまらない。アイテムの節約はできるのになあ……おかしいなあ……。
今度ルナテミスさんのところの猫喫茶で宴会することになったので、ストッキンさんにはそのときに盗撮している手段を見せてもらうことになった。多分聖獣が私についてきてるんだろうけれども、姿を見たことはない。どんだけステルス機能が高いんだ。
撮られていた動画はチャンネルのほうに投稿してあるが、今回も好評で嬉しくなってしまう。
もうすぐスキルモーションコンテストの結果も出るらしいので、そちらも待機中。あとは次のイベント告知とかあるといいんだけど……それはまだ少しかかるのかなあ。音沙汰がない。細かい機能調整とかメンテナンスのお知らせはあるんだけどね。
「さてさて、久々にまともな依頼かな? いや、依頼ってやったことあったっけ……」
神獣郷オンラインには普通のゲームのようにクエスト・ミッションと呼ばれるものがある。
クエストのほうは本来の意味に近く遠征や魔獣の対処、採集依頼などのもの。プレイヤーが任意で受けるか受けないかを決められる場合が多い。完遂できなくてもそれほどデメリットがないタイプの依頼で、初心者向け。
逆にミッションは半強制的に課される任務に近い。『緊急』のものとか、受けるならばクリアしないと大きなデメリットがついてまわったりする。
どちらかというとイベントなどに付随してくるタイプのものだ。
たとえば、私がミズチ戦のあとに受けたリリィに関するストーリー。あれがちょうど『ストーリーミッション』だった。受けるか受けないかは選べるものの、あれを受けていなければリリィの店は今でも法外な値段で清水を売っていたことだろう。
簡単なクエスト。そしてストーリーに密接に関わるミッション。
この二種類がいわゆるギルドってやつでも受けることができる。
ヒノモトの場合は旅館みたいな施設だった。
ギルドとしての受け付け、立ち入りは無料。食事や宿泊、温泉に入るのは有料で大変賑わっている。なお、食事に限り食材を持ち込むと割り引きされる。厨房を貸してもらって自分で料理するなら無料。実に便利な場所だよね!
まあ、その代わり宿泊施設としては人気なほうで、だいたい空き室がないんだけどね……だから始まりの街にあたるアルカンシエルで、私は普通の宿泊施設に泊まっていたのだ。
「あ、まさか貴女は噂の舞姫さん?」
後ろから声がかけられて、周りを見る。舞姫っぽい装備をしているのは私だけである。
「あの、私ですか……?」
「ええ、ケイカさんですよね? 共存者の! 太陽の試練を受けたらしいと聞いたのですが、本当ですか?」
振り返って、そこにいたのはいかにもイケメン! って感じの金髪の好青年だった。見たところ、体のどこにもプレイヤーの証である『太陽の紋様』がない。NPCっぽい……かな?
まさかまさか、NPCにまで認知されているとは。動画で信仰心集めて有名になっているからかな?
どうやらここのAIは箱庭の中で学習しながら生きているような状態らしいので、別に運営からの小細工とかがなくても、ゲーム内で噂になっていれば知識として得ることもある。多分そんな感じだろう。
「ええと、私になにか?」
ファンサでもする?
「実は、貴女に受けてもらいたい依頼があるんですよ。その代わりにこの宿の一室をお譲りしますよ。一番広い部屋なのでそいつらものびのびできるでしょう」
ふうん、なるほど。『そいつら』……肩に乗っているアカツキや首に巻かれているシズク、オボロにジンと視線を流した男に少しだけムッとしたが、眉を寄せたのは一瞬だけ。すぐに満面の笑顔に変えて対応した。
「まあ、本当ですか? 一番広い部屋だなんて、素敵ですねえ。お話は聞かせていただきましょう。それから決めます!」
嫌なものに対応するときも笑顔で。見る人が見れば内心でイラッときていることにも気づかれるだろうけど、この人はそういう細かいところは気がつかないタイプらしい。
なんとなく、いやーな予感がするんだよねえ。
胡散臭い。こういうイケメンってだいたい悪役なんだよ……偏見だけども。
「それでは、こちらに。ちょうど依頼を張り出そうと思っていたところでしたから、運が良かった!」
「そうですかあ〜」
男が差し出したのは一枚の写真。
映っているのは、ブレてはいるが目が片側に二つずつついている狼のような魔獣の姿。しかも、魔獣はどうやら、カゴのようなものを口に咥えているみたい。
「このカゴの中に、どうやら赤ん坊がいるらしいのです。目撃情報がありました。ですから、どうかこの危険な魔獣から赤ん坊を取り戻していただきたい!」
男が言って、視界の中に大きく文字が表示された。
――――――
ミッション『赤ん坊を連れた魔獣を追え!』が発生しました。
ミッションを受注しますか?
――――――
絶対これ、ろくな依頼じゃないだろ。受けるけどさ。
人のいい笑顔でニコニコとしている男は……言うだけ言って、名乗りもしなかった。
ということで新章開始です!
そして、お知らせを!
一枚絵を依頼している絵師様より、ケイカの羽織りの下がどうなっているかの設定画をいただきました!
一応、完成品でないのでTwitterURLだけ載せておきますね。気になったかたはぜひご覧になってください!
https://twitter.com/shigureookami/status/1269091199270350848?s=21




