36 お手てつないで
なつかれはじめた(^^)
「あら?こんにちは千鶴ちゃんのお兄さん。お迎えですか?」
「ええ」
保育園の先生とも随分顔見知りになってきた今日この頃、相変わらず父親候補ですとは言えずにそう頷くと先生は笑いながら言った。
「なんだか最近の千鶴ちゃん、前よりも明るくなったんですよね」
「そうなんですか?」
「きっといいお兄さんが出来たからなんでしょうね」
そんなことを言ってから千鶴ちゃんを呼びに行ってくれる先生。お兄さんか・・・いずれお父さんと呼ばれたいものだが、しかし千鶴ちゃんに俺が少なからず影響与えられているならそれはいいことだろう。
「でね、りっちゃんにこのまえのさくらのしおりみせたらびっくりしてた!」
「そうなんだ。千鶴ちゃん上手に作れてたからね」
笑顔で今日の報告をしてくれる千鶴ちゃんに少なからず嬉しい気持ちになりつつ頷く。この前までなら考えられない変化だが、アニメという突破口から一気に距離が近くなったのだろう。
「ちー、じょうずにつくれてた?」
「もちろん。千鶴ちゃんは手先が器用だから将来何でもなれそうだよね」
「えへへ・・・」
嬉しそうに笑う千鶴ちゃん。親バカみたいな台詞だが本心なので訂正はしない。
「千鶴ちゃんは将来の夢とかあるの?」
「えっと・・・ふたつあるの」
「二つ?」
「うん。ままみたいになるのと、およめさん」
めちゃくちゃ可愛い夢だった。まあ、千鶴ちゃんが先生に憧れるのはわかるし、お嫁さんというのも女の子なら憧れる子が多いイメージなのでわかる。まあ、千鶴ちゃんが誰か他の男に嫁にいくというのはお父さん候補の俺としては複雑な気持ちになる。
「どっちも千鶴ちゃんならきっとなれるよ」
「そうかな?」
「うん。千鶴ちゃんは好きな男の子いるの?」
「すきなおとこのこ?」
きょとんとしてから千鶴ちゃんは笑顔で言った。
「いないよ!」
「・・・そうなんだ」
ほっとすると同時に千鶴ちゃんを可愛いと思ってるであろう同年代の子供達が不憫になるが、まあ、まだ千鶴ちゃんには早いと心の中の頑固親父が言ってるのでそれに頷く。
「あのね・・・」
「ん?どうかしたの?」
すると、なにやら千鶴ちゃんはもじもじしてからぼそりと呟いた。
「おてて、つないでもいい?」
「もちろん」
そう言ってから千鶴ちゃんと手を繋ぐ。まさか先生より先に千鶴ちゃんと手を繋ぐことになるとは思わなかったが千鶴ちゃんはえらくご機嫌に言った。
「ままいがいのひととおててつないだのはじめて」
「そうなの?」
「うん。ぱぱはおそとでれなかったから・・・」
その言葉に俺は少しだけ眉を寄せそうになる。外に出れない・・・どういう意味だ?普通に考えれば病気かなにか、斜め上にいくなら引きこもりかニートあたりかな?
正直もっと千鶴ちゃんに前の父親のことを聞きたいところだが・・・なんだか千鶴ちゃんが父親のことを語るときは妙に暗いというか、若干恐怖しているように見えるのでこれ以外は聞かないのが得策だろう。
そんな風にして二人で手を繋いて帰る道は、端から見たら兄妹に見えてそうだけど、それでも一歩前進に変わりないので大丈夫だろう。




