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207話─死闘、そして……

「まずい、毒のせいで力が出なイ……!」


「これで終わりだ! はぁっ!」


 何とか抜け出そうとしたフェンルーだったが、毒が全身に回り動きが鈍ってしまう。結果、脱出に失敗し顔面からリングに叩き付けられる。


「恐怖の人体破壊の妙技、炸裂ゥー! 流石のチャレンジャーも、今回ばかりは完全ダウンかー!? それとも、不屈の精神で」


「待て、実況。おい、オレ様の控え室に行ってここに書いてあるものを持って来い!」


「へ? は、はいー! 皆様、少々お待ちをー!」


 フェンルーをダウンさせたラングバルだったが、途端に顔をしかめる。実況を中断させ、魔法で作ったメモ用紙を実況者に投げ渡す。


 一時離脱した実況は、ラングバルの控え室へと向かう。少しして、金色の液体で満たされた注射器を持って戻ってきた。


「も、持ってきましたぁー!」


「よし、それを投げ渡せ! 嬢ちゃん、あんた……誰かに毒盛られてるだろ」


「!? わ、分かるノ……?」


「おう。オレ様もよく、対戦相手から毒を盛られるんだよ。だから分かる。その顔、オレ様の技を食らった苦痛だけに悶えてるんじゃねえってな」


 注射器を受け取ったラングバルは、フェンルーの首筋に解毒剤を打ち込む。すると、身体のダルさがスーッと引いていく。


「どうして助けたノ? ワタシに毒が回ってる方が勝ちやすいの二」


「ばぁか、んな勝ち方はオレ様のプライドが許さん! 正々堂々、オレ様の力でねじ伏せて勝つ。それが暴君の矜持だ!」


「……ふふ、アンタいい人だネ。オルドーの仲間なんて、みんなクズだと思ってたけど訂正するヨ」


 解毒剤のおかげで、フェンルーは回復した。先ほどの攻撃によるダメージも、休んだことである程度回復している。


 もっとも、リングに直撃した額からはそれなりの量の血が出ているが。胴体のガードに使っていた帯を使い、応急処置を行う。


「ここからはもう助けねえ。お前を倒すことだけに専念させてもらうぞ、嬢ちゃん」


「望むところだヨ! さあ、ここからが本番ネ!」


 毒の処理が終わり、戦いが再開される。先に動いたのは、ラングバルの方だった。もう一度フェンルーの首を掴み、奥義の餌食にしようとする。


「これで終わりにしてやる! 壊体八封殺、終の」


「させないヨ! 白羊柔拳、閃光帯段蹴り!」


「おーっと、チャレンジャー逆襲! チャンピオンの奥義を不発に終わらせたー!」


 最後の奥義を放とうとするラングバルだったが、いつもの調子を取り戻したフェンルーの方が速かった。階段状にした帯を駆け上り、膝蹴りを放つ。


 渾身の一撃がラングバルの顔面を捉え、動作を中断させる。そして、一気にトドメを刺しにいく。


「終わりだヨ! 白羊剛拳、活殺奈落落とし!」


「ぐっ……がはっ!」


 フェンルーは八本の帯全てを展開し、奥義を放つ。腕の帯でラングバルの身体を掴み、バネ状にした足の帯を使い飛び上がる。


 空中で残り四本の帯をラングバルの四肢に巻き付けて動きを封じ、腹のうえにフェンルーが乗る。そして、リングに激突するのと同時に帯を絞った。


 結果、ラングバルの手足はへし折れ、胴体にもフェンルーのストンピングが炸裂する。流石の暴君も、これには耐えられなかった。


「み、見事だ……がふっ」


「き、決まったぁぁぁぁ!! 波瀾万丈の試合を制したのは、チャレンジャーの方だぁぁぁ!! 新たなチャンピオンが誕生しましたーーー!!」


「わああああああ!!」


 試合終了のゴングが鳴り響くと同時に、観客たちの声援が飛ぶ。額から垂れる血を拭いながら、フェンルーはにこやかな笑みを浮かべた。



◇─────────────────────◇



「さあ、皆様お待たせしました! 世界一危険で過酷なレース……『モーター・ハート・ラン』チャンピオンカップの時間がやって参りました!」


 フェンルーとラングバルの戦いに決着がついた頃。コリンはサーキット場にて、レースが始まるのを待っていた。


 スタートラインには、コリンやチャンピオン……ナイトライアを含めた十八人のレーサーが集っている。全員愛車に股がり、エンジンを吹かしていた。


「今回のレースの舞台は、死の罠が満ちたフォーラの古城! 今度もまた、多数の犠牲者が出る予感! 果たして何人のレーサーが生き残れるでしょうか!」


(みな、随分と殺気立っておるのう。やはり、チャンピオンがいると空気が変わるな。というか、だいぶ物騒なことを言うなこの実況は!? チャンピオンカップはそんな無法地域なのかえ!?)


