新たな街『ヒノモト』へ!
神獣の水薬……聖獣じゃないんだと思えば、どうやらランクの高い回復薬だからそういう名前らしい。とぷんと揺れる透明な液体は心なしか光り輝いているように見えてくる。さすが名前に『神獣』がつくだけあるね。
使用したときの効能は状態異常の即時回復と体力の全回復。それに加えて五分間はずっと体力の5%ずつ回復し続ける。至れり尽くせりの回復薬だ。質のランクも一番高いS。どうやらランクが低いと『体力の5%を回復し続ける』じゃなくて1%になったり、その効果が消えたりするみたい。説明と注意で書いてある情報だ。
それと、これを作る際のレシピ。
ヒール・レインの位置指定をマニュアルでガラスビンに設定。スキルを使用してビンの半分ほどを雨で満たし、アイテムの清水をもう半分に。それからカメ系聖獣の背中に生えた樹木『癒し木』の葉を一枚使用するようだ。
ゲーム的にはアイテム合成で『瓶詰めの回復雨』『清水』『癒し木の葉』を選んで合成すればOKということらしい。
というかヒール・レインってそんな使いかたできるの!? なにその発想!? 普通ゲームでそんなスキルの使いかたしなくない!?
これは……全くの無知からレシピを探るのは難しいはずだ。いくら検証しようとしても、そんな使いかた普通のゲームにないもの。あとでレシピ公開しよっと。
「……ふう、やっぱり丘というよりも山でしたね」
陽光の丘を抜けて息を吐いた。
「くう」
「うぉんっ」
「……」
「にゃん?」
それぞれが鳴き声をあげて急かしてくる。そうだね、もうすぐ夕方になっちゃうね。足早に街まで行かないと暗くなってきてしまいそうだ。
私の頬をすりすりと尻尾で撫でながら、こちらをじいっと見つめるシズクの瞳と目が合う。なんだか『よくできました』って言ってもらえているようで嬉しい。
やだ……私……聖獣に甘やかされてる……?
アカツキもよくやったと言わんばかりに頷いているし、オボロは「乗る? 乗って行く?」と言いたげな顔をして私の前に伏せている。
この子達は私の保護者かなにかかな?
いつも甘えてくるジンも、今日は私に抱っこされるのではなく自分で歩く! と、鼻をふんすふんすっと鳴らしながら主張しているし……親離れですか? 泣きそう。お母さん寂しい。
「……あともう少しなんだし、頑張りますか」
街はもう、すぐそこだ。オボロでひとっ走りすれば十分もかからないだろう。
期待の眼差しで私を見上げてくるオボロの毛を、手で梳いて撫でる。少し毛並みが悪くなっているみたい。これは目的地に着いたら、いったんワープで緋羽屋敷に戻って全員のお手入れかなあ。
オボロの背中に腰掛けて「お願いしますね」と声をかける。すると、冷静にゆっくりと立ち上がってオボロは速足で街に向かいだした。
後ろの方にある尻尾がちぎれんばかりに振られているので冷静に見えていても、その心の中ははっきりと分かる。可愛いやつめ。
丘をくだったあとも林が続いているので、オボロの上で一応注意しながら辺りを見渡す。オボロが全力で駆けていかないのは、ジンが一生懸命後ろをついて走っているからだ。
一緒に乗ればいいのに……と思わなくもないけど、多分早く強くなりたいんだろう。レベルアップやポイントの割り振り以外で鍛えられるかどうかは分からないけれども、やりたいようにやればいいと思う。強くなりたいって気持ちはすごくありがたいことですし。
「……?」
「どうしたの、シズク」
「しゅぅ……」
一瞬、シズクがなにかに反応して顔を向けた。けど、すぐに首を傾げて前に向き直る。首に巻いている彼女の様子が気になって話しかけてみたものの、なんでもないというように首を振るだけ。
「そっか、危険なものじゃなければいいんです。気にしてなくても大丈夫なんですね?」
「るう」
返事をして頷く小さな蛇。
気になりはするけど、人一倍、パートナー達で一番? 警戒心の強いシズクが大丈夫というのなら、大丈夫なんだろう。
気にせず街のあるほうへ顔を向ける。
林の隙間から見えるのは、山の麓にある街だ。最初の街『アルカンシエル』よりもずうっと和風な見た目で、マップを確認すると街の名前は『ヒノモト』となっている。まさかの日本。いや、太陽が一番初めに出る場所云々の伝承があったし、日の元? でも日本じゃん? 日の出づる国。
まあ、それだけアカツキが八咫烏になるためにはお誂え向きな舞台だと思っておこう。
あの街のすぐそばにある霊峰。そこの山頂で一晩中踊り続ける必要があるんだったか。普通に考えると体力的にも精神的にも辛いなあ……。
街に着いたら、真っ先に緋羽屋敷に帰って、レキのステータスを確認して、みんなのお手入れをして……それから情報収集と進化イベントの手がかりを探すことにしようっと。やることが盛りだくさんだね!
――――――
フレンドからメッセージが届きました。
――――――
おっと、メッセージ? 誰かな。
……ってストッキンさんじゃない! どうしたんだろう。
――――――
ケイカさんへ。
実はピニャータイベントの報酬で、熱で色の変化する生地を手に入れたのです。
次のメンテナンスの際に、よければ装備の強化と共に羽織りの部分の装飾として使用させていただいてもよろしいでしょうか?
それから、アカツキくんとオボロちゃんの絆卵があとひとつあれば、対になった扇子のエフェクト効果や、スキル効果を更に上昇させることができるようになります。
ご検討のほど、よろしくお願いします。
PS. 陽光の丘の動画が上がるのを楽しみに待っております^^
――――――
熱で色が変わる羽織り!?
……確かに、炎を使ったり雪や氷で温度が上がり下がりするね……まさか、まさかだよ!
ストッキンさんたら私のツボをよく分かっていらっしゃる。でもそのためだけにイベント報酬を受け取ったってことにならない? これ。まじですか。
もうあの人に足向けて寝れないんじゃないかなあ……変なことしようとしたら、相変わらず通報するつもりだけど。
しかし、これであっちの街に戻るのも楽しみになってきた!
「ふんふんっ」
メッセージの返信を書きつつ、私はワクワクとしながら『ようこそ ヒノモトへ!』と書かれた、新たな街の門を潜るのでした。
>>霊亀のレキじゃないの?
そういえばそうだった(焦り)
>>前に「献身のクーシー」が出ていて、正統進化だと思われている描写があったが、犬は献身じゃないんだよね?正統進化じゃなかったってこと?
その通り。スレ民の考察は当たることもあるし外れることもあります。
街の場所。
前に東って書いてましたけど思いっきりミスだったので北に直しています。東は王蛇の水源じゃん……。
ストッキン。
この人めっちゃ貢ぐじゃんこわ。
次は試練動画がアップされたあとの掲示板回の予定です。
本日記念すべき100話目!
そして昨日レビューをいただいて天高く舞い上がりながら活動報告でお礼を書きました。興味があったら読んでみてくださると幸いです。




