163話―暴虐の使徒! 渇命神将デオノーラ!
七日後、アニエスたちがいる旧公国領北東部にデオノーラ率いる征伐軍が現れた。その数、五万。ワルドリッターを倒すには、過剰とも言える戦力だ。
「デオノーラ様、見えてきました。奴らの拠点です」
「ふーん、クソエルフの分際でオオトリデマイマイなんて使役してんだ。ナマイキだなぁ、まずはアレを殺そっかな! 神将技、エメラルド・サクション!」
部下たちが四人掛かりで担ぐ御輿のような玉座に座ったまま、デオノーラは、ニヤリと笑う。直後、立ち上がりつつ玉座を蹴って加速し、飛び出す。
両手を緑色に輝かせ、デオノーラは叫びながら砦に拳を叩き込む。すると、それまで地面に潜っていたマイマイ本体が苦しそうに暴れ出した。
「で、出た! デオノーラ様の切り札が!」
「あれを食らったが最後、全身の生命力を吸い尽くされて死ぬんだ……。いつ見ても恐ろしい技だぜ」
兵士たちがざわめく中、マイマイがみるみる干からびていく。数分もしないうちに、生命力が尽きて息絶えてしまう。
本体が死んだことで、殻である砦が崩壊して瓦礫の山と化す。バックステップで距離を取った後、デオノーラは舌打ちをする。
「チッ、中には誰もいないわね。大方、砦を捨てて地下トンネルに逃げたってトコかしら? 全員、トンネルに突撃しなさい。クソエルフどもを皆殺しにするのよ!」
「デオノーラ様、それは危険すぎます! 敵がどんな罠を張り巡らせているか分からな」
「うるさいね。じゃあお前はいらないわ。一兵卒の分際で、アタシに指示するな! クズめが!」
「うぎ……」
デオノーラが指示を下すと、無謀にも一人の新人兵士が反論した。周囲にいた兵士たちが青ざめる中、デオノーラがキレる。
一瞬で軍団の方へ跳躍し、踵落としを食らわせて物言わぬ肉塊へと変える。遥か格下の存在である大地の民に指図されたことが、よほど気にくわなかったらしい。
「さっさと行きな、クソエルフどもより先に殲滅されたいの!? トンネルに入って、ちゃっちゃか首を狩ってこい!」
「は、はいいいぃぃぃぃ!!!」
怒鳴られた兵士たちは、砦の残骸のすぐ側にある地下トンネルの入り口へと殺到する。ワルドリッターと戦った方が、まだ生き残れるチャンスがある。
全員がそう判断し、危険に満ちた地下世界へと突撃していった。それを見送ったデオノーラがフンと息を吐いてから、少し経った頃。
「今じゃ、アニエス! ワープマーカーを!」
「任せて! とりゃあ!」
「なっ! あんたらいつの間に!?」
兵士たちが全員トンネルに消えたのを見計らって、突如コリンとアニエスが姿を現した。二人の耳には、一つずつピアスが装着されている。
作戦遂行のため、アシュリーから借りた認識阻害のピアスだ。二人は最初から地上におり、ずっと待っていたのだ。デオノーラが一人になる瞬間を。
「くっ……! ん? ここは……ヘミリンガ?」
「デオノーラ、お前との決着はここで着けさせてもらうよ。同胞たちの怨みがこもったこの地でお前を倒して! みんなの供養をさせてもらう!」
「へえ、面白いこと言うじゃん。四年前、何も出来なくて逃げるしかなかったクソザコがさぁ!」
二人の最初の目的は、デオノーラを主戦場から隔離すること。デオノーラさえ引き剥がせば、後はゲリラ戦で敵を始末出来る。
そこで二人は、もぬけの殻になったヘミリンガにデオノーラ共々出戻ったのだ。広い広場にて、三人は対峙する。
「そうだね、あの時は何も出来なかった。でも、今は違う。ボクは強くなった。それに……今はししょーだっているからね!」
「邪神ヴァスラサックの子デオノーラよ、覚悟するがよい。貴様の悪事も今日で終いじゃ。その命、ここで貰い受ける!」
「はっ、調子に乗らないでよね。ゼディオにぃをぶっ殺したからって、アタシまで倒せると思わないことね! トリニティ・ウッドハンマー!」
デオノーラは背中から禍々しい色合いの木の枝を三本生やし、束ねる。ジュラカのものより大きく、打面に無数のトゲが生えたハンマーを作り出した。
片手で柄の部分を掴み、鎖鎌のように勢いよく回転させてコリンとアニエスを攻撃する。二人は一旦距離を取り、それぞれの攻撃を行う。
「食らうがいい! ディザスター・ランス!」
「リーフラッシュリッパー!」
闇の槍と、木の葉形をした刃が飛んでいく。デオノーラは鼻で笑いながら、一旦柄から手を離す。両手を発光させ、前に突き出した。
