252話─偉大なる○○
創世六神の参戦により、星騎士たちが勢いを盛り返していた。確実に追い風が吹いてきつつある中、海底神殿でも動きがあった。
「ホーホホホ、燃え尽きなさい! 身も心も魂も! 全て灰にして差し上げますわ!」
「おっと、そんなの当たんないもんね!」
『ここは私たちが抑え込むから、みんなは今のうちに避難を!』
「は、はいぃぃ~!!」
エカチェリーナの猛攻を凌ぎつつ、アニエスとテレジアが警備兵たちを逃がすため戦っている。炎と植物、相性は最悪だ。
だが、それでも諦めるわけにはいかない。彼女が敗れれば、神殿が制圧され兵士たちも虐殺されてしまうだろう。
何があっても負けられないのだ。しかし、星の力を解放してなおエカチェリーナへの決定打を与えることが出来ない。
「燃えなさい? ドラコニクスフレア!」
「くっ、リーフディフェンス!」
「あらあら、ムダな抵抗をしますわね。そんな葉っぱなど、わたくしの炎なら秒もかからず灰になりましてよ!」
右手を突き出し、エカチェリーナは竜の頭部の形をした真っ赤な炎を撃ち出す。対して、アニエスは葉っぱの盾を作り出し攻撃を防ぐ。
水分たっぷりの葉っぱではあるが、炎の威力が凄まじすぎて一瞬で燃やし尽くされてしまう。得意気な顔をするエカチェリーナだが……。
「さあ、斬り捨てて……!? いない!? 一体どこに」
「ボクならここだぁー! お姉ちゃん、ソウル・チェンジ!」
『任せて、アニエス! 食らえ、フォールムーンスラスト!』
葉っぱの盾が燃え上がる一瞬の時間を利用して、アニエスは天井に向かって飛ぶ。つるを生やして落っこちないよう身体を張り付ける。
そのまま少しずつ前進し、テレジアとチェンジして頭上から奇襲する。脳天を狙い、自重を加えた一撃で剣を突き立てようとするが……。
「くっ、これは!?」
『し、尻尾!? こいつ竜人だったの!?』
「オーホホホホホ!! 残念でしたわねぇ、わたくしはリュウの化身ですのよ? いつでも自由に! 尻尾を生やすなど朝飯前ですわ!」
強襲に気付いたエカチェリーナの動きは早かった。即座に尻尾を生やし、頭上からの攻撃を防ぐ。そのままテレジアの身体を掴み、壁に叩き付ける。
「あぐっ!」
「このまま叩き殺して差し上げますわ! 二人がどういう方法で入れ替わっているのかは知りませんが、片方が死ねばもう片方も殺せるでしょう。ホホホホ!」
『くっそー、こいつムカツクー!』
「このままじゃ、二人とも殺される……。何とかしないと──!?」
何度も壁や床、天井に叩き付けられ弱らされていくテレジア。このまま反撃出来なければ、じわじわとなぶり殺しにされてしまう。
……だが、天は──神は彼女たちを見捨てなかった。ここにもまた、心強い助っ人が降り立ったのだ。
「さあ、ボロボロになってきましたしそろそろ終わりにして差し上げますわ。首をちょんぱっ! ってしてあげますわ、それっ! ……あら? 何で腕が動きませんの?」
「いかんのう、お嬢ちゃん。そんな物騒なことを口にしては。ふんっ!」
「あじゃぱっ!」
テレジアにトドメを刺そうと、エカチェリーナは剣を持った右手を振り上げる。尻尾をたぐり寄せ、剣を振り下ろそうとした。
が、腕が動かない。渾身の力を込めても、その場に縫い付けられたかのようにビクともしなかった。その理由を知るべく、後ろを向くと……。
そこには、人の良さそうな笑みを浮かべた老人が立っていた。黄色いトレンチコートを着た老人は、ニコニコ笑いながら鉄拳を見舞った。
「わっ!」
『ひょぇっ! あのおじいちゃん、一体誰なの?』
「お嬢ちゃん、大丈夫かい? わしはディトス、創世六神の一角……大地の繁栄を司る光明神じゃ。わしが来たからにはもう安心じゃよ。アメちゃん食べるかの?」
「え? じゃあ……いただきます」
エカチェリーナが通路の向こうへ吹っ飛ばされ、テレジアが解放される。尻もちを着いた彼女の元に、老人──ディトスがやって来た。
ポケットからメロン味のアメ玉を取り出し、テレジアに食べないかと問う。少々戸惑ったが、せっかくだからとテレジアは受け取る。
「ちょぉぉぉぉぉぉっと!!!! 人をぶっ飛ばしておいて、なぁぁぁに和やかムードを演出してるんですの!? わたくし怒りま」
「うるさいのう、じじいのパンチを食らえい!」
「わぱっ!」
久しぶりに遊びに来た孫と接するような雰囲気を出していたディトスの元に、エカチェリーナが全力疾走してくる。
が、あとちょっとの所まで戻ってきた瞬間、ディトスの腕がぐにょんと伸びた。また吹っ飛ばされ、全力疾走で戻っては殴り飛ばされ……。
和気あいあいとした雰囲気でテレジアやアニエスと話をする中、見ている側が虚しくなるようないたちごっこが続く。
「あの……何だか可哀想になってきたし、そろそろ真面目に相手してあげた方が……」
