256話─時間と空間の真価
「食らえ! 曲射の斧!」
「中々鋭い一撃……だが、防げないものではない!」
薄暗い森の中で、バリアスとダンフィートが戦う。夜目の利くフクロウの化身であることと地の利を活かし、超越者は果敢に攻める。
対するバリアスは、暗く不明瞭な視界をものともせずキッチリ攻撃を防ぎつつ、魔力をチャージする。空間防壁を作り、斧を弾く。
「へえ、よく防ぐものだね。なら、これはどうかな? シャドウスウィール!」
「む、消えた……。なるほど、木々の間を高速で飛び回っているわけか」
翼を広げたダンフィートは、音を立てることなく森の中を飛び回り、バリアスを撹乱する。その様子は、暗闇の中で獲物を狙うフクロウそのものだ。
下手に動けば、敵の思うつぼ。そう判断したバリアスは、その場から動かず神経を集中させる。相手がどこから、どう狙ってくるのか。
動きを予測し、最適な反撃を叩き込むべく身構える中……ほんの僅かな殺気が飛んでくる。即座に、空間の防壁が作動した。
「そこだ! Dリフレクト!」
「! 悟られたか……やはり神を侮るのはよくないというわけだ」
「君たちのいた世界の我々がどうなのかは知らない。が、一つ忠告しておこう。この世界線の我らは、日々鍛錬を積んでいる。簡単に勝てるとは思わないことだ! クイックタイム!」
バリアスは左手を握り、時計盤が描かれた魔法陣を時計回りに高速回転させる。すると、ダンフィートを除く全ての時が加速し始めた。
「これは!」
「見るがいい、創世六神が一人……時空神の力を! ミリオンダラー・ナックル!」
「くっ、守りをかた……ぐっ!」
守りを固め、攻撃に備えようとするダンフィート。だが、彼女の予想よりも遙かに……バリアスの動きは速かった。
超越者たちの中で最も優れた動体視力を持つダンフィートですら、時の加速に乗ったバリアスの動きを捉えることが出来ない。
超高速の連打を食らい、あっという間にボロボロにされてしまう。彼女に再生能力がなければ、すでに死んでいただろう。
「くっ……これ以上はまずい! 一旦離脱し、反撃に出る! フェザーコール・カーテン!」
「むっ、目眩ましか!」
このままでは負けると悟ったダンフィートは、大量の羽根をバラ撒きバリアスの攻撃を中断させる。その直後、翼を広げ真上に飛ぶ。
森を抜け、朝焼けが広がりつつある空に舞い上がった後、緑色のオーブを取り出し斧を叩き付ける。オーブが砕け、魔力が溢れた。
「ビーストソウル・オーバーロード! さあ、反撃の時間だ! 流星雨の斧!」
食虫植物が生えたつるを全身に纏う禍々しい姿になったダンフィートは、大量の手斧を召喚し森に落としていく。
数の暴力でバリアスを圧殺し、一気にカタを着けようと考えたのだ。降り注ぐ斧の雨で、森がどんどん破壊されてしまう。
「ふふ、いくら高速で動けようと……これだけの数の斧からは逃げ切れまい。ふふふ、はははは!!」
「ああ、そうだな。だから、時を巻き戻させてもらおう。リバースタイム!」
勝ち誇るダンフィートの元に、バリアスの声が響いた。そして、今度は時間が巻き戻されていく。降り注ぐ斧が天へ戻り、森が元に戻る。
その結果、何が起こるか。ダンフィートのオーバーロードも、なかったことにされた。時空神の持つ圧倒的な力を、超越者はようやく認識した。
「これが、神の力……! 強すぎる、私では勝てな──!? くっ、身体が!」
「空間ごと君を固定させてもらった。これでもう、君は動けない。このままグラン=ファルダに移送し、事情聴取をさせてもらう」
「へぇ、殺さないのかい? 随分と優しいものだね、この世界のファルダ神族は」
バリアスにダンフィートを即殺する意思はなく、一通り情報を引き出してから処すつもりのようだ。それを知ったダンフィートは、鼻で笑う。
目の前に現れた神を睨みながら、不穏な言葉を口にする。
「私が君たちの有利になるような話をするとでも思うかい? しないさ、話なんて何もね。もちろん、君に助命してもらうつもりもない!」