「あんたたちが何をしようともムダなのよ! 神将技、エメラルド・サクション!」
「くっ、ディザスター・ランスが塵に!」
「効かないのよ、何もね! 全部枯れて滅びるのよ、このアタシ……渇命神将デオノーラの前では!」
「そう上手くいくかな? ボクたちは簡単には枯らせないよ! リーフスラッパー!」
コリンたちの攻撃を手で掴み、消滅させたデオノーラ。彼女の背後に素早く回り込み、アニエスが攻撃を仕掛ける。
「援護は任せよ! ディザスター・スタンプ!」
「ハッ、デカいので叩き潰そうって? そんな小細工してもムダだっての。アタシの手は、触れるもの全てから命を奪う。あらゆるものを渇かせるのよ!」
一旦木のハンマーを消滅させたデオノーラは、右手を握り締める。頭上から降ってくる闇の鉄槌に向かってアッパーを放ち、迎撃した。
ハンマーが消滅させられ、突撃していったアニエスはデオノーラに踏みつけられる。アニエスを踏んづけた反動で、デオノーラは前に飛ぶ。
「あんたを殺すのはあと。だから……さっさとおねんねしてな! トリニティ・ウッドブロウ!」
「くっ、ディザスター・シー」
「遅い!」
「あぐっ!」
デオノーラは、アニエスを仕留めるのに邪魔になるコリンから戦闘不能に追い込むことを決めた。背中から再度木の枝を生やし、拳を形成する。
コリンは闇の盾で攻撃を防ごうとするが、間に合わずモロに打撃を食らってしまう。勢いよく吹き飛ばされ、家屋に激突して瓦礫の中に埋もれた。
「ししょー! お前、よくもししょーを!」
「邪魔者は片付いた。まずはあんたから地獄に送ってあげるわ、クソエルフ! いでよ、トリニティ・ウッドウェポン!」
コリンを排除したデオノーラは、本格的にアニエスを抹殺しにかかる。さらに木の枝を背中から生やし、斧と剣を作り出す。
拳と合わせて、三つになった武器を自在に操りアニエスを攻め立てる。激しい攻撃に、アニエスは反撃に以降出来ない。
「くっ、もう! 攻撃が激しすぎ!」
「七百年前、アタシはあんたの先祖……シルヴァードとゴルドーラに敗れた。それ以来、ずっと待ってたわ。雪辱を晴らし! あいつが愛したクソエルフどもを根絶やしにする日を!」
「知ってたよ、お前がご先祖様に倒されたことは。一族に伝わる歴史書に書いてあった。もしお前が復活したら、今度こそ息の根を止めてくれってね! 反撃させてもらうよ、ラウンドムーン・スライサー!」
振り下ろされた木の剣を避け、アニエスは反撃に出る。双剣を構えて突撃し、円を描くように斬りつけるが……。
「バカだね、足元がおろそかよ。バウンズ・トラップ!」
「しまった、足が!」
あと少しで刃がデオノーラの首に届く、というところで妨害が入った。地面から突き出た木の根が、アニエスの足に絡み付き動きを止める。
そこに、緑色に輝く手が伸びてくる。全ての命を渇き殺す、絶望の手が。
「これでもう終わり。覚悟しなさい! 神将技、エメラルド・サクション!」
「あぐっ……あああああ!!」
デオノーラの手が、アニエスの首を掴む。生命力や魔力の全てが吸い取られていくのを、アニエスは感じていた。
身体が渇き、ヒビ割れ、ミイラのような姿になっていく。最後の力を振り絞って剣を振るうが、易々と弾かれてしまう。
「諦めて死ね。安心しなさい、すぐにみんなあんたのところに送ってあげる。だから、一足先に地獄に落ちてろ、クソエルフ。あはははははははは!!」
「ボク、は……まだ、こんなところで……死ね、な……」
デオノーラの高笑いが響く中、アニエスの意識は闇の中に呑まれていった。
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「う、ここは……? 真っ暗な闇以外、何もないや」
目を覚ますと、アニエスは漆黒の闇の中に立っていた。周囲を見渡していると、懐かしい声が聞こえてくる。
『随分と苦戦しているな、アニエス。やはり、一人では……厳しい相手のようだな』
「! この声……もしかして、お姉ちゃん!?」
『ああ、私だよアニエス。済まない、目を覚ますのがだいぶ遅れてしまった。ここからは……共に戦おう。同じ血と魂を分けた双子……私、テレジア・オーレインがね』
声が響いた直後、闇の中に一筋の光が差し込む。光は人の形になり……四年前、アニエスと一つになり眠りに着いた双子の姉。
テレジアの姿となって、アニエスの前に現れた。四年の時を経て、双星の姉妹が――ついに、再会を果たしたのだ。




