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269話─二人のエイヴィアス

「はあ、はあ……奴め、次から次へと……。あと何人出てくるつもりじゃ、いい加減にしてほしいわい」


「五十人までは数えられたけど……そっからはもう数え切れないわ……。多分、百人くらいは殺したと思うけど……」


 戦いが始まってから、四時間が経過した。未だコリンたちは、エイヴィアスと……正確には、彼の運命変異体たちと戦っていた。


 どんなに倒しても、空中に浮かぶ扉から新たなエイヴィアスが現れるのだ。しかも、記憶を継承するため一度使った切り札は対策されてしまう。


「一つ言っておこう。オリジナルの僕は、はっきり言って魔戒王の中では弱い部類だ。正攻法での戦い方では、だが。しかし、こういう変則的な手を使えば……フェルメアやフォルネウスにも勝てるのだよ」


「わりと説得力があるのが腹立つわい……!」


「ホントね。でも、こんな芸当が出来るなら何でやらなかったの? 少なくとも、上位六人のすぐ下くらいなら楽になれるはずよ。この能力があれば」


 何十人目……あるいは、何百人目かのエイヴィアスにコーディは問いかける。穏やかな笑みを浮かべ、青年の姿をした運命変異体は答える。


「もちろんそうだね。でも、それはすなわち……オリジナルが死ぬことを意味する。記憶が継承されるとはいえ、それは誰でも嫌なものさ」


「言われてみればそうね……」


「でもね、オリジナルの僕は出会ったのさ。命を投げ出すに値する友……フィニスとね。今頃、僕のようなシンパを増やしているんじゃないかなぁ。ククク」


 他者であれば、平行世界の同一存在を何人でも同時に呼び出せる。だが、エイヴィアス自身は不可能なのだ。


 運命変異体を呼び出すには、それまで存在していたオリジナルが死ぬ以外方法はない。成り上がりのためだけに命を捨てるなど、誰が考えてもまず無い。


「おお、忘れるところじゃったわ。さっさと貴様を倒して、フィニスも仕留めねばならぬ」


「おやおや、出来るのかい? 僕を()()()百三十八人殺した程度でヘバってる君たちに」


「その言い方ムカつくわね! というか、私たちそんなに殺してたのね……」


「そうさ。というわけで、そろそろ僕の仇を……」


 エイヴィアスが仕掛けようとした、その時。天空に浮かぶ扉の一つから、何かを叩き付けるような激しい音が響いてきた。


 三人が思わず見上げると、何重もの鎖が巻かれた扉が内側から押されているのが見えた。鎖が軋み、今にも吹き飛びそうだ。


「あの扉は……!? 有り得ない、『あの世界』から僕が出てくることなんて絶対に!」


「ほーお? これはいいことを聞いたのう。コーディ、あの扉を解放してやれ!」


「はーい!」


 露骨に焦るエイヴィアスを見たコリンとコーディは、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。扉の向こうには、相手が焦るほどの『誰か』がいるようだ。


