レキお爺さんは果樹育成がしたい
「レキー?」
ヒノモトへ辿り着いて私がした行動は、真っ先にワープで緋羽屋敷にとんぼ返りすることだった。
砂利を踏んで鳴らしながら元キッチョウことレキを呼ぶ。
出発する前に果物の木やらなにやらを植えて来たわけだが、見事に成長して花をつけている。あと一日経てば果物も収穫できるようになるだろう。和風な屋敷だけれど、不思議と果樹があってもマッチしているように思う。
屋敷の中を探し回ったがいない。
なら外かな? と思って果樹のほうへ向かえば、のっしのっしと頑張ってこちらに来ようとしている亀が視界に入り込んだ。
「レキ!」
「足が、遅くて……すまぬ……」
「喋ってる!?」
「……? 喋る、が」
びっくりして腰を抜かしそうになった。
いや、だってジンは喋らないし! レースの最後に喋ってたはずなのに、仲間になってからはそんなことまったくないよ!? スキルの問題か……?
「ワシ、は……キッチョウ、の……まま、だ……スキル、も……同一、だ」
「ああ、そういえば亀は蛇からの進化なんでしたっけ。なら、亀のままということは、いちからやり直しというわけではなくて、レベルリセットされて弱体化だけしている状態ということになりますか?」
「そう、だ……」
相変わらずのんびりとした喋りをしている。聞き取りづらいんだけど、分からないわけじゃないので別にいいかな。
「それじゃあ、ステータスを見せてくださいね」
「あい、分かった」
のっそり歩くレキを抱きかかえ、縁側まで連れて行く。ちょっと重いが、まだ小さい亀なためなんとか持ち上げることができた。サッカーボールくらいの大きさだからね。五キロくらいだろうか……?
これが海亀サイズになったら持ち上げられるかどうかは怪しい。私非力ですし。
縁側にレキをおろして隣に座る。それから庭で遊び始めた面々を見つつステータスの確認を始めた。
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名前: 【レキ】
種族: キッチョウ
属性: 太陽・雨
レベル: 1
体力: 100
S P: 90
ステータス:
力: 10 防御: 40 敏捷: 0 器用: 5 霊力: 40 幸運: 5
状態: 健康
感受性: 10
信頼度: 10
忠誠度: 10
信仰度: 0
スキル
【玄武の加護Lv1】【樹木操作Lv1】【雨降らしLv1】【ソーラー・ブレスLv1】【人間語学Lv2】
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防御と霊力の二極特化かあ。
というか敏捷ゼロで笑った。ごめん。仲間だね。
「樹木操作、は……レベルが下がって……スキル名、が、変わって、おる。元は、樹木竜操作……だ」
「ふんふん、上位スキルが下位スキルになってる感じですね。そうだ、レキ。なにか要望があればスキル増やせますよ。アカツキの進化までは申し訳ないんですけれど、こっちで待機になりそうですし……庭を使ってスキルの鍛錬していても大丈夫なようにしておきますから」
仲間になれたのはいいけれど、さすがにレベル1の状態でアカツキの進化の儀式しに行くのに連れて行くわけにはいかない。先に一晩中舞い続けるという情報を知っているのだ。絶対舞い続ける以外にもなにかあるでしょ。たとえば、その間ずっと魔獣に狙われ続けるとか。防衛戦みたいな感じ。
レキは「うーん」と首を伸ばしながら考えている。そして、視線が果樹のほうへと向いたかと思うと、ひとつ頷いて言った。
「果樹育成……スキルが、ほしい……のう。ワシが……立派で、質の良い……果樹を、作って……やろう」
「え!? それでいいんですか!?」
「よい、よい……」
遠慮してるわけじゃないよね……?
でもキッチョウってば、戦うよりも園芸しているほうが似合うといえば似合うんだよね。
「それに……ワシの体、の樹を……育てる……のにも、便利、だ」
「そうなんですか」
「早く……成長すれば、神獣の、水薬も……たくさん、作れる」
「君、本当はサポート特化なんです?」
「そっちの、ほうが……好きだ」
なるほどねえ。なら、要望通りにするのが一番かな。
そう考えて太陽属性ビットをアイテムボックスから取り出し、レキに使用する。覚えるのは【果樹育成Lv1】だ。
果樹も質の良いものができれば料理の効果も上がるし、果物を使った薬作りとかをしても質の良いものができる。メリットだらけだし、本人がやる気なのでちょうどいい。
留守番している間の暇潰しにもなるだろうし!
「なんなら、草花の種とか園芸用品だけは君の意思で買えるように設定しておきましょうか? さすがに土地を買って畑にするとかはダメですけれど、この景観を崩さない程度に園芸するのなら許可します。あ、でもお金の半分以上は残して使わないようにしてくださいね」
「良い……のか?」
「レキは頭が良さそうですし、そのほうが私にとっても良いことしかないはず……と判断しておきます」
「ありがとう……共存者」
なんだか喋れる仲間ができるのもいいな。
でも共存者呼びは少しもやっとするので……。
「ケイカ。呼び捨てで大丈夫ですよ、レキ」
「ああ……ケイカ…………このジジイとも……仲良く、して、おくれ……」
「もちろんです」
日が当たって気持ちよさそうに目を細める亀の甲羅に手を伸ばす。
背中から生えた小さな芽が、ほんの少しだけ成長して葉っぱをつけていた。
次回、ストッキンのところへ装備の更新へ。




