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101話―亡霊の魔剣士

「オラオラ、どけどけーーー!!! キャプテン・ドレイク様のお通りだ! 町民たちは引っ込みな! 教団の奴らは逃げるなよ、ぶっ殺してやる!」


「な、なんだこいつ……うぎゃあ!」


 そこかしこで火の手が上がるキョウヨウに飛び込み、ドレイクは大斧を振るう。狼藉を働く教団の信者たちを、三人まとめてなます斬りにしてみせた。


 一人で勝手に進んでいくドレイクは一旦放置し、コリンたちは逃げ遅れた町民たちの保護と、都の外へ脱出するための手伝いを優先して行う。


「さ、わしらが来たからにはもう安心じゃ。教団の連中に捕まらぬよう、外に逃がすでな」


「ありがとうございます……! 突然のことすぎて、みな混乱してしまって……」


「さ、こっちだ。外にさえ出りゃ、もう問題はねぇからな。コリン、アタイとアニエスは他の場所も見てくる。ここは任せたぜ!」


「うむ、頼んだぞよ!」


 アシュリーとアニエスは、都の奥に向かい逃げ遅れた人々を救助しに向かう。残ったコリンとツバキは、逃げてくる人々を守る盾となるべくその場に残る。


「今ごろは、キョウヨウを守る守衛隊が敵の本隊と戦っているはず。ここに教団の者たちが逃げてくることもあるかもしれない。お互いに注意しておこう、コーネリアス殿」


「うむ、そうじゃな。そうそう、今さらじゃがわしを呼ぶ時はコリンでいいぞよ。本名で呼ばれるのは慣れておらぬでな、こそばゆいのじゃ」


「了解し……」


「クアアァァアアア!! 警告! 警告! 闇霊(ダークレイス)『血狂いの羅刹』レキシュウサイ接近中! 接近中! 警戒セヨ! 警戒セヨ!」


 コリンたちがそんなやり取りをしていた時、マリアベルから渡された黒いドクロ型の水晶が現れた。けたたましい声で叫びながら、何者かの接近を知らせる。


「な、なんじゃいきなり!? どこからあらわれ」


「ほふふふ、ここにいたか。今宵、我が刀の錆となる者たちは。ふは、どちらもとても良い。上質な魂の波動を感じるぞ……!」


「! コリン殿、危ない! ふーっ!」


 直後、コリンの背後にゆらりと不気味な黒い影が現れる。それに気付いたツバキは、口から泡を吐いて道を作り出す。


 それに乗り、高速で滑りながらコリンと謎の影との間に割って入る。魔力を束ね、コウサカ家に伝わる星遺物を呼び出しながら。


「いでよ、星遺物『断殻刀』! 貴様、何者ぞ。その面拝ませてもらおう!」


「おっとっと、かなりの太刀筋だ。実に素晴らしい……そうか、お前がコウサカ家の……ほふふふ、これは僥倖なり!」


 蟹を模した鍔を備えた、金色に輝く刀身を持つ刀がツバキの手に握られた。コリンは転がって離脱し、攻撃の軌道から逃れる。


 これで遠慮はいらぬとばかりに、ツバキは影に向かって刀を振り下ろす。それに対し、影はジグザグに曲がった刀身を持つ刀で攻撃を防ぐ。


「ふほほ、これは素晴らしい! 攻撃を入れる角度、最も強い威力を発揮するための力の微調整……全てが完璧だ! 良い、実に良い! 我が魂が震えるぞ!」


「生憎、貴様のような下郎に誉められて喜ぶような感性は持ち合わせていなくてな。そろそろ、貴様の面を拝ませてもらうぞ! はぁっ!」


 歓喜に震える相手に、嫌悪に満ちた表情で吐き捨てた後ツバキは蹴りを入れる。即座に刀を横に薙ぎ、切っ先で相手の顔を斬った。


「む……? 気を付けよ、ツバキ殿! あやつ、今の攻撃が効いておらぬぞ!」


「ふぅ……む。やはり素晴らしい太刀筋だ。我が愛刀、雷光血鳥によく馴染むだろうよ。お前の魂は――!」


「バカな、手応えはあった……なのに何故、傷一つないのだ!?」


「残念だったなぁ。某は肉体を持たぬ亡霊。どれほど研ぎ澄まされた刃や、鍛え抜かれた魔法でも。滅ぼすことは不可能なのだ! このレキシュウサイをな!」


 そう叫ぶと、顔の部分の影が少しずつ薄くなっていく。そして、男の素顔があらわになる。しわの刻まれた顔には、歓喜の笑みを浮かべ。


 瞳には吸い込まれそうなほどの異様な輝きを放つ、狂気に満ちた光が爛々と灯っている。男――レキシュウサイは妖刀を構え、ツバキを見つめた。


「まずはお前だ。お前の魂から吸い取ってやろう。さあ、差し出せ。力強く脈動する、美しき魂をォォォォォ!!」


「くっ、こやつ狂っているな。コリン殿、力を貸してくれ! 共にこやつを討ち果たそうぞ!」