 その人物を味方に着けることが出来れば、大逆転勝利も夢ではない。コリンの号令を受け、コーディは勢いよく飛翔していく。


「そうはさせるか!」


「それはこっちのセリフじゃ! パラライズドサークル!」


「ぐうっ! おのれ、邪魔をするな!」


「かっかっかっ、ママ上からよーく言い聞かせられておってのう。『人の嫌がることを進んでやりなさい』となぁーっ!」


「悪意のある解釈をするな!」


 コーディが扉に向かっている間、コリンが全力でエイヴィアスを妨害する。この一連の動きの中で、コリンは気付きを得た。


 エイヴィアスの無限残機戦法を無力化する、会心の策を。その間にも、コーディは空を昇っていく。そして、ついに目当ての扉にたどり着いた。


「お待たせ、今出してあげるわ。さあ、出てきなさい! エイヴィア……ス……?」


「この声……コーディか? まさか……こんな形で再会出来るとは思ってもみなかったよ」


「う、そ……おじ様、なの? どうして、あなたはフィニスに殺されたはずなのに!?」


 扉を封鎖している多重の鎖を、コーディは光の剣で一刀両断する。封印が解かれた扉が開き、現れたのは──コーディの世界のエイヴィアスだった。


「話せば長くなる。まずは下に降りるぞ!」


「……はいっ!」


「止められなかったか……まずい、まずいぞ……イレギュラーな事態が起きてしまった……」


「なんじゃ? 何がどうなっておるのじゃ!? そやつ、その身体は一体!?」


「へ? 身体──!? お、おじ様! どうして身体がキカイに!?」


 コーディと共に降り立ったエイヴィアス(善)を見たコリンは、素っ頓狂な声を出す。改めて養父の姿を見たコーディも、目を丸くする。


 エイヴィアス(善)は、全身がキカイ化され、サイボーグになっていた。驚く二人に、養父は語る。何故こうなったのかを。


「コーディを基底時間軸世界に送る瞬間、私はフィニスに胴体を貫かれた。瀕死の重傷を負いながらも、私は逃げ延びた……ヴァルツァイトが神々を滅ぼし、万物をキカイの力で支配している平行世界にな」


「では、そなたはそこで……?」


「察しがいいな、コーディのオリジナルくん。私はその世界のヴァルツァイトの部下に助けられ、改造手術を受けたんだ。首から下をほぼ全てキカイ化することになったが、そのおかげで私は生き延びたのだよ」


「なるほど、な。アブソリュート・ジェムの力が及ぶのは、一つの世界の中だけ。平行世界に逃れたお前は、まんまとフィニスの目を欺いたわけだ」


 真実を知ったエイヴィアス(悪)は、善なる存在であるもう一人の自分に声をかける。だが、その様子がおかしい。


 身体のあちこちにノイズのような影が走り、肌が紫から砂のような色に変わっていく。同時に、エイヴィアス(善)のメタルシルバーのボディも同じように変化する。


「貴様は……最初からこれを狙っていたのか。自分という存在を消し去ることになってでも……僕を滅ぼすつもりだったんだな」


「え? え? ど、どういうこと? おじ様、何が起こってるの!?」


「簡単なことだよ、コーディ。エイヴィアスという存在は、オリジナルだろうが運命変異体だろうが……同じ世界に同時に存在出来ないのだ」


 その言葉を聞き、コリンは気付く。エイヴィアスの死体が、毎回完全に消滅していることに。恐らく、死体であっても同一存在が同じ世界に在ることが出来ないのだろう。


 では、そのルールを破り……二人のエイヴィアスがこの基底時間軸世界に現れた今。一体何が起こるのか。その答えは一つ。


 基底時間軸世界を含めた、全ての平行世界に存在するエイヴィアスという人物の消滅だ。


「私の持つ力は、『特別な一族』の生まれ故に得たもの。平行世界を支配する力の対価、守るべき掟。それが、一つの世界に私という同一の生命体が複数存在してはならないというものだ」


「そうだ。お前は僕を……いや、僕たちを消し去るためその掟を破った。だが何故だ、何故貴様はそこまでする!?」


「決まっているだろう? この世界にいた、オリジナルの私が……アブソリュート・ジェムの力を手にしてしまったからだ」


 どうしていいか分からず、コリンたちは固まる。そんな中、二人のエイヴィアスは問答を行う。身体が崩れていく中、エイヴィアス(善)は答える。


「まがい物とはいえ、オリジナルは手にしてはならない力を得てしまった。だから、私は自分自身を抹殺することにしたのだよ。ジェムを手にした以上……これ以外に、私を倒す手段はないのでな」


「そんなことないわ! おじ様、今ならまだ間に合うわ! 平行世界に行って、そうしたら」


「ダメなんだ、コーディ。ジェムの力を得た私の運命変異体は、少しずつ力を増している。そう遠くない将来、こいつは第二のフィニスになってしまう。そうなれば、もう誰にも止められなくなる。終わらせるのは今しかない!」


