81 お昼は屋上
屋上イベント
「風が気持ちいいですね」
5月ともなれば少しづつ気温も高くなりはじめる頃。最近は異常気象などで時期外れの猛暑や積雪なんかも珍しくないが、そんな5月においてももっとも心地の良い天気にそう言うと先生は笑って言った。
「まあ、天気もいいしな。今度はちーちゃん連れてピクニックにでも行くか」
「いいですね。修学旅行で寂しい思いをさせちゃいますし、行きましょうか」
「だな。それに修学旅行とは別でちーちゃんを東京旅行にでも連れてってやりたいもんだよ」
二人きりになっても千鶴ちゃんのことを自然と話すのは染み付いた習性かもしれない。俺も最近は一人の時間は自然と二人のことを考えてしまうくらいなので、きっとそこまで大切なものになっているのだろう。
「行きましょう。東京でもどこでも」
「どこでもか、お前はどこか行きたいところはあるのか?」
「そうですね・・・千鶴ちゃんが動物の絵本を楽しそうに読んでたので動物園とか?」
「そうなのか、ならそこは行こう。って、いやいやそうじゃなくて、お前が行きたいところだよ」
そう聞かれて考えるが・・・特には思いつかなかった。強いてあげるならまったりできるだけど、そうだな・・・
「温泉とか?」
「渋いチョイスだな」
「いえ、なかなか遠出だと思い付かなくて。二人が行きたいところがあればどこでも楽しいですし、二人と一緒にいることが俺の楽しみですから」
そう言うと先生は少しだけ驚いたように目を丸くしてからくすりと笑って言った。
「生意気言うじゃないか」
「そうですか?」
「ちなみに温泉ってさっき言ったが混浴がある温泉旅館にでも行きたいのか?」
「混浴はあんまりですね」
「なんだ?私の裸には興味なしか?」
「いえ、そうではなくて」
むしろ興味津々なので困るのですが。
俺はしばらく言葉を選んでからポツリと言った。
「その・・・混浴だと、他のお客さんとかち合う可能性もあるので、遥香さんの肌を他の男に見せたくないと思って・・・」
「ほう、なるほど」
「だから出来るなら客室に露天風呂付いてるタイプがいいです。値段は高くなりますが、3人でも一緒に入れる選択肢を取りたいなと思いまして・・・あの、笑いますか?」
「いんや、むしろ嬉しくなったさ」
そう笑ってから先生は俺の頬に手を添えると優しく微笑んで言った。
「心配しなくても、お前の全てを私は受け入れるさ。だから安心して全てを私に委ねろ」
「なら、遥香さんも俺に全て委ねてくれますか?」
「もちろんそのつもりだ。後で泣き言言っても遅いからな」
「こちらの台詞です。俺は面倒な男ですから」
そうして笑いあいながらのんびりと昼食をとるのだった。きっとテスト期間で一番楽しかった出来事だろうと思う。




