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最終話─少年魔術師の冒険譚

 フィニスとの戦いが終結してから、一週間が経過した。平行世界の門も閉ざされ、基底時間軸世界に平和が戻った。


 神々と闇の眷属の間で協定が交わされ、しばらく休戦することになった。コリンやリオ、アゼルたちはそれぞれの世界で平和を満喫する。


「まさか、またこうして戦える日が来るとはな。それも、今度は敵同士としてではなく……仲間として」


「そうだね、嬉しく思うよ。さあ、観客のみんなもお待ちかねだし……始めよっか!」


 魔神たちの本拠地、神聖ヴェルドラージュ帝国首都……天空都市リヴドラス。街の一角にある闘技場に、リオとグランザームの姿があった。


 平和を記念し、二人の御前試合が行われるのだ。観客席は満席、魔導モニターで国の全ての街に生中継されている。


「満員御礼、ってヤツだな。みんな、リオとグランザームの戦いが見たくて仕方ねえらしいぜ」


「それはそうじゃ。こんな好カード、もう二度と見られぬじゃろうから……いや、今後は好きなだけ見られるか」


「ムーテューラの姐御も、えらい思い切ったことするよな。まあ、活躍したんだから恩赦を与えるのは当然か」


 貴賓席には、アイージャやカレンたち魔神が勢揃いしていた。そこには、ミョルドやグリオニール、バルバッシュもいる。


 グランザームは今回の戦役での活躍を認められ、死の女神から恩赦を与えられた。ミョルドたちの監視付きではあるが、定期的に現世に行く権利を得たのだ。


「この千年、ずっと夢見てきた。もう一度、貴公と戦える日が来るのを」


「僕もさ、グランザーム。こんなにワクワクする戦いなんて、いつ以来だろ」


「フッ、そう言ってもらえるのは望外の喜びだ。では、そろそろ始めようか。千年の鍛錬の成果、存分に余にぶつけるがいい!」


「もちろん! 全力全開、容赦なんてしないよ!」


 観客たちの歓声があがる中、リオとグランザームの試合が始まる。二人とも、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべていた。