『もう涙目になっちゃってるもん、あれ。今にもぶわーって感じで泣くよ、絶対』
「はあ、はあ……これが世に聞くセルフ賽の河原……! まさに地獄でぺじゃっ!」
「ほっほっ、そうじゃのう。存分に甘やかせたし、そろそろ仕事をしようか」
これまでの行動は、単にアニエスたちを甘やかしたかっただけのようだ。半分べそ書いているエカチェリーナを殴り飛ばした後、コートを脱ぐ。
「時にお嬢ちゃん、戦士にとって一番大切なものが何か……分かるかのう?」
「え? うーん、そうだね……窮地に陥ってもすぐに反撃の策を閃ける頭脳、かな?」
『ネバーギブアップの精神!』
「ほっほ、そうじゃのう。それらも大事じゃ。しかしの、一番大切なのは……」
「死にさらしなさいこのクソじじぃぃぃぃ!!」
周囲に大量の刀剣類を浮かべたエカチェリーナが、怒りに目を見開き疾走してくる。そんな中、ディトスが一つの問いを投げかけた。
少し考えた後、それぞれ答えるテレジアとアニエスの姉妹。そんな彼女らに、ディトスの出した正解のワードは……。
「筋肉じゃよ。鍛えた肉体は大体の困難を解決する……このようにのう! フンッ!」
「えっ」
『えっ』
「な、何ですってぇぇぇぇぇ!?!?!!?!」
大きく息を吸い込んだ後、ディトスは全身に力を込める。すると、上半身を覆っていた衣服がビリビリに破け、肥大化した筋肉が現れた。
明らかに身長も伸びており、元の状態の1.5は体格がアップしている。鍛え上げられた筋肉を惜しげもなく晒し、神は身構える。
「さあ、平行世界を侵略するような悪い子にはお仕置きをせんとのう。おじいちゃんからの愛の鉄拳、たんと受け取れ!」
「ちょちょちょちょちょ、不味いですわ! この勢いだと止まれな」
「食らえいっ! オールド・マン・ナックル!」
「ああああああ!!!!」
一度勢いがついたら、そう簡単には止まれない。馬車も人も、それは同じ。慌てて急ブレーキをかけようとするも、もう遅い。
全力で止まろうとするエカチェリーナの方に走り出したディトスの鉄拳が、顔面ド真ん中に炸裂した。渾身の一撃を食らい、超越者は吹っ飛ぶ。
長い長い廊下の反対側まで吹っ飛び、壁に叩き付けられる。魔神故の頑丈さが幸いしたか、奇跡的に気絶するだけで済んだようだ。
もっとも、首から下はほとんどミンチ状態になってしまっているが。
『うわ、すご……』
「なるほど、これが筋肉の力……」
「ほっほっほっ、老いてますます盛んかな、と。あの様子だとまだ息がありそうじゃな、捕まえて話をゲロらせるとしようかの」
『え、めっちゃ距離離れてるのに見えるの?』
「もちろん。筋肉……と、神の視力を甘く見ない方がよいぞ。これでも、まだ老眼を患っとらんからのう。ほっほっほっ」
数十メートルは吹っ飛んだエカチェリーナだが、ディトスは肉眼での生死確認が余裕で出来るようだ。唖然とするアニエスたちを残し、敵の捕獲に向かう。
老神の後ろ姿を見ながら、テレジアとアニエスは小声で会話をする。
『……ねぇ、お姉ちゃん』
「なんだい、アニエス」
『ボクたちも……やろっか、筋トレ』
「そうだね、筋肉があって困ることはないってのをまざまざと見せつけられたしね……」
コトが終わったら、ダンベルを買ってきてトレーニングをしよう。そう決意する二人なのだった。
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「ぐ、うう……」
「よく頑張ったよ、ピコ・プリケット。だが、もう終わりだ。君が守護している『霊魂のオニキス』は貰い受ける」
同時刻、平行世界。基底時間軸世界の創世六神が大進撃しているのとは正反対に、こちらではフィニスが快進撃を続けていた。
「こんな、ことをして……タダで済むと思うなよ、反逆者め! すでに神々が動いているぞ、お前はもう終わりだ!」
「終わらないさ。むしろ、ここからが始まりだよ。ねぇ、ピコ。私は一つ気になることがあるんだ」
牧師の格好をした自動人形の女、ピコ・プリケットに対しフィニスはそう口にする。そして、左手を握り……青と黒の宝石を輝かせた。
すると、ピコ・プリケットの身体がうつ伏せの状態で宙に浮き、身体のパーツが分解され始める。悲鳴をあげる相手に、フィニスが話しかける。
「私は常々、疑問に思っていた。君たち自動人形の命とキカイの『境界』は、どこにあるのだろうかとね。今日は、それを確かめてみようと思う」
「ま、まさか!? 貴様、私を生きたまま分解するつもりか!?」
「そうとも。そうしなきゃ、分からないからね。果たして、どこまでが『命』で、どこからが『キカイ』なのか。さあ、始めようか」
「や、やめて……いやあああああ!!!」
基底時間軸で勝利を重ねる裏で、フィニスの計画も進行していく。平行世界の終焉も……近い。




