82 お祖父ちゃんと呼びな
女装お祖父ちゃん
「あれ?父さん?」
千鶴ちゃんを迎えにいってから先生の家に戻る途中で俺は見覚えのある、しかしこの時間この場所にはいないはずの人物を見かけて思わず首を傾げる。キョロキョロしていた父さんは俺を見つけるとこちらに駆け寄ってきた。なお、千鶴ちゃんが少しだけ身構えて俺の後ろに隠れたのでそれをなだめてから父さんに視線を向ける。
「丁度良かった。遥香さんから大雑把な住所は聞いてたけど迷ってたのよ」
「遥香さんに何か用事?というか今日仕事休みなの?」
「ええ、折角だから千鶴ちゃんの様子を見たくてね。ついでに遥香さんにも話があったし」
そう言ってから父さんは千鶴ちゃんに視線をあわせて笑いかけた。
「そんなに怖い顔しなくても大丈夫よ。あなたにとって私は他人じゃないからね」
「・・・おじさん、おにいちゃんのおじさんだよね?」
「うーん、そうね。どうせならお祖父ちゃんと呼んでくれるかしら。その方がいいわ」
父さん・・・いきなりそんなこと言っても千鶴ちゃんがわかるわけないでしょ。そんなことを思っていたが、一度面識があるからか、千鶴ちゃんは俺の後ろで震えつつも首を傾げて聞いた。
「ちーのおじいちゃんはほかにいるよ?」
「そうね、でもお祖父ちゃんはね基本的には二人はいるものなのよ」
「おじいちゃんはふたり・・・じゃあ、おじさんはちーのおじいちゃんなの?」
「ええ、だから怖がらなくてもいいわ」
「うん・・・」
なんとか笑顔を浮かべる千鶴ちゃん。なんだか絵面だけみたら誘拐の現場にも見えなくない。幸いこの辺はあまり人気はないから気にする必要はないかもしれないが、早めに撤収するに越したことはないだろう。
「父さん、とりあえずその話は遥香さんの家に着いたらしようね。千鶴ちゃんも怖いかもしれないけど、この人は優しいから大丈夫だよ」
「うん、おにいちゃんのいうことならちーはしんじる」
「ありがとう千鶴ちゃん」
そう言って頭を撫でると嬉しそうに笑う千鶴ちゃんだったがふと、疑問を口にした。
「でも、なんでおじさんはおとこのひとなのにおんなのひとのかっこうしてるの?」
「えっと・・・これがおじさんのお仕事だからだよ」
「おしごと?」
「そう、こういう格好でお酒を飲む場所があるの。千鶴ちゃんも大きくなれば自然と知ることだから今は気にしなくてもいいよ」
「うん。わかった」
なんだか無垢な子供に変なことを吹き込んだようで罪悪感が・・・後で先生に一応謝っておこう。しかし無垢な子供にこういう人間のある種のダークサイドを語るのはなかなか胸にくるものがある。『子供はどうやって作るの?』と『お父さんなんでいつもお仕事いくの?』と同じくらいに難しい質問だったような気がする。




