160話―暗黒植物、ビボルダルツリー
翌日の朝。コリンやエルフたちがまだ寝ている間に、ソレはやって来た。音も無く、無数の木の枝が砦に伸びる。
周辺の土中の養分を吸い取って急成長を遂げた、戦闘型ビボルダルツリー。通称、ビボルウォリアーが襲ってきたのだ。
「ふああ、もう朝じゃのう。それにしては、何やら外が暗いような――!? って、のわあっ! な、なんじゃこれはぁぁぁ!?」
一方、目を覚ましたコリンが見たのは……窓の外を覆う、無数の木の枝だった。ビボルウォリアーは、砦全体を枝で覆っていたのである。
「コリン! コリン! 窓の外見たか!? 何かやべぇモンが巻き付いてるぞ!」
「今見ておるところじゃ! 一体全体、なんなんじゃこの木の枝は!?」
凄まじい光景に驚いていると、部屋の扉をブチ破ってアシュリーが飛び込んでくる。彼女も窓の外のアレを見たようで、かなり動転していた。
その時、砦のあちこちからメシッという嫌な音が響く。木の枝がキツく絞まり、砦を圧壊させようとしていることにコリンたちは気付く。
「むむっ、いかん! この木の枝、わしらを砦ごと粉砕するつもりじゃ!」
「おいおい、それはまずいだろ。はえぇとこ何とかしねぇとみンな死ぬぞ!?」
「かくなる上は……。アシュリー、わしは砦に魔力を流し込んで耐久力を底上げする。そなたはアニエスたちと協力し、攻撃を仕掛けて来ているモノを破壊するのじゃ!」
「分かった、すぐにアニエスとフェンルーを叩き起こしてくるぜ! 頑張って耐えてくれよ、コリン!」
コリンが砦を守っている間に、アシュリーたちが木の枝を操っている存在を見つけ出して倒す。その作戦を実行するため、アシュリーはすぐに動く。
「あっ、アシュリーちゃん! ねぇねぇ、見た!? 外のアレ!」
「アニエス、起き……てるな。時間がねぇから簡潔に言う、アタイと一緒に来い! 外のアレをぶっ壊すぞ!」
「ラジャー!」
アニエスの部屋に飛び込んだアシュリーは、すでに起きていた彼女に手短に説明を行う。状況を理解したアニエスは、即座に支度を整える。
次に、二人はフェンルーが借りている部屋に向かうが……。
「ぐあー、ぐおー」
「てめぇ、こンな非常事態に大いびきかいてンじゃねぇ!」
「おぶぁ!」
「エ゛ア゛ッ゛!」
フェンルーは爆睡していた。掛け布団が吹っ飛び、お腹丸出しの状態でよだれを垂らしていたのだ。それを見たアシュリーは、容赦なく腹にエルボーをブチ込む。
その衝撃で目を覚ましたフェンルーは、思わず飛び起き……アシュリーとお互いの頭が正面衝突した。ゴッ!という、鈍い音が響く。
「おあおおお……! な、なンつー石頭してやがるこいつ……!」
「アイヤー! 頭が、頭が割れるネェェェ!!」
「もー、何やってるのさ二人とも! それ、本来はボクの役割なんだよ!」
「ツッコむところソコじゃねえだろ!」
頭を押さえてのたうち回る二人を見て、アニエスはズレたツッコミを入れる。それに対して、アシュリーがツッコミを返す。
このままわちゃわちゃしているとコリンに怒られるため、アシュリーはフェンルーにも手短に作戦を伝えて部屋を出る。
「二人とも行くぞ! まずは砦から出ないといけねぇ。正面出入り口は……あった、ここだ」
「ダメだぁ、外から押さえ付けられてて扉が開かないよ!」
「なら、ワタシにお任せネー。二人とも、離れテ! 白羊剛拳、流星紅降脚!」
正面玄関にたどり着いた三人だったが、案の定扉を開けられないよう外から押さえられていた。それを見たフェンルーは、星遺物を呼び出す。
帯を壁に突き刺し、パチンコのように力を溜める。そして、勢いよく自分自身を射出し、飛び蹴りで強引に扉をブチ破った。
「あーあ、後でユミルが怒るなぁこれ。まあしょうがないか、早くいこ!」
「木の枝が中に入ると困るカラ、穴はおケケで塞いでおくヨー」
「じゃあ、ボクが上から蓋しとくね。これでよし……っと。さ、れっつごー!」
扉に空いた穴から外に出た後、フェンルーが羊毛で穴を塞ぎ、その上からアニエスが大量の葉っぱで蓋をした。これで、木の枝は中に入れない。
無事外に出た三人は、木の枝をたどって大元へ進んでいく。少しして、アシュリーたちは攻撃を仕掛けている相手のところに到達した。
