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283話─双子と双子

「お姉ちゃん、ここだよ。……それにしても、いい眺めだねぇ。西の端っこまで来たの初めてだよ、ボク」


『そうだね、私もこんな遠くに来たのは初めてだ。状況が状況なだけに、のんびりピクニック……とはいかないけどね』


 ガルダ草原連合、西の果てにある海岸線。フィニスの放った刺客を負って、アニエスとテレジアがやって来ていた。


 すでにフェンルーたちから連絡を受けており、コリンたちと協議した結果……少しだけ目的を変えることになった。


『早くご先祖様を見つけ出して、体内に埋め込まれてるジェムのレプリカを除去してあげないと。平行世界から来た悪人とはいえ、無残に死なせるわけにはいかないからね』


「でも、ボクたちに出来るかな。イザリーちゃんたちの話だと、新しい敵が来てるんでしょ?」


『インサニティ……狂気を名とする少女、か。あまり相手にしたくはないけど、そうも言ってられないな』


 平行世界から来た星騎士の始祖たちが、完全にフィニスに服従しているわけではないと分かった以上、命まで取る必要はない。


 アブソリュート・ジェムのレプリカを除去し、フィニスの手の及ばない別の平行世界へと逃がす。コリンはそう判断したのだ。


「それにしても、序列五位の魔戒王さんって凄いんだね。エイヴィアスが遺した作りかけの魔法陣から、平行世界に繋がる門を再現しちゃうなんて」


『コリンくんの御母堂様曰く、魔法に関しては天才的な力があるらしいね。まあ、キカイ信者のヴァルツァイト王とは犬猿の仲らしいけど』


 フィニスの脅威は、暗域にまで及んでいる。平行世界から送り込まれる大魔公や魔戒王たちの運命変異体を退けつつ、反撃の策を練っていた。


 その中で、上位の魔戒王たちはエイヴィアスの『遺産』に目を付けた。すなわち、彼が保有していた平行世界の門を開く力。


 それを再現することで、次々と沸いてくる敵を元いた世界に送り返してしまおう、と計画しているのだ。


 唯一星騎士たちの修行に協力しなかった序列第五位の魔戒王、フィービリアを残る上位の王が総出で恫喝……もとい説得し、計画を進めたのである。


『! アニエス、気を付けて。この気配……近くにいるよ。私たちのご先祖様が』


「うん、そうみたい。どこから出てくるかな……む、そこ!」


 海岸を歩いていたアニエスに、テレジアが警告を行う。彼女たちの先祖……『双児星』シルヴァード&ゴルドーラ・オーレインの気配を察知したのだ。


「おやおや、そこにいるのは……シルヴァード、面白い者たちがいるぞ」


『そのようね。彼女たち……私たちと同じみたいよ。こんな偶然って、あるものなのねぇ』


 突如、砂浜に魔法陣が現れ……そこから、一人の男が姿を見せる。金と銀のまだら模様を持つ鎧を着た、端正な顔立ちの男はニヤリと笑う。


 すると、凛とした女の声が響く。声は、男の体内から聞こえてきていた。結果、アニエスたちは理解する。目の前にいるのが、自分たちの祖先なのだと。


「自分から来てくれるなんてね、探す手間が省けたよ。ラッキーだね、お姉ちゃん」


『そうだね、アニエス。時間が惜しいからね、助かったよ』


『あらあら、余裕なのね。今から私たちに殺されるというのに』


「そうだな、シルヴァード。オレたちは他の連中とは違うってことを、教えてやらないとな」


 アニエスを見つめたまま、ゴルドーラは腰から下げた一対の剣を抜く。ゆっくりと歩いてくる先祖に、アニエスは声をかける。


「ちょっと待った! ご先祖様の事情は聞いたよ。身体の中にジェムのレプリカを埋め込まれて、無理矢理言うこと聞かせられてるんでしょ?」


「だとしたら、何だと言うんだ?」


『私たちがご先祖様を助けます。私たちが戦う必要はありません。ジェムを除去して、別の世界に』


『悪いわねぇ。残りの星騎士はみんな、他の腑抜けたちと違って……フィニス様にゾッコンなの。あんな素晴らしい悪のカリスマ、そうそういないわよ?』


 説得を試みるアニエスとテレジアに、シルヴァードが衝撃的な事実を告げる。残る星騎士の始祖たちは、みなフィニスの腹心なのだと言う。


 驚愕するアニエスたちに、今度はゴルドーラが声をかける。その声色には、どこか不思議そうに感じているトーンが混ざっていた。


「なんだ、何を驚いてる? オレたちは神殺しを成し遂げ、力を奪ったならず者の集まりだぞ? その中でも、オレとシルヴァードは飛び切りのワルでなぁ」


『フィニス様の圧倒的な力に、心底惚れちゃったのよねぇ。元いた世界が無くなったのはまあ残念だけど、基底時間軸世界(こっちの方)でも食い扶持は稼げるから問題ないわ』


