240話─そして、全部が大団円
「おい、神殿が穴の中に落ちてくぞ! コリンは大丈夫なのか!?」
「おっ、アレ見てみぃ! コリンはんや! コリンはんが戻ってきたで!」
「みな、ただいまじゃ! 無事に帰還したぞい!」
地上にいたヴァスラ教団の兵士たちは一掃され、アシュリーたちが固唾を飲んで見守る中。異次元への穴に落ちていく神殿から、コリンが降りてきた。
その背には、邪神討伐を果たした証たるヴァスラサックの死体が担がれている。途中で思い直したコリンが回収してきたのだ。
「お坊ちゃま! よかった……本当に、よくご無事で……」
「よくやったな、坊主! ほー、そいつが邪神か。こんなべっぴんが悪い奴だってんだから、世の中分からねぇもんだな」
「アホう、何ぬかしてんのやこのスケベ親父は!」
主の帰還を、マリアベルは破顔して喜ぶ。目尻にはうっすらと涙が浮かんでいた。一方、バーラムは邪神の方に興味があるらしい。
そんなバーラムに、エステルがツッコミを入れる。以前の時間軸ではあり得なかった光景に、コリンは微笑みを浮かべるが……?
「みな、ありがとう。さて、勝利を喜ぶ前にじゃ。わしはやることがあるので、一旦失礼するぞよ」
「え? やることって、もう何もないだろ? 邪神も教団もぶっ潰したンだしさ」
「いやいや、まだ残っておるじゃろう? この事態を引き起こした裏切り者の後始末が」
ヴァスラサックの死体をマリアベルに預け、コリンはその場を離れようとする。そんな彼に、アシュリーが問いを投げかけた。
すると、ニヤリと笑み浮かべ……コリンはそう答えた。
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「はあ、はあ……。ここまで来れば問題なかろう。だが、まさか……神殿が落とされるとは。これでは裏切った意味が無いではないか! 使えない教団め!」
その頃、教団を手引きした裏切り者、グリルゴは一人で惨めに敗走していた。町外れまでどうにか逃げられた……が、彼の命運はそこで尽きた。
「さて、さっさと領地にもどふがっ!?」
「おっと、そうはいかぬのじゃよ。やっとこさ見つけたぞい、裏切り者さん。さて、ふん縛らせてもらおうかのう、え?」
「は、鼻がぁぁぁ……」
「ああ、そうじゃ。おぬし、甥二人を虐待しておるな? 言い逃れなどさせぬぞ、記憶を見ればハッキリするのじゃからな」
曲がり角を曲がろうとした瞬間、杖が伸びてきてグリルゴの顔面をぶっ叩く。顔を押さえて転げ回るグリルゴの前に、コリンが現れた。
逃げられないよう脚を踏んづけ、杖の先っぽで相手の脇腹をつんつん突っつきながらそう詰め寄る。対するグリルゴは、この期に及んで言い逃れようとする。
「な、なんのことだ? わしにはさっぱ……ぎゃああああ!!」
「おっと、手が滑ってしもうたわ。脚が無事なら歩けるからのう、腕の骨が折れても問題ないじゃろ? 人払いの結界を張ったゆえ、貴様が素直になるまで」
「わ、分かった! 言う、全部吐くからやめてくれぇぇぇぇ!!」
コリンは杖を叩き付け、容赦なくグリルゴの腕をへし折る。心もへし折れたグリルゴは、とうとう観念してコリンに従う。
逃げられないように闇のロープを巻かれた状態で、転移石を使い屋敷に戻ることに。コリンの次の目的は一つ。ディルスとソールの救出だ。
「ほう、ここが貴様の屋敷か。フン、悪趣味な屋敷じゃ。いかにも成金という感じだのう」
「ぐうう、腕が……鼻が……」
「ほれ、呻いとらんでさっさと案内せい。ディルスとソールを閉じ込めておる部屋にな」
「は、はいぃ……」
グリルゴの脛を蹴りながら、コリンは屋敷に入るよう促す。変わり果てた姿になった主人の帰宅に、庭で洗濯をしていたメイドがぎょっとする。
「だ、旦那様!? 一体何が」
「こやつはわしら星騎士を裏切った。じき、この街にも知らせが届く。こやつの夫人を拘束しておけ、共に罪人として裁きにかけるでな」
「は、はぁ……」
コリンに凄まれ、メイドは冷や汗を流しながら頷く。それを見届けた後、コリンはグリルゴと共に屋敷に入る。
案内を受け、屋敷の奥にある物置部屋に向かう。扉を開けると……そこには、十六歳ほどの少年──ディルスと、十二歳ほどの少年──ソールがいた。
二人とも、金色だったろう髪がくすみ、顔も身体も傷だらけだった。突然やって来たコリンとグリルゴを見て、兄弟は驚く。
「え? え!? ど、どうして叔父さんが……それに、あなたは」
「お兄ちゃん、この人……もしかして」
