屋敷がどんどん進化していくのですが
私が緋羽屋敷に帰ると、屋敷の庭は一面桜が咲いていました。
まさか、まさかの!? リアルだと夏なんだけど……いや、ゲーム内だからなんでも育てられるのは知っていたけれども!
まさかこれって。
「レキが……?」
呟くと、いつのまにか足元までやってきて「おかえりなさい」と鳴き声を口にするオボロやジンの姿があった。
シズクとレキはそれほど移動速度が速くない。恐らくこの見事な庭のどこかにいるだろうと、足を踏み出した。
さくさくと庭園の中を歩いて果樹園と化している一角まで足早に移動する。
するとその一角の上にだけ小さな雨雲が浮かんでいることに気がついた。
「シズクのヒール・レイン? あれ、いや、恵みの嵐ですか……? 規模が……」
「しゅるるう」
ステータスを確認してみたものの、ヒール・レインではなく恵みの嵐というスキル名のままだ。
スキルの出力調整? 果樹に対して雨を降らせて成長を促しているように見える。まあ、大規模のままだと普段使いづらいし……あ、違うな。もしかしてシズクが今ペット化アクセサリーで小さくなっているから、威力も体に合わせて低くなっているのかな? それだったら納得。この辺、あとで検証スレにでも疑問を投げてみようかなあ。
なお、自分で検証するつもりはない。進化イベントやるのが先だ。
「レキ、調子はどうですか?」
「ケイカ……見よ……この、見事な……桜と……枝になった……桃を」
「へえ、すごいですね。薄ピンク色の桜と、桜の花に紛れてついた桃が綺麗……桃!?」
スルーしそうになってから声を上げる。
いやいやいや、びっくりするでしょう! 桜に桃がなってるってなに!?
「よき……景観……だろう」
「ええ、綺麗ですけれども。桜にはさくらんぼでは?」
「別の……植物でも……似合うなら……合成、して……育成……できる。季節が、違うと……失敗、しやすい……」
「ほほう、つまり何度もやってみて、成功さえすれば藤棚に葡萄がなっているような光景も観れると」
「そう……だ……やって、みるか?」
「正直見てみたいですね」
「承知……した。努力、しよう」
レキお爺さんは快く頷いた。マジですか。難しいって言ったそばから、私が望めば挑戦してくれるのか。なんていい亀さんなんだ……。
「あ、じゃあその前にお写真撮ってもいいですか? せっかくの春仕様ですから」
「よきかな」
たくさんの桜と、ところどころになった桃の実の下で全員集まり、記念写真モードで撮影する。記念写真モードなら撮ってくれる人がいなくても俯瞰で撮れたりするので、フレンドがいないソロでも活用できる。
今度ほのぼの動画を作るときのサムネイルにでもしようかなあ。
「園芸代はどれくらいですか?」
「現所持金……の、三割程度、だなあ」
「うっ」
結構するなあ。私はどちらかというとエンジョイ勢だから構わないけれども。アクセサリー類や装備はまずストッキンさんに持っていってカスタマイズしてもらうし、アイテムもジェム・ツリーをマラソンしていればある程度は手に入る。
ヒール・レインの上位スキルである恵みの嵐なら、多分レキの言っていた神獣の水薬も作れるだろうし、今のところ店売りにないのだから売ればお金は手に入る。
ただのヒール・レインで作るよりも上位スキルの恵みの嵐を使ったほうが、アイテムの質も上昇しそうだ。というか上昇してくれないと困る。
「桃は収穫可能ですか?」
「大丈夫……だ」
レキに確認して桃をひとつもぎ、アイテムとしての性能を調べる。
わお、ランクB。一般的なソーシャルゲームとかのランクと似た構造なので、最高位がSで、その下がAとなり、さらに下がB。一番下がEである。
つまり、この桃は三番目に高いランクだ。普通にフィールドで採取した場合はDランクかEランクが多く、良くてCランク。これは、育てるのを続けていけばSランクの果物ができるかもしれない。
ランクの良い食材を使えば料理の完成品のランクも上がって、効果も上がる。いいことしかない。レキはいい仕事をしてくれた!
「レキ、君自身のお手入れはどうしましょうか?」
「……タライと水。そして……甲羅を、ごしごし……拭いて、おくれ」
「はい、分かりました。強めの洗いかたと、やんわりとした洗いかた、どちらがいいです?」
「甲羅の汚れを……取るために……強めで、頼む」
「よしっ、任せてください!」
自分達のブラシを咥えて順番待ちをする聖獣達を、横目にチラリと見る。
レキ専用のタワシでも買うべきだろうか……。
その日一日は、こうして庭園について話し合ったり、のんびりお手入れをして過ごしたのだった。
次回、衣装の受け取りはダイジェストにしてようやく、新たな街で進化イベントをこなす話となります。