「違いない、ははははは!!」


 フィニスの持つ絶対的な力と恐怖に屈し、隷属しながらも反旗をひるがえす機を窺っていた他の者たちと異なり……彼らは、真性のクズだったらしい。


 故郷の世界が滅ぼされてもまるで気にせず、むしろ今度は基底時間軸世界を根城にして殺戮と簒奪を繰り返そうとしているようだ。


『……そう。分かった、気が変わったよ。アニエス、これで躊躇しなくて済むね。あの二人は……』


「うん。ここでぶっ殺す! 運命変異体って言っても、あんなクズムーヴするご先祖様なんて見たくなかったよ! ホントに許せない!」


 ゴルドーラとシルヴァードの本性を知った二人は、完全に情けを捨てた。世界を守る者として、脅威を排除するモードに移行する。


 例え相手が始祖だろうと、邪悪な存在であるなら息の根を止める。漆黒の殺意を剥きだしにして、アニエスは星遺物を呼び出す。


「ハッ、さっきまでのお情けモードはおしまいってわけか。なら、お前たちを最初の獲物にさせてもらう! シルヴァード、チェンジだ!」


「任せて。小娘、私のスピードに着いてこられるかな! エアハイト・スラップ!」


 肉体を動かす主人格を交代し、シルヴァードが地を蹴り駆ける。相手は一切対応出来ず、無残なバラバラ死体になる……と思っていた。


 が。


「遅いよ、そんなの。スピード担当のボクに速度で張り合おうなんて笑っちゃうね」


「!? バカな、見切られた!?」


『アニエスを舐めない方がいいよ? アルハンドラ陛下との修行で、動体視力と瞬発力を鍛えたからね』


 シルヴァードの目論見は、完全に外れた。自慢である神速の一撃は、難なくアニエスに受け止められてしまったのだ。


 冷め切った声で、アニエスとテレジアは先祖に告げる。本来の目的を果たせないことを心の中でコリンに謝りつつ、反撃に出た。


「食らえ! リーフスラッパー!」


「くっ、速い……!」


 心底相手を舐めきっていたシルヴァードは、アニエスの猛攻に圧倒される。アルハンドラの元で磨かれた高速の斬撃が、ここぞとばかりに振るわれる。


「ほらほらほらほらぁ! さっきまでの威勢の良さはどこ行っちゃったのかなぁ!? このまま押し切って勝っちゃうよー!」


『チッ、この小娘なかなかやりやがる。シルヴァード、交代だ! オレが蹴散らしてやる!』


「悪いわね、頼むわよ!」


 本気を出せば互角に渡り合えるが、何分油断してる隙を突かれたためシルヴァードはアニエスのスピードに適応出来ない。


 そこで、耐久性とパワーに優れたゴルドーラとチェンジすることで、相手の速度に適応するための時間を稼ぐ作戦に出た。


『アニエス、気を付けて! 迂闊に斬り込んだら返り討ちにされるよ!』


「うん、分かった! 一旦下がって……」


「逃がすか! カットソード・追い込み撃!」


 テレジアのアドバイスを受け、アニエスは後退しようとする。が、ゴルドーラは機を逃さず反撃に出た。勢いよく踏み込み、渾身の力を込めて剣を振るう。


「うわあっ!」


「ははっ、どうだ! 今のはクリーンヒットしたぞ、手応えがあった。心臓の近くまで、パックリ切り裂いてやったぜ。ククク、これで終わりかな?」


 ゴルドーラの放った攻撃は、アニエスの胸を鎧ごと斜めに切り裂いた。普通ならば即死……運が良ければ致命傷で済む、というくらいの威力がある。


 本来なら、これで決着がついていただろう。だが──アニエスたちも、特別な力を秘めた双子。これで終わるようなことはない。


『いてて……こりゃしばらく戦えないや。お姉ちゃん、悪いんだけど任せていい?』


「ああ、もちろんさ。ゆっくり傷を癒やすといい、アニエス。ここからは、私が奴らの相手をする」


「!? ま、まさか……! あいつらも、オレたちと同じ……」


『特異体質の持ち主だというの!?』


「あれ、言ってなかったかな? そうさ、私とアニエスは……貴方たちと同じ特性を持つ、『始祖返り』なんだよ」


 すんでのところでソウル・チェンジを行い、テレジアが表に出る。真なる外道を滅するべく、双子の乙女は剣を振るうのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皮肉にも皮肉ながら性根の部分は真逆でも能力はまんま被ってるのか(゜ロ゜) この流れだと残りの悪騎士とフィニスの分離体を同時に相手しなきゃいかん流れになるな(ーдー) 都合よく助っ人が来る…
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