いきなり難易度高すぎじゃないですか???
大きなお屋敷の門前で一度立ち止まり、扉を見上げる。上のほうに監視カメラのようなものと、呼び出し用なのかインターホンみたいなものがある。和風の雰囲気がこういうところだけ台無しだあ……。
「ケェーッ!」
「わっ、アカツキ?」
突然アカツキがカメラに向かって鳴くものだからびっくりしちゃった。でもただ声をあげるなんてことは普段しないし、なにか目的があったんだろう。クチバシをちょちょっと撫でて、さてどうするかと考える、
しかし、さっきの鳴き声に反応したのか、すぐさまインターホンから応答があった。
『その声は……日の神獣になるための試験を受けに来たかた達ですね? どうぞ、お通りくださいませ』
なるほど、鳥の鳴き声ってことは、イコール進化イベントを受けに来たってことになるのかな? もしくは、あっちに聖獣言語のスキルを持っている人がいるとか。
言われた通りに開いた門をくぐり、奥へ。屋敷の中には、案内をしに来た着物の女性に連れられて進む。すると、一番奥の大座敷に案内された。上座には、恐らく着物の女性と思われる影がある。
上座には御簾という、すだれに似たカーテンがかかっているので姿自体は見えない。だから、女性かどうかも本当はハッキリしない。そう反断したのは、上座に座っている人物の影が小柄だったからだ。
想像していたものよりも、ずっと影の大きさが小さかったので、もしかしたら大人ではないのかもしれない。女性か、少女か、少年か、そのくらいの見た目だ。見えないけれども!
「よくぞお越しくださいました。わたくしが日巫女です。本日は、そちらの子の進化のお話……ということでよろしいでしょうか?」
あ、やっぱり声が女の子。
「……」
私の隣にちょこんと座るアカツキと視線が交わる。
位置取りは、私の隣にアカツキ。後ろにオボロとシズクとジンが大人しくお座りしている状態だ。メインはアカツキだからね。
さて、ロールプレイを頑張らなくちゃ。
「はい。こちらの街ならこの子が神獣様へ至ることができるのではないかと、虹の街より参りました。本当に、ここなら太陽の神獣となることができるのでしょうか?」
イベントは……この様子なら別に秘蔵されているわけではなさそう。
なぜ誰も辿り着いていなかったのか疑問はあるけれど、ラッキーとでも思っておけばいいかな。
「ええ、わたくしの言う手順で舞を納めれば必ず、その子は神獣へと至れるでしょう」
「……僭越ながら、質問をさせていただきたく」
「構いません、言ってみなさい」
「わたくしども共存者の数は膨大。しかし、この街の伝承のことを知ったのは人伝ではなく、本からでした。知ろうと思えば、知られるもののはず。しかし、わたくし以外にここを知る人を見たことがございません。それは、なぜなのでしょうか? それとも、儀式を終えたら秘密にするものなのでしょうか?」
要約すると、私だけこのイベントを知ったのはなんで? 普通検証班とか、他の人が見つけててもいいはずたよね? って話だ。
御簾の向こう側の影は少し間をあけてから言った。
「お主には鳳凰殿からの印が見えます。対価を払い、鳳凰殿に進化の秘法を尋ねたことでしょう。この街でのことは、神獣へ尋ねなければ、容易に進化の秘法に辿り着けなくなっております」
あっ。
脳裏に蘇るのは、ぼったくりレベルで持っていかれたキャンディの数々。
つまり、神獣に尋ねた場合にしかヒントが示されないし、そうしなければイベントのヒントを探すのにもっと時間がかかったり、難しい試練が待っていたりする……みたいな?
よかった! あのぼったくりにも意味はあったんだね! よかった! 無意味じゃなかったー! 思わず感動の涙でも出そうになる。完全にぼったくられただけだと思っていた。
鳳凰さま……疑ってごめんなさい。私、鳳凰様のファンになります。信仰を捧げます……!
心の中で祈ってから話を続ける。
「そのお話は他の共存者にも話して良いものでしょうか?」
「……おや、それを訊いてくるとは思っておりませんでした。貴女は律儀ですね。ええ、構いません。遠回りするか、近道するかの違いですから」
「ありがとうございます」
いや、だって、ねえ?
情報は確かに、勝手に発信すればいいだけなのだけれど……相手がNPCだと分かっていても、こう完全に会話が成立するキャラ相手だとなんとなく罪悪感がわく。
駅とかスーパーのAIレジではここまで流暢に喋ってくれないわけだし。雑談なんてできようもない。介護ロボは結構AIの性能がいいとか聞いたこともあるけれど、学生の身じゃ見る機会もあんまりないからなあ。
「それでは、私はこの子のためになにをすればいいでしょうか?」
「案内をつけます。山の頂上に『日ノ見櫓』がありますから、そこに進化させたい子と共に登り、櫓の東側に止まり木があるので、その子をとまらせてください。他の聖獣は櫓の下で、日の出まで魔獣の襲撃から共存者と進化する聖獣を守り続ける必要があります。進化する聖獣は決してその場を動いてはいけません。動いたら進化はできません。なにがあっても、舞を捧げられる立場にいなくてはなりません」
ここまで聞いて、既に難しいな……と感じている。
ものすごくシビアだ。
「舞の型は」
「このあと道場へお連れいたします。そこで舞の型を覚え、必ずスキルとして身につけてから櫓に登ってください。でなければ失敗となります」
シビアだ……。視界の端に『舞の最中にアイテムの使用は可能です』『スキルのオートモードも使用可能です。使い分けて休憩を取ってください』という文字が浮かび上がる。それから、『事前にリアルでの水分補給、食事、お手洗いなどを済ませてから挑んでください』と赤い警告文字が出た。かなりの長丁場となるからか、ゲーム側の忠告がたくさん出てくる。こわっ。
だってゲーム内時間で一晩中ということは、リアルだと二時間くらい……か? ゲーム内の夜から夜明けまで、ずっと同じ舞を続けていなければならない。しかも、アカツキと私は下で自分の聖獣達になにがあっても止められない。
レベル1のレキを連れてこなくて本当に良かった……それと、蝴蝶の幻という即死無効スキルもあるから、多分なんとかなるだろう。あとはオボロにシズク、ジンを信じるだけだ。
「案内というのは?」
「カラスです。レベル1の、導くことしかできないカラスですので、護衛しながら頂上までついていってください」
護衛クエストまであるの嘘でしょ嘘すぎない? いきなり難易度高すぎでしょ……! アイテムの整理もしっかりやっておかないとなあ。神獣の水薬も5個だけ所持している。舞の合間にアイテムを投げて使うだけなら大丈夫って書いてあったし、使い所を見誤らないようにしっかりしないとね。
「以上ですが、もう一度話しますか?」
「いいえ、大丈夫です。舞の型を教えてください」
「分かりました。では、そちらに」
真横にあった襖が開く。その奥の襖も次々と開いて行って、奥に渡り廊下が見えた。なんだこの不思議な造り……。
「ありがとうございます、日の巫女さま」
「貴女に太陽の加護があらんことを……御武運を祈って待っております、共存者様」
一礼をして、私はイベント用の舞のスキルを覚えるため、その部屋から出るのだった。
屋敷の中の構造が物理的に謎な造りになっているの、ゲームとか創作系特有の現象ですよね。
ノベプラ大賞一次審査通過。このまま順調に通過できればいいなあ。書籍化できたら嬉しいです。