◇─────────────────────◇



「うう、どうなるかな……アーシアさん、大丈夫かな」


「アゼル、少し落ち着いたらどうだ? そんなにソワソワしても、どうにもならないぞ? シャスティが産婆として着いてる、安心して待つといい」


「それはそうなんですけど……」


 その頃、アゼルとその妻たちは宮殿の中にある医務室の前にいた。部屋の中では、少年の妻……アーシアが出産の時を迎えようとしている。


 少年は今日、父親になるのだ。『その時』が来るのを、今か今かと待ちわびている。せわしなく廊下をちょこちょこ歩き回るのも、仕方ないことだ。


「産まれるのが男の子か、女の子か……楽しみですわね、アゼルさま」


「ええ、アンジェリカさんはどっちだと思います?」


「そうですわね……わたくしは玉のように可愛い男の子が産まれると思いますわ!」


 アゼルに問われ、アンジェリカは自信満々にそう返す。すると、近くの椅子に座っていたメレェーナも話に加わった。


「んー、じゃああたしは女の子の方に賭ける! 負けた方が明日のご飯奢りね!」


「こら、メレェーナ。勝手に賭け事をするな。だが、そうだな……私も女の子が産まれてくるのに賭けよう。そういえば、アゼルよ。子の名前は決まっているのか?」


「ええ、アーシアさんと話し合ってもう決めていますよ。産まれてくる子が……」


 わいわい話をしていた、その時。部屋の中から、アーシアの苦悶の声が聞こえてくる。ついに出産が始まったのだ。


 少しして、元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。扉が開き、シャスティが姿を現した。


「よぉ、終わったぜ。母子共に問題はなし、元気な双子だ! 男の子と女の子のな!」


「よかった……無事に終わってよかったな、アゼ……ん!? いない!?」


 シャスティが話している途中で、アゼルは風のように部屋の中に飛び込んでいった。ベッドにはアーシアが寝ており、その手の中に二人の赤子が抱かれている。


「アゼル……産まれたぞ。余と君の子だ」


「アーシアさん……お疲れ様です。ぼくたちの子を産んでくれて、ありがとう」


 出産で体力を消耗したアーシアは、弱々しい笑みを浮かべる。腕の中にいる赤子たちは、元気に産声をあげていた。


 アゼルは赤子の片方をそっと抱き上げ、愛おしそうに見つめる。赤子の左目には、アゼルと同じドクロの文様が刻まれていた。


「左目に文様があるのが男の子、右目に文様があるのが女の子だ。ふふ、まさか双子が産まれるとは。こんな素晴らしい贈り物を授けてもらえるなんて、本当に嬉しいね」


「きゃっきゃっ、あーう!」


「あー?」


「ええ……本当に。本当に嬉しいです。この光景を……兄さんにも、見せてあげたかった」


 そう呟き、アゼルは喜びの涙を流す。そこに、リリンたちもやって来た。産まれた赤子を見て、みな盛り上がっている。


「わぁ、かーわいい! こんにちは、赤ちゃん!」


「頑張ったな、アーシア。ところでアゼル、この子たちの名は?」


「はい、男の子はイゴール。女の子はメリッサ。ぼくの両親の名を、この子たちに付けます」


「……そうか。ご両親やカイルも、きっと喜んでくれているだろう」


 リリンの言葉に頷き、アゼルは息子に頬ずりをする。きゃっきゃと喜ぶ赤子を抱き締め、幸せそうに呟いた。


「ああ、いいな。命って……暖かいなぁ」


 その言葉に、リリンたちはもらい泣きするのだった。



◇─────────────────────◇



「コーネリアス・ディウス・グランダイザ=ギアトルクよ。そなたの此度の働き、まこと素晴らしいものであった。そなたがいなければ、この世界は滅びていただろう」


「身に余るお言葉にございます、偉大なる諸王の皆様。今回の勝利は、私一人によりもたらされたものではありませぬ。全ての者の協力あってこそ、成し遂げられた奇跡でございます」