「済まぬのう、ようやく助けに来られたわい。ディルス、ソール。そなたらはもう自由じゃ。誰にも虐げられることはない。これからは、わしが守るでな」
虐待されていても、コリンのことは知っているようだ。びっくりしているディルスとソールの元に歩み寄り、コリンは笑いかける。
「ほんと? ほんとに、もういじめられないの? ぶたれたり、腐ったご飯を食べさせられたりしないの?」
「助けて、くれるのか? 俺とソールを」
「もちろんじゃ。年齢の問題で、わしが後見人になるのは無理じゃが……ラインハルト殿にそなたらを引き取ってもらう。もう、怯えながら暮らす必要はないのじゃよ」
コリンの言葉に、兄弟たちは堰を切ったように泣き始める。以前の時間軸で、コリンはソールから聞かされていた。
グリルゴ夫婦だけでなく、屋敷で働く使用人たちにも虐められ居場所がなかったと。そんな彼らの境遇に、コリンは涙を流す。
「よしよし、もう大丈夫じゃよ。さ、行こうか。いつまでもこんな場所にいてはならん。これからは、誰にも虐げられることなく自由に暮らせるのじゃから!」
「ありがとう、英雄さん! 俺、あなたから受けた恩を絶対忘れないよ!」
「ぼくも!」
ディルスとソールはコリンに礼を言い、共に物置部屋から出ようとする。が、その時。部屋の隅に座り込んでいたグリルゴが喚き出す。
「おい、待て! 何でわしをここに縫い止める? 頼む、連れて行ってくれ! 折れた鼻と腕が痛いんだ、医者に」
「黙れ、ゲスめが。貴様に明日はない、怪我の治療など不要じゃ。この部屋の中で、甥たちに与えた苦痛の大きさを思い知るがよい!」
「そ、そんな! 頼む、行くなぁぁぁぁ!!」
闇魔法で動きを封じられたグリルゴは、情けない声で叫ぶ。だが、そんな彼を無視してコリンは兄弟を連れ部屋を去って行く。
これで、歴史は変わった。起こるはずだった悲劇は事前に防がれ、邪神とその崇拝者たちは完全に滅び去ったのだ。
「おお、そうじゃ。一つ試してみたいことがあったのう。前の時間軸での記憶と力、アシュリーたちに復元出来るかやってみよう。やはり、全てを知っておいてもらった方がいいからなぁ」
そう呟きながら、コリンは屋敷を出る。そして──仲間たちの元へと戻っていった。
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邪神との戦いから、七日が過ぎた。平和が取り戻されたことを、大地の民全てが祝っていた。眠るのも忘れ、この七日騒ぎっぱなしだ。
そんな中、コリンはディルスたちも含めた星騎士を全員集める。以前の時間軸の記憶と、培い覚醒させた力の復元を試みていた。
結論から言えば、その試みは──見事、成功した。コリンというイレギュラーがいたおかげで、本来ならば不可能である『存在しなくなった時間軸』の記憶を取り戻せたのだ。
「よくやったな、コリン。ありがとよ、まさかアタイらの記憶まで元に戻してくれるたぁな。驚いたぜ、ホントに」
「わしも驚きじゃよ、ダメ元でやってみたら成功してしもうたんじゃからな。じゃが……これで、みんな仲良く平和を謳歌出来るのう」
アルソブラ城の大広間にて、コリンは仲間たちと食卓を囲む。一人ひとりを愛おしげに眺めていると……?
「ほーんと、コリンちゃんには感謝しかないわぁ! アタシの死を回避してくれたどころか、バッチリ一族の呪いまで解いてくれちゃったんだもの!」
『私も感謝しているよ、コリン。おかげで、こうしてまたアニエスやお父様と出会えたわけだからね』
「ふふ、そう言ってもらえると感無量じゃよ。マデリーン殿にテレジア」
歴史が変わったことで、マデリーンの死も回避された。おまけに、メルーレの死でバーウェイ一族にかけられた呪いも解けたのだ。
性別が元に戻り、かつての美貌を取り戻したマデリーンは朗らかに笑う。隣に座るイザリーも、とても幸せそうにしている。
一方、テレジアはコリンの手引きで本来より早く目覚めることが出来た。これからは、家族仲良く暮らしていけるだろう。
「星騎士を代表し、礼を言わせてくれ。ありがとう、コーネリアス。歴史を変え、全てを救ってくれて……本当に、感謝で胸がいっぱいだ」
「ふふ、これでもう憂いることは何もない。さあ、祝杯をあげようぞ! 新たな歴史の始まりを祝って!」
「かんぱーい!」
コリンの号令に合わせ、星騎士たちは手に持ったグラスを高く掲げる。ここから先の未来は、誰にも分からない。
だが、一つだけコリンたちにも分かることがある。いつまでも、愛する仲間たちと共に。末永く暮らせるのだと。




