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いつものスーツ姿。その上には四大幹部にだけ支給されている赤いマントを羽織り、髪も整え、さらにナチュラルメイクを施してから、ジュリはエステルと共に建物の外に出ていまだ混乱している武装し、さらにここを占拠していた者達を一網打尽にした。
「で、ジュリさん。あ、南王様。
俺のボーナスはどうなるの?
増える?」
「来るの、遅かったからなぁ。
ま、でも、一番乗りだったし、期待はそこそこしておいて良いよ」
よしっ! とエステルはグッと拳を握る。
そして、いまや立場が逆転した、捕獲した荒くれ者達の数を数え、そして数え終えるとジュリは首を傾げた。
「あれ?」
「どうしたんすか?」
「数は合ってる。さすが、馬鹿、全員生きてる。
でも、おかしいなぁ」
変だなぁ?
おかしいなぁ?
と、まるでホラー話を語った時の煽りのように、ジュリは首を傾げる。
「逃げられた?」
「いや、言ったっしょ。数は合ってる。
そうじゃなくて、臭い」
「臭い?」
「気づかない?」
「いんや」
「…………死臭がする、けど、でも変」
そこで、エステルはじぃっとジュリを見る。
「何が?」
「死んでるけど、生きてる感じ。うーん、生きてるけど死んでる臭い?」
「ゾンビみたいな?」
「ちがう、そういうアンデッド系のハッキリとした腐臭とか、本来の意味での死臭じゃなくて。
なんだろ? なんか、変な臭い。変なとか臭い、って言うと語弊があるか。
うーん、奇妙な気配ってのが近いかな。違和感、生と死が曖昧な感じ。
本来、生と死ってのは隣合ってはいるけど、同居はできないものなんだよねぇ。
だから、そう、矛盾した気配。
…………ちょっと、確認しないとか。まさかとは思うけど禁忌、禁術に触れた個体が混じってる可能性があるし」
禁忌。そして、禁術。
つまり、やってはいけないこと、触れてはいけない禁止された魔法や技術を使われ蘇生させられた個体がいるかもしれないということだ。
「…………それは、確か、なんすか?」
「というと?」
「いや、本当なのかなぁって」
「そう聞くってことは、エステル、あんた何か心当たりがあるの?」
「いや~、うーん、どうだろ?」
「あるのか、無いのかハッキリしろ」
ジュリがマントをヒラヒラさせながら、言った。
このマントの機能によって、エステルは彼女に負けたのだ。
その時のことを思い出し、そして、なんとなく心当たりのことを馬鹿正直に説明してはいけないような気がした。
しかし、エステルも端くれとはいえ世界平和に貢献している組織に所属しているのだ。
報告しないわけにはいかない。
少し、考えて言葉を選びながらエステルはジュリへ、
「何が心当たりにあたるのかわからない」
そう伝えた。
***
翌日。
ふと思った疑問を、レイにぶつけてみた。
「そういや、さ。
ニュースとかあんまり大騒ぎしてないんだな」
ゴンスケからリモコンを奪い、ニュースをザッピングする。
昨日の大騒ぎは全くと言って良いほど報道されていない。
「ぎゃっ?!」
ゴッ!
ガゴっ!
ゴンスケがリモコンを取り戻そうと、俺の顎へダイレクトアタックをかける。
「あ、それ報道規制と情報操作。でも、昨日テロップは出たみたいだけどな」
さらりと言われてしまう。
なるほど、つまり必要最低限の情報しか流していない、と。
この情報化社会に、ここまで徹底出来るというのも逆にすごく感じてしまう。
あのホテルの時は連日大騒ぎだったし。
「なんだかんだ言いながら、やっぱりまだ地上波の方を信じるし見るんだよな」
レイがそう漏らす。
「と、言うと?」
ガゴっ!
「まだまだ、ネットに不慣れな世代が多いってことだ」
「ぶぅー!!」
ついに、ゴンスケは『ぎゃう』や唸る以外の音で鳴き始めた。
ぶぅ垂れている。
「はいはい、ほらよ」
リモコンを渡すとご満悦に、別の――――ニュース以外のチャンネルをザッピングしたり、いろんなボタンを押して操作する。
やがて、ドラマの再放送らしきチャンネルを出して見始めた。
少なくとも、俺の住んでた国でこの時間にやっているドラマは再放送だった。
恋愛ものらしく、やけにカップルがイチャイチャし始める。
俺もなんとなく、見てしまう。
と、なんだか濃厚なキスを画面の中で繰り広げはじめ、やがてゴソゴソと、って!!
「これ有料チャンネルじゃねーか!!」
「ぎゃっ!!?」
俺は、ゴンスケからリモコンを奪ってテレビ欄を出すと健全な番組を探す、が。
「くそ、文字読めねぇ」
「ぎゃっう! ぎゃっう!!」
ゴンスケがリモコンを取り戻そうとしてくるが、一喝する。
「これは、まだお前には早いっ!!」
つーか、早すぎる!
俺だってちゃんと見たことないのに!
じゃなかった、ゴンスケにはこれは早すぎる。
そんな俺たちの横で、レイが画面を凝視しながら呟いた。
「さっきの、やっぱりヤラセだよなぁ。棒読みだったし。でも説明のとこには盗撮って書いてあるし」
どこを読んでるんだ、お前はぁぁああ!!?
画面こそテレビ欄だが、生々しい音が流れ始めていた。