 これまでコリンが参加したトライアルカップは、レーサー同士の直接攻撃こそあれど死人が出るようなことは幸いにもなかった。


 だが、今回は違う。モーター・ハート・ランの真骨頂、チャンピオンカップの恐ろしさを、コリンは味わうことになる。


「さあ、開始までに本レース注目の選手を一人紹介しましょう! この三週間、トライアルカップで不動の王者としてのし上がったダークホース! コリン選手! 愛用バイクは驚くなかれ、三百七十馬力を誇るモンスターマシンだ!」


 実況が口上を述べる中、ついにレースの準備が整った。三つのランプが順に灯り、最後に三つ目の青いランプが点灯する。


 その直後、全てのレーサーが一斉にマシンを走らせる。モニター越しに、観客たちはレーサーたちに声援を送り始めた。


「いけー、チャンピオン! 今回もぶっちぎりで勝てー!」


「コリン様ー! ファイトー!」


「さあ、レースが始まりました! 生きるか死ぬか、二つに一つ! 果たして、最後まで生き残るのは誰だー!?」


 選手たちはバイクを加速させ、トップに躍り出ようとする。が、チャンピオンたるナイトライアに追い付くのはそう簡単ではない。


「どけ、俺が前に出るんだ!」


「ざけんな! 邪魔するとクラッシュさせるぞてめぇ!」


「やれるもんならやってみろやオラァッ!」


 次第に速度による差がつきはじめ、トップを走るナイトライア、そこから十数メートル離れたトップ集団、さらにその後ろに後続……という形になる。


 そんな中、トップ集団の中で争いが始まった。あらかじめ距離を取り、後ろの方にいたコリンは警戒心を強める。嫌な予感を感じたのだ。


 そして、その予感は現実のものとなる。


「じゃあ遠慮はしねえ! 死ねや!」


「ぐあっ! やべぇ、ハンドルが……ぎゃあああ!!」


 トップ集団の一人が、別のレーサーに体当たりを仕掛けた。体当たりを食らった方は操縦不能に陥り、壁に激突しリタイアとなる。


 バイクと壁に挟まれ、どう見てもレーサーは死んでいる。だが、コリン以外は気にも止めない。誰もが、自分が生き残るのに必死なのだ。


「おっと、早くも一人脱落! 死んだのは八番のオットー選手です! 最初の難関はこれから、そこまで後何人死ぬのでしょうか!」


「おのれ、滅茶苦茶なことを言いおるわ。これは、わしも気を引き締めねばならぬな」


 脱落ポイントを通り過ぎる際、コリンは心の中で黙祷を捧げる。助けてあげられなかったことを悔やみながらも、レースを続行する。


 少しして、最初のカーブが見えてくる……が、あまりのとんでもなさにコリンは目を疑ってしまう。


「な、何じゃあれは!? なんでインとアウトにバカでかい丸ノコが!?」


「さあ来ましたよ! フォーラの古城最初の難関、丸ノコの直角カーブ! インに寄りすぎてもダメ、アウトに膨らみすぎてもダメ! ちょうど真ん中を通らないと、丸ノコでズタズタになりますよ!」


「め、滅茶苦茶すぎる! こんなコース、誰が作ったんじゃ!」


 コリンたちの数十メートル前に、右に曲がる直角のカーブが見えてきた。が、殺す気満々のトラップに思わず悪態をつく。


 そんな中、最初にカーブに到着したナイトライアは一切スピードを落とさず、丸ノコの間をすり抜けて通過していった。


「チャンピオンが抜けたぞ! 俺たちも続け!」


「げーこげこげこ。おいらの泡で、丸ノコを止めるゲロ!」


 観客たちが興奮で沸く中、先頭集団も魔のカーブに差し掛かる。八人のうち、カエル獣人の女が口から泡を吐きアウト側の丸ノコを泡で覆う。


「お先にゲロ~!」


「よし、あいつのおかげでアウトに脹らんでも安心だな! 俺たちも続くぞ!」


 カエル獣人がカーブを抜けた後、残りの七人も泡を利用して安全に進もうとする。が……。


「そうはさせないゲロ! おいら以外はみ~んな死ぬゲロよ!」


「ゲッ!? あ、泡が弾けた!? まずい、このままじゃ……ぎゃあああ!!」


「いやああ!! と、止まれな……あああっ!!」


「これは残酷! 十三番のリッガー選手、トップ集団を手玉に取り丸ノコの餌食にしてしまったー!」


 カエル獣人……リッガーは他のレーサーがカーブに差し掛かったところを狙い、泡を割ってしまった。結果、泡をアテにしていたトップ集団は一人を除いて全員が丸ノコに切り刻まれてしまう。


「ヒュー! いいぞー!」


「こうでなくちゃ面白くねぇ! もっと殺せ! 潰し合えー!」


「……むごいことを。ここは地獄じゃ。実におぞましい……!」


 観客たちが賑わう中、コリンは一人呟く。死のレースは、まだ始まったばかり。地獄は、ここから始まるのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 格闘チャンプも脳筋な見た目通り曲った事は嫌うか(ʘᗩʘ’) しかも解毒剤までくれるとは(゜o゜;これでお別れなのはチト残念だな(◡ ω ◡) そして最後にコリン達のレースだけど(↼_↼)チ…
[一言] >「み、見事だ……がふっ」 ラングバル、アンタは嫌いじゃないよ……。
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