紫色の楽園 藤ぶどう庭園の完成!
疲労困憊で屋敷に帰ってきたら、目の前に紫色が広がっていた。
「う、わあ……!」
思わず声が漏れる。
緋羽屋敷の中庭。ちょうどレキが庭園として開発を進めてある場所。
そこには一面の藤棚と、その下に垂れ下がる、たわわに実ったぶどうという景色があった。
待ち望んだ景色だ。
それも、私達を出迎えるように咲き乱れる一面の紫。反対側には色とりどりの紫陽花まであって、完全に季節感が狂ってはいるが、一度はぜひ見てみたいと思っていた絶景が広がっている。
そして、縁側に佇みながら首を伸ばしてこちらを見る一匹のカメ。
この景色を実現させた功労者である。
「おかえり……なさい」
「ただいま、レキお爺さん!」
ゆったりとした口調。慈愛に満ちた声。アカツキの足が三本になっていることを視認して、ゆっくりと「おめでとう、アカツキ……殿」と声をかけるお爺さん。
アカツキもお爺さんの甲羅の上まで飛んで移動し、クチバシを寄せて挨拶をした。神獣となったから、アカツキの飛行したあとに太陽の光の残滓がオーラとして残る。隠密には向かない状態になってしまったけれど、ものすごく素敵なので文句はない。
それに、どうせ運営さんのことだからオーラを一時的に切れるようにするアイテムかなにかがあるだろう。
「レキ、成功したんですね!」
「ああ……お前達、の……ことが、気になって……眠れず……夜を、明かして……作業を、していた……ら、天に……祈りが、通じた……ようだ」
庭園の状態を見ようとメニューを開いてみれば、庭の名前が『藤紫色の庭園』になっている。紫系の花が乱れ咲きする庭園として登録してあるみたいだ。
よく見れば、紫陽花以外にも菖蒲や桔梗、躑躅なんかも咲き乱れている。
嘘でしょこれ全部レキがやったの!?
あ、しかもレキのステータスに『品種改良Lv5』のスキルが増えてる!
完全に季節感無視で咲いている花達だけれども、ゲームならではの光景だと思うと素敵だなあ。
……そういえば、庭園の景色設定って、こうして自力で品種改良しながら作る場合と、買う場合があるんだっけ。しかも、プレイヤーが作った景色のデータを、運営に申請すれば売ることも可能。売ったお金は、動画の広告料やら投げられるお布施と同じように現金に変換可能だとか。
そうすれば妹達にも神獣郷オンライン、買ってあげるお金できるかなあ。
家計を支えることもできるようになるし……自由にしていても怒られない環境を作ってくれてるんだから、少しは恩返し、したいよね。
ちょっと考えておこう。
「ですが、すごいですね。まさか一晩でこんな……さすがはレキです」
「カメの、甲より……年の功。どちらもあれば、最高……だ」
沈黙。
「……もしかして、今のダジャレでした?」
「………………いや」
ああ! めっちゃしょんぼりしてる!?
「あーごめんなさい! 気が利かないパートナーでごめんなさい!」
「…………」
むすっとしていらっしゃるー!
お爺ちゃん悲しまないで! ごめん! 本当にごめんってば!
しょんぼりしているレキの甲羅を撫でながら、庭園に視線を向ける。
そこではオボロとジンが大きなカゴを背負って歩き回り、アカツキのクチバシとシズクの低威力アクア・ブラストによって切られて落ちてくるぶどうを回収していた。
そんなことをしたら普通は潰れそうなものだが、あれは素材アイテム化するので、カゴや地面に落ちて質が落ちたりすることもない。
ぶどうでジュースを作ったり、ジャムを作るのもいいなあ……。
考えながら、脳内でネットを開いてぶどうを使った料理を検索する。
……と、あれ? ストッキンさんにルナテミスさんからのメッセージ?
ええと、嫌な予感がするのでまずはルナテミスさんから。
――――――
神獣進化おめでとにゃん!
掲示板にゃあ、大いに盛り上がってるよ!
よければ、今度ミーの店でお祝いするにゃあ!
空いてる日があったら教えてにゃん! 待ってるよ!
――――――
なるほど、お祝い!
それは嬉しいなあ。でも、ルナテミスさんのことだから、多分儀式について聴きたいから呼んでくれてるんだと思うけど……その辺は貪欲だし。
まあ、あけすけに打算ありきって分かっちゃうのも嫌ではないけどね。そういう人だって分かってるし。仮にもランカーだもんなあ、あの人。
さて、もう一つはストッキンさんか……。
――
まずはアカツキくんの進化おめでとうございます!
さて、本題ですが、ケイカさん。アカツキくんの進化に夢中でスクショも動画も撮っておられないでしょう?
動画を撮り忘れているご様子だったので、わたくしのほうで代わりに撮影しておきました。
羽織りの色変わりも中々素敵で、一晩中目が離せませんでしたよ。
わたくしが掲示板に動画を貼るのはお門違いですから、このデータをどうするかはケイカさん次第です。
【録画データ0138526】
それでは、また今度会いましょう。
――――――
うん!
この前注意したのに懲りてないですよねこの人?
今回ばかりは本当に動画を撮るのも、スクショするのも忘れていたのでありがたいんですけども! それとこれとはまた別ですよね! うん!
私、さすがにこれはアウトだと思うんですよ!
メニューを開く。
さて、どうしてやろうかな。
まずは通報から。
◇
後日、ストッキンさんは一時的に撮影機能をロックされたとかなんとか。
さすがにあれだけじゃBANはされないので、意図的に通報した結果である。もちろん情状酌量の余地についても運営に問い合わせて書いたのでこれだけで済んだというわけだ。
お、メッセージ。反省文でも書いてきたかな?
――――――
注意と撮影禁止だけで済ませていただき、ありがとうございます。
申し訳ありませんでした。
今度からは許可を取ってから盗撮することにします。
――――――
違う。そうだけどそうじゃない!!!
変態は懲りない生き物なんだなと、いらないことを学ぶ私なのであった。
次回から新章ですよ!
アカツキおめでとうの感想感謝いたします! 嬉しい!




