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アストリアが図書館を訪れたのは、気分転換のためだった。
一般的な高校生が遊びに行くゲームセンターや、カラオケは護衛つきと言えどハードルが高かった。
なら、服でも買いに行こうかとも考えたがとくに欲しいものはなく。
少し気晴らし程度に、と護衛のお姉さんに相談すると図書館を提案された。
アストリアも本を読むのは嫌いでは無かったし、時間が潰せて嫌な考えに陥らなければそれで良かった。
図書館へは、車で向かう。
車の中で、護衛のお姉さんにオススメの本があるか聞いてみる。
すると、お姉さんが学生の頃に読んでいた作品を教えてもらった。
その時点で完結していて、当時でそれなりの人気があったという作品だ。
図書館に置いてあるかは正直わからないが、探してみようと決める。
学校の図書館と違って、街の方の図書館には本がどこにあるのか、または在庫状況なども確認できる専用のパソコンが三台ほど置かれていたが、生憎すべての席が埋まっていた。
仕方ないので、作者の頭文字から本棚を辿ってみることにする。
気分転換が目的なので、見つからなくても構わないという気軽さもあった。
でも、どこかで面白い作品を見つけたら学校が始まってからか、それともメールでテツにその話題を振るのも悪くないかもしれない、なんて打算的なことまで考えてしまう。
そんな考えをしている自分に気づいて、アストリアはもう何度目かわからない自己嫌悪に陥ってしまう。
「…………」
護衛のお姉さんと並んで、本棚を見る。
作者名からしてこの棚にある確率が高いそうだ。
お姉さんの後ろにくっついて本を探す。
(何してるんだろ)
不意にそんな考えが過ぎる。
共通の話題で盛り上がったとしても、彼は手に入らないのに。
とても虚しくなってしまう。
気づけば足は止まり、ぼんやりと本棚に並んだ本のタイトルを見つめていた。
と、先行していた護衛のお姉さんが戻ってきてアストリアに声を掛けてきた。
「おーーアストリアさん、本は見つかりましたか?」
公共の場では、アストリアは、さん付けで呼ばれている。
防犯対策のためだ。
しかし、いつもの癖が出そうになったのを見るに、普段は完璧そうな人でもミスはするんだなと改めて思う。
考え事に耽っていたこともあり、反応が少し遅れてしまう。
しかし、護衛のお姉さんは気にした様子もなく、言った。
「もう一度、検索機の方に戻ってみましょう。そろそろ空いてると思うので」
その言葉に従って、体の向きを変えたとき。
こちらを見ている少女に、アストリア達は気づいた。
アストリアの視線は、同い年くらいのその少女の持つ本に注がれる。
(あ、あった)
「はい?」
アストリアの声が漏れていたのか、少女が怪訝そうな声をだす。
「あ、すみません。この本ってどこにありましたか?」
変に思われてしまったかもしれない。
そう思いながら、アストリアは取り繕うようにして少女が持つ本について尋ねる。
作者名ではなく、ジャンルで探すべきだったのかもしれない、と今更に思う。
少女は合点がいったような表情になると、本があるであろう方向を指で指し示した。
「えと、あっちにあるみたいですよ?
自分もこれから探しに行くんです」
続けて、アストリアを案内してくれるようで、
「えと、こっちです」
そう言われた。