 もう二度と会えない。そう思っていた養父との再会を喜ぶ時間は、コーディには与えられなかった。彼女の説得に首を横に振り、養父は笑う。


「コーディ。リハビリをする中で、ずっと君を見ていた。逆境にも負けず、新たな……いや、本来のと言うべきか。家族と共に幸せそうにしている君を見て……私の未練は消えたよ」


「おじ、様……。こんなの、こんなのってないわ。死んだと思ってたおじ様と、また会えたのに! もうお別れだなんてあんまりよ!」


 コーディは涙を流しながら、養父の元へ駆け出していく。養父に抱き着き、大粒の涙を流す。エイヴィアス(悪)の動きを止めているコリンも、泣いていた。


「私は、滅びる。でもね、コーディ。君と共に過ごした十年の思い出は……家族として暮らした記憶は、決して消えない。私の想いは、常に君と共にある」


「ぐうう……黙れ! 同じ存在のクセに、善人ぶったセリフを吐くな!」


「貴様は黙っておれ!」


「がふっ!」


 別れの時が迫る中、コーディたちは最後の言葉を交わす。魔法陣に雁字搦めにされ、何も出来ないエイヴィアス(悪)は悪態をつく。


 が、コリンがブン投げた杖が顔面にクリーンヒットして沈黙した。身体の崩壊が進み、立っていられなくなった養父は腰から崩れ落ちる。


「全てが終わったら……幸福に、生きろ。恋をして、愛する者に寄り添い……子を授かり、愛を注いであげてくれ。私が君にそうしたように……」


「分かっ……たわ、おじ、様。約束、する……私、わたし……」


「コーディの、オリジナルよ。どうか、私の分まで……この子を、支えてあげてくれ。君にとって、宿敵だろう私が言うのも何だが……どうか、頼む」


「何を言う! わしの宿敵はそなたではない。悪事を働く、邪悪なエイヴィアスじゃ! 約束する、わしの命尽きるその日まで、コーディを支えよう。大切な家族だから!」


 身体の八割が砂と化したエイヴィアス(善)の言葉を受け、コリンは大声で叫ぶ。それを聞き養父は微笑みを浮かべた。


「そう、か……それを、聞いて……安心、したよ。コーディ……血は、繋がっていなくとも……私は、ずっと……お前を、愛して……いる……」


「おじ様! おじ様ぁぁぁぁぁぁ!!!」


 最愛の娘に声をかけた直後、身体が完全に崩壊し……エイヴィアス(善)は死んだ。その後を追うように、エイヴィアス(悪)の命の灯火も消える。


「終わり、だ……僕の、野望が……今、完全に潰える……済まない、フィニス。一足先に……さよなら、だ……」


 友への言葉を呟き、邪悪の化身は消滅した。直後、空に浮かぶ無数の扉が一斉に砕け散る。向こう側にいたエイヴィアスの運命変異体たちも、最期を迎えたのだ。


 養父だった砂を手に、コーディはその場に力無く座り込む。そんな彼女の元に行き、コリンは優しく抱き締める。


「今は、存分に泣くがいい。わしも、共に泣くから」


「うう、う、う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!」


 廃墟と化した街の中に、コーディの泣き声が響き渡る。少しして、そこにコリンの嗚咽が混ざり……二人の泣き声が、いつまでも空にこだましていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「そう、か……それを、聞いて……安心、したよ。コーディ……血は、繋がっていなくとも……私は、ずっと……お前を、愛して……いる……」 ……あばよ。もう一人のエイヴィアス。 なあコーディ。雨…
[一言] やはりこうなったか(-_-メ)奴の能力で平行世界から軍勢まで呼べるけどエイヴィアス自身の存在は大量に出現しなかったのもその掟が故か(↼_↼) 何の因果でそういう存在になったかは知らんが最後…
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