78
と、そんなお兄ちゃんを追いかけるために、ドタドタと足音が響いた。
お兄ちゃんのお姉ちゃんであるタカラちゃんだ。
タカラちゃんは、お母さんに、
「タカラ、ご飯は?」
そう聞かれて、
「あのパンもらってく!」
と、言って戸棚を開ける音がした。
やがて、外に続く扉の前、つまりは僕の横にくると、お兄ちゃんと同じように頭を撫でてきた。
「あんの、クソ愚弟がっ!!
じゃ、ドンベエ行ってきます」
怒ったような、でも楽しそうな声で僕にそう言って、お兄ちゃんの後を追いかけた。
「あーあ、僕ももっと外で遊びたいよ」
「まぁ、アンタは体質が特殊らしいからね。もう少し訓練してからになるんだろうさ。
この前は喫茶店に連れて行ってもらったんだろ?」
僕の呟きにポン姐さんがやってきて、そう言った。
「うん。でも、ほとんど箱から出して貰えなかったんだ。
あ、でも、この首輪してから、その体質? がちょっと良くなった気がする」
「へぇ、良かったね。なら、もう少ししたら一緒に散歩に行けるかもね」
「ほんと?!」
「まぁ、その辺決めるのはあの坊ちゃんだけどね」
ポン姐さんが言った時。
ゾクッと、寒気がした。
「おや、来たね」
がた、がら、がらがた、と音を立てて、閉じられていた扉が薄く開いた。
隙間から覗いたのは、鋭い目。
「ひぅっ!」
思わず、ポン姐さんの後ろに隠れる。
隙間に更に手を挟み込んで、無理やり扉が開かれた。
現れたのは、ポン姐さんより体が一回りくらい大きい、猫。
「また、来たね。アンタも懲りないねぇ」
「ふん、この家は俺の縄張りだからな。
と、新入りか?」
「変に威嚇するんじゃないよ。可哀想に、怯えてるだろ」
ギロッと睨まれる。
「え、えと、その、は、はじめ、まし、て。
どんべえ、です」
「おー、今までのヤツらとちがって礼儀正しいじゃねーか!
そういや、あのドラゴンの小娘はどうした?」
ゴンスケお姉ちゃんのことだろうか?
「ウチの坊ちゃんと一緒にお仕事さ。
ドンベエ、コイツはボス。この辺一帯を支配してる猫だよ」
ボス、短いけど格好いい名前だなぁ。
「で、ドンベエは置いていかれたか?」
ガハハと笑いながら、その猫は僕とポン姐さんの周りをくるくる回る。
「あ、いや、僕、まだあんまり外に出られなくて」
僕が答えた瞬間、ボスの表情が険しいものに変り、その場を飛び退いた。
その直後。
がガンっ!!
トゲトゲのついた棒が振り下ろされた。
僕は驚いて、お母さんのいるご飯を食べる部屋まで逃げる。
その部屋から、こっそりとボスとポン姐さんがいた場所を見ると、ポン姐さんがこちらへ歩いてくる所だった。
さらにその向こうには、優しかったはずのおばあちゃんが、とても怖い顔をして振り下ろした棒を肩に担いでいるところだった。
「お義母さん、どうされました?」
お母さんが音に驚いて、おばあちゃんの所へ行く。
「また、あの悪猫がきたんだよ。
とに、なんべん追い払っても諦めないったら」
おばあちゃんのそんな言葉が聴こえてくる。
ポン姐さんが説明してくれた。
「ボスはね、野良だから。
ご飯を盗みに来るんだよ。で、あの婆さんは、それに怒ってる。
ドンベエはうちでちゃんとご飯が食べられるんだから、盗み食いはしちゃダメだよ、いいね」
「うん」