 暗域では、魔戒王たちによる議会が開かれていた。今日の議題は、コリンの成し遂げた偉業を讃え、どのような褒美を与えるかだ。


「コーネリアス、君にはどのような褒美が相応しいかを全員で考えた。結論から話そう。君を──エイヴィアスに代わる、新たな魔戒王にすることが決まった」


 空中に浮かぶ玉座に腰掛ける王たちを代表し、フォルネウスがそう告げる。空席となった序列第十位の王座に、コリンを据えることで満場一致したのだ。


 コリンは笑みを浮かべ、深く頭を下げる。彼にとっても、不服はなかった。むしろ、予想以上の褒美に心から喜んでいる。


「ありがたき幸せにございます、諸王の皆様。魔戒王の名と地位に相応しい振る舞いが出来るよう、精進していく所存でございます」


「いい心構えだ。今宵は宴を開こう。新たな王の誕生を祝う、盛大な宴だ。さ、これにて議会は閉幕! 各自宴の準備を!」


「おおーーー!!!」


 会議が終わり、コリンは杖をつきながら部屋の外に出る。そこには、コーディが待っていた。


「おかえり、どうだった? 会議は」


「うむ、わしが新たな魔戒王に即位することになった。いや、驚いたわい」


「ホント!? 凄いじゃない、今日は派手にお祝いしなくちゃ!」


 よろめくコリンを介助しつつ、コーディは歩く。コリンは、『破壊のアメジスト』に触れたことで重い後遺症を受けていた。


 左腕を根元から失い、左足も左目も機能が低下してしまった。杖と仲間の介助がなければ、満足に歩けないくらいに弱ってしまっている。


 だが、本人に後悔はなかった。むしろ、世界を救った代償がこの程度で済んでよかったと、豪快に笑い飛ばしているのだ。


「お、コリンが帰ってきたぜ!」


「お帰りなさい、コリンくん。無理せず車椅子に乗っていいのよ?」


「みな、ただいま。カトリーヌよ、いつも言うておるじゃろ? わしは早く一人で歩けるようになりたいのじゃ。そのためのリハビリを……わっ!」


「んな堅いこと言うなって。今はオレたちを頼れ、コリン。仲間なんだからさ」


 イゼア=ネデールに帰還したコリンを、アシュリーたち星騎士が出迎える。ドレイクに肩車されたコリンは、微笑みを浮かべた。


 会議の顛末を聞いた仲間たちは、コリンが魔戒王になったことを祝い祝福の言葉をかける。


「そっか、そらめでたいわぁ! ウチらも鼻高々やで、今日はパーッと祝わなあかんな!」


「どうせならさ、いろんな大地の人たち呼んですんごいパーティー開こうよ! その方が楽しいよ、きっと!」


『アニエスの言う通りだね。せっかくなら、大勢で祝いたいもの』


「マリス、賛成。美味しいもの、いっぱい食べる」


 エステルにアニエス、テレジア……マリスは口々にそう言う。他の星騎士たちも、アニエスの案に賛成しノリノリなようだ。


「ああ、いいと思うぜ! 問題は、場所をどうするかだけどよ」


「カミサマたちに頼んで用意してもらうのはどうかナー? それくらいしてくれるよ、キット」


「そうだな、ムーテューラ様あたりに持ちかければ了承してくださるだろう」


 ディルスの疑問に、フェンルーとツバキが案を出す。みな、最高の宴を開こうと頭脳をフル回転させている。


「ふふ、催し物ならバーウェイ一座にお任せよ! 歌に踊りに隠し芸、なんだってやっちゃうから!」


「ああ、私たちも何か考えておかないとな。最高の思い出にせねばな!」


「はい。わたくしの方から、フェルメア様たちに掛け合ってみましょう。お坊ちゃまのためなら、快く協力してくれるはずです」


 イザリーやラインハルト、マリアベルも楽しそうにパーティーの計画を話している。そんな彼らを前に、コリンは──。


「のう、みんな。わしは幸せ者じゃ。みなのような、心から信頼出来る仲間を得られたのじゃから。改めてみなに礼を言いたい。わしを支えてくれて、ありがとう。これからも……わしと共に居てほしい」


「あったりまえだろ! そっちが嫌だっつっても、ぜってー離れねえからな。なあ、みンな!」


 アシュリーの言葉に、星騎士たちとコーディは頷く。愛しい仲間たちを見渡し、コリンは満面の笑みを浮かべた。


「よーし、であれば善は急げじゃ! それっ、ドレイク号発進! パーティーの準備をするのじゃー!」


「おおーー!!」


 落とし子の魔術師と、星騎士たちが紡いだ一つの物語が終わる。だが、これで彼らの物語が全て終わるわけではない。


 彼らが生きている限り、新たな冒険の扉は開く。いつの日か、再び──彼らが物語の表舞台に立つ時がやって来るだろう。


 その日まで、語り継がれていくのだ。少年魔術師と、その仲間たちの冒険譚が。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ、今更ながら気になったんですが・・・今作のヒロインの戦闘力(おっぱいの大きさ)はどんな感じですか? カトリーヌは最強(デカパイ)で、エステルは最弱(絶壁)ですが、それ以外が気になります。…
[一言] 相手が神を超え世界すら消す超越者だっただけに無事に世界が守れたのを全世界で祝わんとな(ʘᗩʘ’) その最初がいきなりリオVSグランザームの好カードかい(⑉⊙ȏ⊙) 世界中継ならとんでもない…
[一言] リオ、アゼル、コリンの所に向かう【新主人公】。 新たな物語は何れ訪れるだろう……。
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