「な、なんだこりゃ!? でっかい……木、なのかこれは」
「多分、見た目からしてビボルダルツリーだと思うけど……自立して動くのなんて、見たことないよ!」
「……キタ、カ。薄汚イエルフドモメ」
「わっ、喋ったぁ!?」
アニエスたちの目の前に、二十メートルはあろうかという巨大な樹木が立っていた。強力な認識阻害の魔法が働いているようで、近くに立つまで存在を認識出来なかった。
「ソウ、トモ。我ハ改良サレタビボルダルツリー、名ハジュラカ! オ前タチノ命、ココデ貰イ受ケル!」
「ハッ、たかが樹木風情がアタイらを殺す刺客だってか? おもしれぇ、かかってきな。アタイの炎で燃やし尽くしてやる!」
「こんなヤワな枝、ワタシが全部バキバキにへし折っちゃうもんネ!」
「そうだよ、なんてったって、ボクたちは星騎士だからね!」
改良型ビボルダルツリーことジュラカは、表面に浮かぶ目の全てをアシュリーたちに向ける。木の枝の一部が鋭い槍になり、三人を囲む。
「こりゃ手は抜けねえな。フェンルー、やるぞ!」
「オッケー! 星魂顕現……」
「レオ!」
「アリエス!」
今回の敵は強い。直感でそれを見抜いたアシュリーはフェンルーに声をかけ、共に星の力を覚醒させる。獅子と羊の力を纏い、二人はアニエスを挟んで並び立つ。
「ひゃあ、二人とも強そうだね。いいなあ、ボクも早く覚醒したいよ」
「なぁに、戦ってりゃそのうちアニエスも目覚めるだろうさ。さあ……あのとうへんぼくを斬り倒してやろうぜ!」
「ムダナコトヲ。貴様ラハ生カシテ帰サン! トリニティ・ウッドハンマー!」
ジュラカは三本の枝を束ね、太い樹木のハンマーを作り出す。それを振り上げ、三人を狙って勢いよく振り下ろした。
「ここはワタシに任せて! コットンウォール!」
「ムウッ、跳ネ返シタダト!?」
「かーらーノー! 白羊剛拳、斬月踵落とし!」
フェンルーは平べったい羊毛の塊を作り出し、抜群の弾力性で樹木のハンマーを跳ね返す。直後、脚に巻いた帯をバネにして飛び上がる。
跳ね返されて無防備になったハンマーに向かって、フェンルーは強烈な踵落としを炸裂させる。ハンマーは木っ端微塵になり、木片と化した。
「オノレ、ヨクモ! プランツスピアー!」
「させねえよ、今度はアタイの番だぜ! 華炎十文字払い!」
自由落下中のフェンルーを仕留めようとするジュラカだが、そこにアシュリーが打って出た。星遺物を呼び出したアシュリーは、槍に炎を纏わせる。
そして、素早く槍を十字に振り払いフェンルーに迫る枝の槍を消し炭へと変えた。あまりの熱量に、ジュラカは苦しそうに呻く。
「アリガト、助かったヨ!」
「ふわぁ……二人とも凄いや。ようし、ボクだってやってやる!」
「ゴミ共ガ……! ソレ以上ヤラセハセヌ! イデヨ、我ガ分身タチヨ!」
アシュリーとフェンルーの奮闘に感化され、アニエスも攻めかかろうとしたその時。地中から八本のジュラカの根が出現し、人型に変化した。
両手が鋭い刃物になっており、斬られればタダでは済まないだろうことが一目見て分かる。本体への攻撃を阻止せんと、デコイを呼び出したのだ。
「行ケ、分身タチヨ! 奴ラヲ翻弄シ、斬リ刻ンデシマエ!」
「チッ、八体もいやがるか! 面倒だな、こ」
「ていっ! ダンシングムーン・リッパー!」
アシュリーたちを取り囲み、突撃する分身たち。アシュリーが迎え撃とうとした瞬間、アニエスが駆け出した。
双剣を呼び出し、舞い踊るかのように振るう。瞬きする間に、八体の分身は切り刻まれて消滅した。
「どう? 星の力が覚醒してなくても、十分戦えるんだよ。何たって、ししょーの一番弟子だからね!」
「むー、ズルイ! ワタシも一番弟子になりたーイ!」
「いや、どう足掻いてもお前は二番弟子だろ」
敵の前だというのに、追撃が来ないのをいいことにわいわいしているアシュリーたち。それを見ながら、ジュラカは呟く。
「オノレ……調子ニ乗リオッテ! ……ククク、マアイイサ。精々、今ノウチニイイ気ニナッテイルコトダ。本当ノ地獄ガ、モウスグ始マルノダカラナ」
アシュリーたちは、まだ知らない。戦いの最中、ジュラカがデオノーラに信号を送っていることを。




