235話─兄に捧ぐ勝利
ソールとの話し合いの末、作戦は決まった。コリンはエリザベートに指示を出し、反撃のため雲から外へ飛び出す。
が、そんな彼らが目にしたものは……雲を囲むように配置された、大量の刃の羽根だった。雲に隠れている間に、羽根をバラ撒いたのだ。
「ちょっ!? 何ですのこのえげつない量の羽根! こんなの全部避けるとか無理ですわ!」
「待っていたぞ、お前たちが戻ってくるのをな。どうだ、見応えがあるだろう? これだけの羽根を揃えるのに、結構苦労したのだ。派手に血飛沫をあげて死んでくれたまえ! ブレードグリッガー!」
「来るぞよ、ソール! そなたの力、今ここで借りるぞ!」
『ええ! スターコンバート……』
「ピスケス!」
逃げ場の無いエリザベートに向けて、ラディウスは左手に持った剣を投げ付ける。直後、コリンはネックレスに宿るソールの魂から力を借り受ける。
双魚星の力がコリンに宿り、赤色の魚鱗に覆われた半魚人の姿に変わる。剣がエリザベートに迫る中、星の力が発動した。
「その剣を届かせはせぬ! スケイルシールド!」
「や、やりましたわ! わたくしのキューティクルマイハートは守られましたわぁぁ!!」
「何だと? バカな……有り得ぬ、何故お前がファンダバル家の力を使えるのだ?」
「知りたいか? じゃが教えぬ! あの世で謎解きするのじゃな、ラディウス! わしとソールの合体技を食らえ! ディザスター・ブーメラン!」
ソールの力を用いて攻撃を防いだコリンを見て、ラディウスはそれまで変わらなかった余裕の態度を初めて崩した。
そんな宿敵に、コリンは反撃を行う。左手首に生えたヒレに闇の魔力を纏わせ、ブーメランのように投げ付ける。
「いけー!」
「バカめ、安易に飛び道具を使うとは。自分から首を絞めにくるとはな!」
「果たしてそうかのう? 刮目して見るがよい、ラディウス。ソールが編み出した、復讐の一手を! グレートフィン・キャプチュード!」
コリンが指を鳴らずと、回転しながら飛んでいっていたヒレが破裂する。凄まじい数に分裂し、空を漂う羽根に纏わり付く。
「なんだ? 何を……!? は、羽根が落ちていく……バカな、何故増えない!?」
「簡単なことよ、破壊すると増えるなら……壊さずにそっと包み込み、そのまま落下させてフェードアウトさせるのみよ」
『ラディウス、お前が作り出せる羽根の限界は把握している。今ある羽根を消去しない限り、新しく作れない。でも、僕の魔力を宿したヒレで包まれている限りは、自由に羽根を消せないぞ!』
ヒレが空を舞い、刃の羽根を傷付けぬよう優しく包み込む。こうしてしまえば、小さく砕けて分裂することも出来ない。
自分の手の内を知り尽くしているソールを敵に回した時点で、ラディウスの勝利出来る可能性は限りなくゼロに近いところまで下がっていたのだ。
「くっ……! 羽根に頼らずとも、お前たちを倒すことは出来る! クロスバースト・スラッシャー!」
「甘いですわね、自由に動けるのなら余裕でかわせますわ!」
神将技を封じられてなお、ラディウスは果敢に攻める。その間に三分が経過し、一旦ソールとの繋がりが途切れ変身が解けた。
五分耐え凌げば、再びソールとリンクしラディウスにトドメを刺せる。その時に備え、コリンは魔力を練り上げ蓄える。
「ちょこまかと小賢しい! ダブルブレードブーメラン!」
「ひえぇぇぇ!! た、啖呵を切ったはいいものの攻撃が激しすぎですわ! コーネリアスさん、まだですの!?」
だが、そう簡単に勝たせてくれるほど邪神の子は甘くない。卓越した剣技の前に、エリザベートは逃げの一手を打つ。
ブレス等の遠距離攻撃は神の力による障壁にて防がれ、近寄って爪や牙を振るえば二振りの曲刀によっていなされてしまう。
いくら魔神の再生能力があると言えど、真正面から突っ込んで勝つのは困難極まりない。故に、エリザベートは回避に徹するのだ。
「よし、五分経ったぞよ! ソール、もう一度わしに力を!」
「そうはさせぬぞ! スパイラル・パラライザー!」
クールタイムが過ぎ、再びネックレスの力を発動出来るようになったコリン。ソールに呼びかけるも、そこにラディウスが突っ込んでくる。
