222話─喜ばしい再会
結局、その日はソールに話を聞くことが出来なかった。ラインハルトはキャラバンを連れ、一旦北ランザーム王国の首都……メーバンに戻る。
各国に書簡を送りつつ、戦力と物資の補給をするためだ。三日かけて、コリンたちはガルダ草原との国境近くにあるメーバンに到着した。
「綺麗な街じゃのう。この街も、水路が張り巡らされておるのじゃな」
「ああ。物のやり取りや、敵が攻めてきた時の区画封鎖がスムーズに出来るからね。さ、こっちに。まずは王に謁見しよう」
「そうか、この国にも王がいるのじゃな。では、失礼がないようにせねば」
街に入った後、ラインハルトは部下たちに指示を出して準備をさせる。その間、コリンとイザリーを連れて王の住む城に向かう。
ゴンドラに乗り、水路を進んでいく。街は活気に満ちており、そこかしこのしょうてんから客を呼び込む声が聞こえてくる。
「みんな元気ね、とっても楽しそう」
「ダルクレア聖王国の統治から解放されたからね。みな、自由に商売出来るようになって喜んでいるのさ」
「そのようじゃの、わしも嬉し……ん? あの店は!」
ゴンドラの中からのんびり街を眺めていたコリンだったが、ある店を見て顔色を変える。喜色満面の笑みだ。
見つけたのは、四年前に開催されたスター・サミットに参加する際に立ち寄ったレストランだった。どうやら、ルペリエからメーバンに店を移したらしい。
「ラインハルト殿、城に行く前にあの店に寄ってもいいかえ?」
「ん、いいぞ。私も少し腹が空いたからな、何かつまんでいくのもいいだろう」
ラインハルトから許可を貰い、コリンたちはゴンドラを接岸させレストランに向かう。中に入ると、四年前コリンたちをもてなした店主がいた。
「はい、マルゲリータピザ三人分ね! 了解し……お、いらっしゃい! 空いてる席に──!? あ、あなたは!」
「久しいのう、店主さん。壮健なようで何よりじゃ」
「お久しぶりです、コリンさん。いやー、こんなところで再会出来るなんて嬉しいものですな! これも星のお導きってやつでしょうなぁ!」
店主の方も、コリンとの再会を満面の笑みで喜ぶ。店主は客の対応をウェイトレスに任せ、奥の事務所にコリンたちを連れて行く。
「どうぞ、粗茶しかありませんがゆっくりくつろいでください」
「ありがとう、いただこうか」
「んー、いい香り。美味しそうな紅茶ね」
紅茶を振る舞われる中、コリンたちはお互いの身の上話をする。この四年、邪神の支配下に置かれた中で生活が一変したようだ。
「祖国から家族が疎開してきましてね。ルペリエもすぐに陥落するだろうと、店を閉めてあちこち放浪してたんです。この四年、ずっと」
「それは大変じゃったのう。でも、また店を開けたようでよかった。そなたのピザは絶品じゃからな、また食べられるのは嬉しいぞい」
「ああ、私もよく世話になっているよ。レジスタンスのメンバーからも好評でね、喜んで食べるのさ」
「ありがたいことですよ、そのおかげで新しい店を持てましたから。ピザ釜だけは手放すまいと死守した甲斐がありましたよ、はっはっはっ!」
コリンたちと、心底嬉しそうに会話をする店主。お互い無事に生きて会えたことが、この上なく嬉しいのだろう。
一通り話をした後、店主は店の方に戻る。かつてのように、またコリンたちにピザをご馳走してくれるのだと言う。
「今日は素晴らしい記念日だ、あなた方だけでなく、店にいる客全員にピザを振る舞いますよ!」
「わー、やった! よかったね、コリンくん」
「うむ、とっても楽しみじゃ。今からよだれが止まらぬわい」
コリンとイザリーは、お互いを見ながらそう口にした。
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「ふー、この辺りに潜んでたダルクレア軍の残党もあらかた始末出来たな。ジャスミン、そろそろカンが戻ってきたか?」
「ええ、おかげさまでね。お父さんが無茶振りばっかりするから、無理矢理カンを取り戻させられたわ。全くもう」
その頃、ガルダ草原南東部にドレイクとジャスミンの姿があった。オルドーの元から逃げ延びた後、各地を回っていたのだ。