「! まさか……まずい!」
「愛する弟、フィニスに永遠の栄光あれ! そして……全ての神の魂が呪われんことを!」
呪詛の叫びを口にし、ダンフィートは全身に流れる魔力を暴走させる。バリアスを巻き添えにし、盛大に自爆するつもりなのだ。
バリアスは瞬間移動で距離を離し、即座に空間の力を発動する。強固なバリアを形成し、ダンフィートが起こす爆発を封じ込めにかかった。
「く……ぬううう!!」
「フィニス……役に立てなくてごめんよ。でも、私は信じている。君が私たちの悲願を達成して……くれ、る……と……」
ダンフィートの目尻から、一筋の涙が流れる。その直後、大爆発が巻き起こる。膨れ上がった魔力の奔流が、バリアの中で渦を巻く。
三重のバリアのうち、一枚目と二枚目が破壊されてしまったものの、最後のバリアが砕ける前に魔力が消え去り事なきを得た。
「危なかった……。だが、彼女らは何故そこまで私たちを恨む? その理由を突き止め……ん? もしもし、私だ。どうした、ディトス……そうか、生け捕りに出来たか! 分かった、すぐに行く」
ダンフィートを死なせてしまったことに罪悪感を感じているバリアスの元に、連絡用の魔法石が現れた。ディトスからの連絡が来たのだ。
超越者の一人、エカチェリーナを生きたまま捕らえたと。反応の変化から、残る超越者は一人だということを。
エカチェリーナから話を聞き出すことが出来れば、何故超越者たちが神を憎むのか分かるかもしれない。一縷の望みを胸に、バリアスは天の世界へ帰る。
「突き止めなければ。彼らの狙いを。全ての真実を明らかにしなければ、な」
そう呟くバリアスを、青い光の柱が呑み込んだ。
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「この洞窟だな、リオがいるのは。この様子だと、すでに『霊魂のトパーズ』を奪われているかもしれないな。総員、警戒しろ」
その頃、平行世界では……『霊魂のトパーズ』を封印していた洞窟のある大地に、神々の軍勢が到着していた。
第一陣を率いるのは、この世界線での審判神カルーゾだ。白い鎧を身に付けた青年──カルーゾは、部下を伴い地上に降りる。
「静かだ……。だが、生命反応はある。これからアブソリュート・ジェムを奪うところなのか、それとも……」
「! カルーゾ様、足音が近付いてきています! 攻撃しますか?」
「待て、早まるな。番人をしてるピコ・プリケットが逃げ延びてきた可能性もある、姿が見えるまで攻撃は控えろ」
「ハッ!」
洞窟の入り口に張り付き、中の様子を窺うカルーゾたち。その時、部下の一人が足音に気付き武器を構える。
カルーゾは逸る部下を制止し、様子を見ることにした。少しして、現れたのは……ボロボロになったピコ・プリケットだった。
「カルーゾ様! どうしてここに?」
「この大地でリオの反応をキャッチしてな。大々的に討伐部隊を送り込むことになったんだ。やはり、私の法案が通ってよかった。大地の民など信用しておけんからな。いずれこうなると思っていたよ」
「助けが来たのですね……ああ、よかった」
「ピコ、リオはどこだ? その傷の様子だと、すでに奴と交戦したのだろう?」
「ええ。リオは……」
カルーゾに問われ、ピコ・プリケットは答える。その瞬間、彼女の両目が紫色に染まった。新たな主君から授けられた破壊の力が解き放たれる。
「いえ、フィニス様は洞窟の奥におられます。あなたたちが滅びる瞬間を見届けるために!」
「!? しまった、罠だ! 総員、退避し」
「もう遅い! カタストロフ・ビッグバン!」
ハメられたと気付いた時には、もう遅かった。ピコ・プリケットの体内から紫色のオーラが放たれ、全てを呑み込み破壊していく。
フィニスの目論見通り、ほんの数分で──神々の軍団があっさりと壊滅してしまった。だが、これは始まりに過ぎない。
ここからが、本当の終焉なのだ。




