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空瓶事件 06 九月十日 火曜日

 放課後、僕は一度神森さんの家に寄ってから、ゆずかちゃんに嫌がらせをした犯人がいるという場所へ歩いて向かっていた。


 『星にお願いする場所』


 それは僕らが住む河部市に住む人間が聞けば誰でもわかる場所だ。

 星願ほしねがい神社。読んで字のごとくとはまさにこのことである。河部市の西側にあるこの神社の歴史は古く、今では河部市最大のイベントである七夕祭りで演武の奉納が行われる、この辺じゃ有名な場所である。といってもそこまで大きな神社というわけでもないのだけれど。ちなみに星願神社は僕や神森さんが住む市の西側、もっと言うのなら神森さんが住むアオヰコーポから歩いて数分、河川敷公園に隣接した場所にある。


 昨日、僕はゆずかちゃんを送っているときに犯人捜しは神森さんと遊んでからにしてほしいと頼んだ。ゆずかちゃんは先に犯人を見つけると言ったけど、僕がその間に見つけてこらしめておくと言うと、「りょぷかいでーす」と神森さんのように頷いた。


 『近づきたいけど近づけない子』この言い回しは変わっているように思えるかもしれない。僕も最初はわからなかった。しかし、小学生、嫌がらせ、という情報とくっつけて考えると、どういう子が犯人なのか想像がついた。昔、姉が言っていたのだ。小学生男子という生き物は好きな子ができると、ちょっかいや嫌がらせをしてしまう生き物なのだと。近づきたいけれど、女子と男子という壁がそれを阻み、結果、嫌がらせになってしまうのだと。


 つまり、ゆずかちゃんの給食袋に大量の牛乳瓶のフタを入れた犯人は、ゆずかちゃんに好意を抱いている子、という仮説が僕の中で出来上がったのである。だからこそ、僕は神森さんの指示に従い、ゆずかちゃんよりも先に犯人に会いに行こうと決めたのである。神森さんが言うように、今のゆずかちゃんが行ったら喧嘩になる。そして、相手がゆずかちゃんに好意を抱いているのなら、関係が悪化することはショックだろうし、可哀想である。


 星願神社に向かう途中、昔ながらの駄菓子屋が目に入った。木造の建物に扉のないオープンな店舗、たくさんの駄菓子に古びたポスター、店主は店の一番奥にいるタイプのやつだ。そんなお店のラムネと書かれたのぼりが目に入った。九月とはいえ、まだまだ暑い。帰りにでも買って帰ろうかな。


 鳥居をくぐると、広い境内は静かだった。誰もいない。大きな木がたくさんあり、まだまだきつい日差しを和らげてくれている。


 神森さんの言葉を疑うわけではないのだけれど、本当にここであっているのだろうか。『星にお願いする場所』=星願神社というのは安直な考えだったのだろうか。


 そう考えながら境内を進むと奥に遊具が見える。ブランコや滑り台といった王道のものだ。確かこの神社は幼稚園に隣接しており、余ったスペースを公園として開放している、みたいなことだった気がする。とにかく、その遊具が置かれたスペースに男の子がいた。木漏れ日の下で一人、ブランコに座ってゲーム機で遊んでいる。どうやら僕の仮説は正しかったようだ。


 僕はゆっくりとその子に近づき、声をかける。


「こんにちは。公園にいるのにゲームとは贅沢だね」


「誰だ、おまえ。弱そうだな」


「見た目ほどは弱くないよ。僕は或江米太、ゆずかちゃんの友達、かな」


「並木の? カレシか?」


「違うよ」


「なんだ、違うのか」


「それで君、名前は?」


「ゆうと」


「ゆうと君、昨日、ゆずかちゃんの下駄箱に何か入れたりした?」


「なんで知ってんだよ」


「今日はそのことで来たんだ。少しいいかな?」


 僕がそう言うと、ゆうと君は素直に頷いた。


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