監禁生活でなまってしまったジャスミンの鍛錬と、ダルクレア軍の残党討伐を兼ねて。転移石を使って各地を巡っていたが、その旅もそろそろ終わりのようだ。
「さって、これでガルダ草原に潜んでた連中は全滅させられたし。次はどこに行こう……ん?」
「やっぱり、この気配、ドレイク。久しぶり、元気、してた?」
「おっ、リュミんとこの嬢ちゃんか! 久しぶりだなぁ、巡回か?」
「そう。マリス、パトロール。悪いやつ、怪しいやつ、見つける。殺す」
次にどこへ行こうか考えていると、一陣の風が吹いてくる。直後、人間戦車と化したマリスが二人の元にやって来た。
ドレイクたちのように、草原を巡回して敵の残党がいないかチェックしていたようだ。予想外の再会に、三人は喜ぶ。
「こんにちは、マリスさん。あの時はありがとう。私や獣人たちを助けるために奮闘してくれたって、お父さんから聞いたわ」
「気にする、いらない。マリス、当然のことした。お礼、コリンに言う。喜ぶ」
「コリンか……。そうだよな、そろそろ会いに行って礼を言わないとな。マリス、コリンが今どこにいるか知ってるか?」
エル・ラジャッドでの一件以来、ドレイクたちはコリンと会えていなかった。居場所も知らないため、マリスに尋ねる。
「コリン、南、いる。ラインハルト、一緒。ランザーム、行った」
「ランザーム……解放された北の方か。んじゃ、そっちに行ってみるか。ありがとよ、マリス。ジャスミン、行くぞ」
「はーい! マリスさん、教えてくれてありがとね」
「どういたしまして。コリンに、よろしく」
そう告げた後、マリスは車輪を回転させ草原を駆け抜けていく。彼女が去った後、ドレイクは懐から転移石を取り出した。
「よし! そんじゃ行くとするか! とりあえず、メーバンに飛んで情報収集だな。早いとこ見つかるといいんだが」
「そうね、私もコリンくんに会いたいもん。助けてくれたお礼もしたいしね」
「お礼……? ハッ! お前まさか、コリンにしょ」
「変な想像してんじゃないわよ、このエロオヤジ!」
「アバーッ!!」
うっかり口を滑らせたドレイクの股間を、ジャスミンが思いっきり蹴り上げる。情けない悲鳴が、草原にこだまするのだった。
◇─────────────────────◇
一方、ピザを食べ終えたコリンたちはレストランを出てゴンドラに乗り込んでいた。寄り道を終え、今度こそ城に向かう。
「さてさて、新しい王はどんな人物かのう」
「旧王家は断絶してしまってね。貴族たちも大分減って、正統な家柄の者を探すのに苦労したよ。何とか、ゼビオン王家の遠縁の者を見つけられた」
「そうか……そなたも別のベクトルで苦労しておるのじゃのう」
「なに、国を建て直すためにはどんな苦労も厭わないさ。四年前の屈辱に比べれば、どんな苦労も楽なものだ」
そう口にした後、ラインハルトは苦虫を噛み潰したような顔をする。四年前、旧ランザーム王国は真っ先に邪神の子に滅ぼされてしまった。
その事を恥じ、自分を責めているのだろう。そんな彼にかける言葉が見つからず、コリンもイザリーも黙り込んでしまう。
しばらくして、水路の終点にたどり着く。ゴンドラから降りて、三人は通りを進む。すると、白銀の輝きを持つ城が見えてきた。
「あれが王の住む城、オルダーン城だ。ピザを食べている間に、連絡は入れてある。面倒な手続きなしで、すぐ入れる」
「左様か、では王の元に……へぶっ!」
「きゃー! ごめんなさい、大丈夫!? ちょっとお父さん、変なとこに転送しないでよ! ……って、コリンくん!?」
「おお、その声はジャスミン! 元気そうで何より……なのはいいのじゃが、なにゆえわしの上に?」
「そりゃ、オレたちが転移してきたからだよ。久しぶりだな、コリン。こうしてツラ会わせるのは黄金郷で会った時以来だな!」
突如、コリンの真上にジャスミンがテレポートしてきた。思いっきりのしかかられ、コリンは倒れてしまう。そこに、ドレイクも遅れて現れる。
これでようやく、十二星騎士とその関係者全員が……無事、コリンと再会することが出来たのだった。




