第九章☆2050年
2050年。
技術が更に進化して、身体のどこかが欠損した場合、機械の代用で補い、平均寿命がのびていた。少子化は拍車がかかり、障害児や虚弱児の率があがる。
「こんな世界で、本当に幸せなのかなぁ」
翼はぼやく。
変異したウイルスとのいたちごっこ。自然災害が世界規模で頻発。
1980年の翼からしたら目を背けたい現実だった。
「ほら、任務!」
茜が翼をたきつけた。
「あの、あなた、見えてますよね?」
声をかけると、くだんの男はきっ、と睨みつけてきた。
「復讐するのは止めにして、新しい人生を歩みませんか?」
「俺にはもう、何もないんだ!見えていることが行政にバレたら援助が受けられなくなる!その前に奴らに仕返ししてやるんだ!」
プシュ。
男の首筋に針のついた薬剤を押し付ける。
男はくにゃりとその場に倒れ込んだ。
「ハチ。新しい飼い主と幸せにね」
茜がハチを人目につく場所においてきた。
自動で変形する簡易ストレッチャーに男を乗せると、翼と茜は男を連れて本部へ戻った。
「初めてにしちゃ、上出来」
先輩たちがそう言って出迎えた。
「あの男の人どうするの?」
茜が不安そうに聞いた。
「精神医学の権威がこんがらがった思考をほぐして、最善のものにする」
「要するに洗脳するんですね?」
翼が言うと、先輩たちは不本意そうな表情で曖昧にうなづいた。