「うむ、わしも力を貸すぞよ! ディザスター・ランス!」


 雷光血鳥を構え、走り出すレキシュウサイ。コリンは狙いを定め、闇の槍を発射する。避けようともしない相手に、見事命中した。が……。


「!? バカな、確実に胴体を貫いたはず! なのに何故死なぬ!?」


「言っただろう? 某は亡霊。死者は斬れぬ。穿てぬ。滅ぼせぬ。不死身なのだよ、某は完全なる不死の存在なのだぁ!」


「フン、ならばその妄言が本当なのか試させてもらおうか。刃性変換、断殻刀【斬鉄】! 細切れにされてなお生きていられるか……確かめてやろう!」


 ツバキが叫ぶと、断殻刀の刃が金からにぶい鉛色へと変化する。それと同時に、刀そのものが纏う雰囲気も重々しいものに変わった。


「おお、なんじゃ? 刃の色が変わったぞよ」


「我が愛刀は、蟹の足になぞらえ十の特性と姿を持つ。その一つが、この【斬鉄】だ。鍛えられた鉄をも切り裂く鋭い切れ味、見せてやる!」


「ほふははは! よかろう、さあ来るがよい! 足掻いてみせろ、命の温もりが消え去るその瞬間までなァ!」


 刀を構え、勢いよく切りつけるツバキ。レキシュウサイも得物を構え、攻撃を受け止めようとする。が、【斬鉄】の切れ味は彼の想像を越えていた。


 断殻刀の一撃が雷光血鳥の刀身をも切り裂き、レイシュウサイの身体ごと両断してみせたのだ。これには、流石のレキシュウサイも驚きを隠せない。


「おおお……! 素晴らしい、実に素晴らしい! これほどの剣豪がいるとは……ほふふふ、大地を渡り、この地へやって来た甲斐があったわ!」


「くっ、両断しても死なないのか! こやつ、まさか本当に不死身だというのか……?」


「参ったのう、これでは流石のわしもお手上げじゃわい。かような者、どうやって葬れば……」


 胴体を真っ二つにされてもなお、レキシュウサイが死ぬことはなかった。何事もなかったかのように、胴体も刀も元通りになってしまう。


 もはや打つ手なしか……と思われたその時。再びドクロ型の水晶が現れる。またけたたましい叫び声が聞こえる……と思ったコリンだが、聞こえてきたのは……。


『やあ、ぼくです。アゼルです、聞こえていますか?』


「ぬ!? 何故アゼルの声が? このタイミングで何の用じゃ?」


「! アゼルだと? まずい……ここは一度、念のために退却しておくとするか」


 声の主が何者なのか気付いたレキシュウサイの瞳から、狂気の光が消える。刀を体内に仕舞い、その場から逃走しようと背を向けた。


「コリン殿、奴が逃げてしまうぞ!」


「今は追わずともよかろう、奴が向かったのは都の外。幸い、町民たちが逃げたのとは別の方角じゃ。仕留める方法がない以上、追ってもムダじゃよ」


「それもそうか。くっ……自分が不甲斐ない。みすみす敵を見逃さねばならぬとは」


 逃げていくレキシュウサイの背中を睨み付けながら、ツバキは悔しそうに唇を噛む。そんな中、空中を漂うドクロからアゼルの声が響く。


『大丈夫ですよ、二人とも。ぼくがあいつの倒し方を教えますから。やり方さえ分かれば、案外楽ですよ?』


「そういえば、先ほど何やら叫んでおったが……どういう意味があるのか教えてもらえるかのう?」


『ええ、もちろん。そのために、この黒ドクロの水晶を渡したのですから。……とはいえ、今は後回しですね。まずはこの騒ぎをなんとかしないと』


 アゼルとしてもいろいろ教えたいところではあるが、今はそれよりも人命救助と教団の撃滅が最優先。落ち着いてからでも遅くはないと判断を下した。


「うむ、そうじゃな。ツバキ殿、わしらも都の奥に行こう。レキシュウサイもすぐには戻るまい、今のうちに教団の本隊を叩くのじゃ!」


「承知した。では、拙者に着いてきて。近道を知ってる、そこを通る方が早いからね」


「分かった。恐らく本隊は御門を狙って進軍しておるじゃろう、急ぎ向かわねばなるまい」


「御門のいる宮は、父上をはじめとした手練れが守っている。持ちこたえてはいると思うけど……拙者たちも加勢しないと」


 レキシュウサイへのリベンジを誓いつつ、二人は都の中央へと走っていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] バカが(ʘᗩʘ’)初戦殺し必須の闇霊の癖にアゼルの名前だけでびびって逃げ出すとは(◡ ω ◡) やはりあの大戦から逃げ延びて来た腰抜けか(ب_ب)
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