191話─キョウヨウ強襲作戦!
翌日の朝、コリンたちは以前寄港したヤサカ西部の港街、ミトヨ……ではなく、直接キョウヨウに向けて船を進めていた。
ヤサカの南に広がる海を迂回し、直接キョウヨウに乗り込む予定なのだ。キョウヨウ自体は内陸の都であるが、ツバキに策があるという。
「キョウヨウから南に十数キロ……狭い入り江と直接通じているトンネルがある。それを利用すれば、陸路より早く到達出来よう」
「そんな便利なものがあるなんてね~。偉い人たちの避難用かしら~?」
「左様。本来であれば、事変の際に御門が使うはずだったのだが……」
甲板の上で、ツバキとカトリーヌはそんな会話を交わす。朝もやが周囲を包む中、船は海面から突き出た無数の岩を避けて進む。
「カーカカカ! 殿下、無事入り江に船を寄せられましたぞ!」
「うむ、助かったぞよネモ殿。よし、乗り込むぞよみんな! 電撃作戦開始じゃ!」
「おーーー!!」
万が一の自体に備え、ネモを船の番に残してコリンたちは入り江に作られた小さな船着き場に降り立つ。そこからひたすら、北へと進む。
三時間ほどかけて、コリンたちはキョウヨウに……いや、かつてキョウヨウの都があった場所に到着する。そこで彼らが見たものは……。
「な、何じゃあれは? 動く屍……いや、それにしては生気を感じるが……」
「何が起きているのだ? みな、あの日波に呑まれて死んだはず……」
キョウヨウ跡地には、粗末な小屋がいくつも建っていた。そこで、生気のない表情をした人々が暮らしているようだ。
まるでゾンビのような人々を前に、ツバキですら戸惑い困惑している。その時、どこからともなくラヴェンタの声が響く。
『やっほー、やっぱり来たね。待ってたよ、手ぐすね引いてね!』
「ラヴェンタ、貴様都の人たちに何をした!」
『アタシのパワーを増幅するために、生命エネルギーを抜き取らせてもらったのよん。二年前にアタシを邪魔したヒミコとかいうのとその配下の侍たちも、一人を除いてみーんなおんなじ状態にしたよ』
「てめぇ、全員をゾンビにしやがったのか!」
『違うよー? 死なれたら継続的な生命エネルギーの徴収が出来なくなるからねー、まだ生きてるよ。でも、アタシが死んだらみんな死ぬけどね! アハハハハ!』
ラヴェンタの言葉が終わった瞬間、生気を抜かれた人々が一斉にコリンたちの方へ顔を向ける。精神を支配されているようで、コリン一行に襲いかかってきた。
「まずいな、どうするコリンくん。彼らを下手に傷付ければ、死んでしまうぞ」
「とはいえ、ここで大人しくやられてやる義理はなし、じゃ。テレジア、エステル、フェンルー。そなたらであれば、彼らを殺さず無力化出来るはず。ここを任せたい!」
「よっしゃ、ウチらに任しとき! 足止めするのは得意やからな!」
植物のつるや砂、帯。それらを上手く使えば、操られている人々を傷付けることなく無力化出来る。そう踏んだコリンは、エステルたちに対処を任せ先へと進む。
「何とか入り込めたはいいけどよ……結局、ラヴェンタの野郎をぶっ殺したらあいつらも死ぬンだろ?」
「それでも、拙者はラヴェンタを殺す。奴に操られながら生きるより……安らかに死んだ方が、みなも喜ぶだろう」
キョウヨウ跡に入り込んだ一行は、奥に見えている巨大な和風の城を目指す。その途中、アシュリーがポツリと呟いた。
それに対し、ツバキはキッパリと言い切る。例え故郷の人々が死ぬことになろうとも、ラヴェンタを討ち禍根を断つ、と。
「……そうか。ならば、その業をわしらも共に背負おうぞ。そなた一人だけに、罪を負わせばせぬ」
「かたじけない、コリン殿。しかし、先ほどのラヴェンタの言葉……一人を除いてと言っていたが、もしや……」
コリンの言葉に頷いた後、ツバキはブツブツと何かを小声で呟く。そうしている間に、一行は操られている者たちを振り切り城にたどり着いた。
正門の両脇には、巨大な金剛力士像がそびえ立っている。まるで、門を守護するかのように。
「ほあー、でっかいお城。この中にラヴェンタが……」
「そのようだ。みな、城へ」
「そうは……させぬぞ!」
城を見上げ、その威容に感心しているイザリーたちにツバキが声をかけた次の瞬間。門の両脇に立っていた像の目に、光が宿る。
慌ててコリンたちが退避する中、一対の金剛力士像が動き出す。ゆうに身長十五メートルはあるだろう青銅色の巨体が、コリンたちを威圧する。
「我は阿形!」
