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プロローグ

高坂氷真(こうさかひょうま)という人間はおおよそ誰からも必要とされていないどころか迷惑をかけてしまう存在だ。


俺は家族にさえ嫌われている。そう言われれば大袈裟に聞こえるかもしれないが、それを一番最初に悟ったのは小学生の頃だ。


当時、シングルマザーであった母さんと義父の和彦さんが再婚した。義姉もできて、一人っ子の俺としては喜ばしいことだった。とはいえ、すぐに新たな家族に順応できるほど俺は器用ではなかった。そんな曖昧な関係が一年近く経つと、俺がある事件を起こしてしまった。そこで義父どころか実母にさえ嫌われているということを知ってしまった。


それから中学、高校と進んでも俺は結果的に誰かの重荷になっていたらしい。当時中学校の生徒会長だった義姉には無能な俺の存在は煩わしかったらしい。そして、付き合っていた幼馴染の彼女には愛想を尽かされて、別の男に寝取られた。


高校に入ってもそれは同じだった。地元の人間では中々入れない高校に入学した。少しでも家族に迷惑がかからないように頑張った。その結果、親友と呼べる存在ができた。それでも最後は嘘告白なんてつまらないことをさせてしまった。


勉強やスポーツ、そして、見た目にも気を使い、それなりに努力をして現状を変えようとした。けれど、それらの努力はなんの意味もなかったようだ。


俺は何をやっても無能だから、誰かに貢献するどころか迷惑をかけてしまう。十八年生きてきてようやく気付いた真実だった。


高校を卒業すると同時に知り合いが一人もいない地方で生きていこうと決めた。奨学金を借り、バイトで金を稼いで、卒業したらそこで海でも見ながら悠々自適に暮らしたい。幸い今の時代は自宅で仕事はできる。俺は無能だから、そんなに稼ぐことはできないだろうけど、一人暮らしならなんとかなる。


…と思っていたのだが、俺の未来予想図は受験ができないという悲しいオチで終わった。結果、両親の頼みで受けた滑り止めの私立、修学院大学に進学することになり、義姉の住んでいるアパートに居候させていただくことになった。


とはいえ、俺は義姉にも嫌われている。アパート代はもちろん出すし、掃除洗濯料理に至るまですべての家事を担うつもりだ。じゃないと申し訳がない。そして、お金が貯まったらすぐに出ていく。嫌いな人間と一つ屋根の下で一緒に暮らすなんて想像しただけで辛い。


後、両親が学費を払ってくれたが、これに関しても当然返す。俺の将来のためなんて殊勝なものではなく、ただの親の義務だろう。俺の価値観だと義務教育が終わった時点で親の役目は完了したと思っている。しかも俺は嫌われている。そんな相手に大学進学までお金を払うなんて泥棒に盗まれたのと同じ気分だろう。私立な分、余計に費用はかかってしまうが、それは必要経費だ。大卒と高卒では給料が違う。定年までを考えた時、大学の学費を返して有り余るほどの給料は手に入る。


そして、俺は大学四年間はボッチの陰キャとして生きることを決心した。夢のキャンパスライフは既に灰色にまみれているが、悪いことばかりではない。誰にも迷惑をかけないという意味ではゼロだ。今までの通信簿がマイナスだった分、俺にとってゼロというのは悪くない数字だ。


「本当、なんで生きてるんだろうな」


そんな自嘲気味の言葉を呟きながら、俺は『修文院大学』と書かれた校門をくぐった。

『重要なお願い』

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