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86 弟との電話2

久しぶりの弟くん


『・・・兄さん、それ本当なの?』


電話の向こうで不機嫌な顔をする海斗が目に浮かぶ。毎回ながら損な役回りだが、どちらも譲らないなら橋渡しが必要だとわかっているので、俺はいつも通りに海斗を説得する。


「すまないな海斗。俺もさっき聞いたばかりだけど、父さんが決めたならそれに従うしかない。一応父さんの新しい住みかに海斗の部屋も用意はするらしいけど、こっちに戻ってくるときは俺は遥香さんの家にいるからいつでも訪ねてきてくれ」

『・・・それって同棲だよね?いいの?』

「まあ、間違いが起こらなければ大丈夫だろう」


千鶴ちゃんもいるし間違いがおこるはずがない。まあ、とはいえ今までもよりも遥香さんの側にいられるのは嬉しい。これで家事にも余裕ができるし、もっと千鶴ちゃんと遊んだり、遥香さんの愚痴に付き合える。


『ま、別にあの家に思い入れはないからいいけどさ・・・兄さんあっさりしすぎじゃない?』

「そうかな?これでも動揺はしてるぞ」

『そのわりには嬉しそうにしてるけど、まあいいや。そんなことより、聞いてよ兄さん。僕、剣道部で次の大会出れることになったんだ』

「そうなのか、おめでとう。レギュラーでってことだよな?」


容姿端麗なイケメンな弟はどのスポーツでもかなりの成績を残しているが今は何故か剣道をやっている。前に授業でやったけど、汗で防具から凄い匂いするし、打たれると痛いしかなり大変な競技を真剣にやる弟に強い敬意を抱きつつ俺は言った。


「予定が合えば応援行きたいけど・・・」

『気にしないで。兄さんも忙しいだろうし、休みの日くらいはゆっくり休んでよ』

「そっか、わかった。でもあんまり無理するなよ。お前は要領いいのに時々無理するから兄は心配だよ」


昔から気合いをいれすぎてパンクすることがあるので思わずそう言うと海斗はそれに笑ってから言った。


『何年前の話をしてるのさ。僕ももう高校生だからね。体調管理くらいできるよ』

「それでも心配するのが兄ってもんだよ」

『そっか、なら今度夏休みに帰宅した時にでも美味しいご飯食べさせてよ』

「ああ、好物作って待ってる」


そう言うと海斗はそれに嬉しそうにしながら言った。


『なら、頑張って大会で成績残さないとね』

「おお、頑張れ」


そうしてなんとか話を反らしてこの話は終わったのだった。思ったより海斗の機嫌が悪くなかったのはきっと、元々部活の話をするためだったのだろう。部活か・・・俺は結局入ることはなかったな。料理部と手芸部に誘われたことはあったけど、自宅の家事とバイトに忙しかったからな。そんなことをポツリと思うのだった。



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