「我は吽形!」
「我らはラヴェンタ様に作られし、このシラン城の番人なり!」
「この城には、アリ一匹たりとも入れるなと命じられている。ここで始末させてもらおう!」
一対の巨像は、野太い声で叫ぶ。彼らを見ながら、コリンは仲間たちに指示を出す。
「奴ら……ただ者ではない。みな、聞いておくれ。強行突破はかなり難易度が高い。入り込めるのは二人が限度と見た」
「では、お坊ちゃまとミス・ツバキが優先して城に入るべきでしょう。そのためのサポート、わたくしたち全員で行います」
「うむ、済まぬな。みな、わしとツバキが門を突破するために力を貸しておくれ」
阿形・吽形の攻撃をかいくぐり、全員が門を突破するのは至難の業だ。そこで、あらかじめ侵入するメンバーを決め、残りが巨像たちの相手をする。
その間に、侵入するメンバーが門を突破して城内に入り込む。それがコリンの考えた作戦だった。
「任せておきな。そろそろ暴れたいと思ってたところだ。派手にぶっ壊してやるよ、あのデカブツどもをな」
「うふふ、腕が鳴るわね~。わたしの怪力を見せつけちゃうわ~」
「サポートは私に任せて。歌魔法、パワー全開でいくから!」
「全てわたくしにお任せを、お坊ちゃま。必ずや、活路を開くための力となりましょう」
一定の距離まで近寄らなければ阿形たちは動かないようで、コリンたちは好きなだけ作戦を立てられた。そして……。
ついに、作戦実行の時がやって来る。星の力を覚醒させたアシュリーとカトリーヌが、真っ先に阿吽コンビに走り寄る。
「行くぜカティ、久々のコンビプレーだ! 星魂顕現・レオ!」
「ええ、楽しみねシュリ! 星魂顕現・タウロス!」
「愚かなり。あのまま逃げ帰っていればよいものを」
「よほど我らに踏み潰されたいと見える。なれば、望み通りにしてやろう!」
射程距離内にアシュリーたちが入り込んだことで、ついに阿吽コンビが動き出す。大きな足を上げ、二人を踏み潰そうとする。
「そうはいかないわよ、歌魔法……疾風のバラード! 今よ、コリンくんたちも走って!」
「うむ、行くぞツバキ!」
「承知!」
足が振り下ろされる直前、イザリーが歌い出す。歌の力によって全員の俊敏性が上昇し、より機敏に動けるようになった。
待機していたコリンとツバキも走り出し、正門へ真っ直ぐ向かう。幼なじみコンビと交戦していた阿形が、それに気付く。
「ぬうっ、城には入らせぬぞ!」
「あら~、どこ見てるのかしら。あなたの相手はわたしよ~? それっ、バハクインパクト!」
「ぐぬう……!」
腕を伸ばし、コリンたちを捕まえようとする阿形。そこに、カトリーヌが攻撃を放つ。脛を擲られた阿形の動きが止まり、妨害は失敗した。
「コリンくん、今のうちに行って!」
「ありがとう、カトリーヌ! ツバキ、ゆくぞ!」
「あと少しだ、急いで走ろう!」
カトリーヌの協力で妨害を切り抜けたコリンとツバキは、正門に向かって走る。その途中、コリンは魔力を練り上げる。
あらかじめ闇魔法で正門を破壊しておき、スムーズに侵入出来るよう下準備をするつもりなのだ。十分に練った魔力を使い、コリンは魔法を放つ。
「それっ! ディザスター・ランス【回転】!」
「やった、門が壊れた! これで城に」
「そうはさせぬぞ!」
無事門を破壊したコリン。到達まであと十メートルほど……というところで、今度は吽形が妨害に動く。城の一部を破壊し、瓦礫で門を塞ぐつもりだ。
「おっと、そうはいかねえぜ! 押し戻してやる、フレアエア・スピアー!」
「ぐ、ぬおっ……! ぐう、まだだ! 指弾発射!」
「やべっ、急げコリン!」
吽形と戦っていたアシュリーは、槍から凄まじい熱風を放ち相手を後退させる。これで妨害は防いだ……と思われた次の瞬間。
なんと、吽形は左手の親指の先端を弾丸のように発射したのだ。指の破片が城に命中し、瓦礫が門を塞ぐべく落下してくる。
「やれやれ、わたくしがいてよかったですね。……ハァッ!」
「す、凄い! 瞬く間に瓦礫が粉砕されていく……!」
「さあ、今のうちに! お坊ちゃま、あと少しです!」
「うむ、みな助かったぞよ! さあ、城に突入じゃ!」
それまでイザリーの足下にいたマリアベルが、地を蹴って一瞬で瓦礫の元に飛翔した。門を塞がないように、瓦礫を粉砕して道を開く。
仲間たちの力により、コリンとツバキは無事城の中に侵入することが出来た。ラヴェンタとの決戦が……いよいよ、始まる。