「まずい、このままでは……」
「コーネリアスさん、大丈夫ですわ! 貴方を真上にブン投げます、わたくしが攻撃を受け止めている間にネックレスを! てやっ!」
「おあああああ!?」
エリザベートは疲労しきっており、まともにかわせるだけの体力が残っていない。直撃を食らえば、コリンもただでは済まないだろう。
そこで、エリザベートは荒業を使う。コリンを手で掴み、真上に放り投げて逃がしたのだ。ラディウスを押さえ込むための、捨て身の策だ。
「バカめ、なら先にお前を殺すだけだ! お前が死ねば、あやつは地上に落ちるだけだからな!」
「ぐっ、ううう! そう簡単に、わたくしは死にませんわよ。なにせ、頑丈なのが昔っからの取り柄ですもの!」
ラディウスの攻撃が炸裂し、エリザベートの腹を貫く。その様子を見下ろしながら、コリンは再びソールの力を受け取る。
「エリザベートよ、そなたの献身をムダにはせぬぞ! ソール、やるぞよ!」
『はい! スターコンバート……』
「ピスケス!」
命を賭したエリザベートの行動に応えるべく、コリンは再度半魚人の姿になる。エリザベートに身体を掴まれ、動けないラディウスの上に落ちていく。
『ラディウス、覚悟しろ! 兄さんの痛み、思い知れ!』
「くっ、まずい……! 早く剣を引き抜かねば!」
「逃がしませんわよ、手と尻尾でガッチリ掴んでやりますわ!」
「食らえ、ラディウス! 合体奥義……ディザスター・フィン・カッティンソー!」
闇の魔力をほとばしらせ、コリンは全身に纏う。自らを巨大なヒレのギロチンに変え、ラディウス目掛けて降下する。
「ええい、いい加減に離せ!」
「かしこまりましたわ、では離します。真っ二つになってくださいませ、おーっほっほっほっ!」
「なっ!? しまっ……ぐうあああ!!」
「これで……」
『終わりだぁぁぁぁ!!』
何とか逃れようとするラディウスだったが、もう時間切れだ。エリザベートが離脱した直後、コリンが落下してくる。
真っ二つに両断されたラディウスは、断末魔の叫びをあげながら地上に落ちていく。元の姿に戻ったコリンをキャッチし、エリザベートは笑う。
「やりましたわね、二人とも。これで、邪魔者は片付きましたわ!」
「うむ、それに……最後の神魂玉も、わしの手中に収まったわい」
抉られた腹を再生させているエリザベートに、コリンはトドメを放つ中で掠め取った【瑠璃色の神魂玉】を見せる。
そんな中、ネックレスからソールの声が響く。感極まっているようで、若干涙声になっていた。兄の仇を討てたことに、心から感謝しているようだ。
『ありがとうございます、コリンさん。これで……兄さんの魂も、きっと浮かばれると思います』
「こちらこそ礼を言うぞよ、ソール。そなたのおかげでラディウスに勝てた。わしとエリザベートだけでは、奴の切り札に対処出来なかったからのう」
互いに感謝の言葉を交わした後、いよいよヴァスラサックの潜むルゥノール城へと向かう。もう、行く手を阻む者はいない。
ゼディオ、デオノーラ、メルーレ、ラヴェンタ、オルドー……そしてラディウス。六人の邪神の子は、コリンの手で滅びた。
後は、ヴァスラサックを打ち倒せば──イゼア=ネデールに真の平和が戻る。城の入り口の前にある広場に着いたコリンは、エリザベートから降りる。
「よっと。エリザベート、助力感謝する。ここから先は、わしらに任せておくれ。そなたは地上に戻り、身体を休めるとよい」
「そういうわけにはいきませんわ。わたくしが帰ったら、貴方が帰れないじゃありませんの。無事に戻るまで、ここで待ちますわ。さ、行ってらっしゃいな。ドキツい一発をブチかまして差し上げなさいませ!」
「うむ! 必ず勝って戻る。約束じゃ!」
言葉を交わした後、コリンは正面扉を破り城の中に入り込む。てっきり、中にはダルクレア兵がいると思っていたが、誰もいない。
「ふむ、生命反応は一つだけ……最上階じゃな。首を洗って待っておれ、ヴァスラサック。今度こそこの手で葬ってくれる! わしら星騎士全員でな!」
そう叫んだ後、コリンは最上階に向かうため走り出す。そんな彼の首元で、ネックレスが揺れながら光を放つ。
十三人の星騎士が一丸となり……今、最後の戦いに臨む。




