89 部活の話
部活動
「そういえば、海斗が剣道部でレギュラーになったそうです」
お姫様抱っこのあと、俺は先生の晩酌に付き添いながらそんなことを話していた。その言葉に先生は驚いたような表情で言った。
「弟くん、剣道部だったのか。てっきりあの容姿だからバスケとかサッカーかと思ってたよ」
「どっちも過去に輝かしい成績を持ってますよ」
「イケメンで運動神経もいい、その上で成績はどうなんだ?」
「基本的に学年一位です」
「それはまた・・・凄いな」
「ええ、自分の弟ながら恐ろしくなります」
昔からなんでも出来る弟。コンプレックスがないかと聞かれればそんなものは、はなから持ち合わせていない。優秀な弟をきちんと褒めてあげるのも兄の役目。例えどれだけ自分が平凡でもそんなことを気にしないで接してあげなくてはいけない。
むしろ、俺が持ち合わせないものを持ってる弟を誇りに思うくらいだ。
そんな俺の言葉に頷いてから先生は言った。
「なるほど、弟くんの性格の理由をなんとなく察したよ」
「そうですか?」
「ああ、普通これだけスペックの差があれば劣等感とかで疎遠になりそうなもんだが・・・お前がそういう性格だからこそあの弟になったんだろうな」
「俺は別に何もしてませんよ。ただ健やかに育って欲しいと願っただけです」
母さんが死んでから俺と父さんしか海斗の面倒を見れなくなった。だから俺は少しでも寂しくないように海斗のことを見守ってきたのだ。母さんとの約束でもあったから。そんな俺の言葉に先生は優しく微笑んで言った。
「そういうお前の真っ直ぐな気持ちが良かったんだろうな。年の近い兄弟にありがちな友達感覚が、きちんと保護者としてのものになってるからこそ今の関係は生まれるのだろうな」
「そう・・・なんでしょうか」
「ああ、お前の弟は凄い奴だ。だが、私から言わせればお前の方が凄い奴だよ健斗」
そうやって、ストレートに褒められるのはなんとも嬉しいが恥ずかしい気持ちになる俺の頭を撫でて先生は言った。
「だから、たまには私にも甘えてくれ。私の前ではもっとリラックスしてくれて構わない」
「・・・ありがとうございます。なら、遥香さんも俺の前ではリラックスしてください」
「ああ、約束しよう」
「なら早速・・・少しだけ膝枕使わせて貰えますか?」
そう聞くと先生は微笑んで俺を膝まで誘導してくれた。ああ、やっぱり先生の膝枕はいいな。あまりの心地よさに思わず眠りそうになるがなんとか耐えて先生の膝枕を堪能する。こういう晩酌の時の先生との時間は凄く安心するので大好きだ。そんな風にこの日は過ぎていくのだった。




