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ボートの後ろには、よく見ると何か黒い巨大な物体がぷかぷか浮かんでいる。
どうやら引っ張ってきたようだ。
「よっ、無事かー?」
ボートからそう言って降りてきたのは、桃色を纏った絶世の美少女だった。もう数年もすれば美女と呼ばれるだろうと思う。
女神の化身と言われても、きっと疑わないだろう。
「俺が無事じゃないことって今まであったか?」
レイが、全裸で葉っぱを付けたまま、そして馬のマスクをしたまま、そんなふうに返した。
「ねぇな、うん、ねぇわ!」
顔に似合わない、似合わなすぎる豪快な笑いとともに美少女が更に返した。
と、ゴンスケがボートに近づいていく。
あの黒い塊が気になるようだ。
「お、これが話してたドラゴン、えっとゴンゾウだっけ?」
ゴンスケに気づいた美少女が、レイとの会話もそこそこにこちらへやってくる。
「ゴンスケです」
訂正しておく。
いや、ちょっと待て。
この人、本当に女か?
俺は、ちらり、と歓喜の舞いのようなものを舞っているレイを見た。
もう、アイツの存在が俺に常識というものを疑わせてしまうのだ。
これ、賠償問題とかにして訴えたら勝てるかな?
少なくとも、猥褻物陳列罪とかそういうので訴えたら勝てそうな気がする。
「おー、そうそう、ゴンスケか!
大愚にもそうだけど、ゴンスケにも土産があるんだぞ」
土産、と聞いてゴンスケのテンションが爆上がりする。
レイもだ。
「大愚?」
「あ、レイのニックネームだよ愛称な愛称」
「はぁ、なるほど」
「で、お兄さんは、えーと、たしか美人なお姉様と宇宙を旅して死なない体を手に入れそうな名前だった気がするんだけど」
どんな名前だ、それは。
「ぎゃうっ!」
「お、そっか、テツか! お前のご主人様の名前」
「ぎゃうぎゃう♪」
「おー、まさか着いてそうそうそんな惚気を聞くことになるとは、ゴンスケはテツのことが大好きなんだな」
「くぅるるる」
「恥ずかしがるなって!」
嘘、だろ。喋ってる?
ゴンスケと、会話、してるだと!?
「話してんのわかるの?」
「うん? まぁ、頑張って覚えた」
何をどう頑張ったらドラゴンの言葉を覚えることができるんだろう?
とても興味がある。
「でも、災難だったなぁ、お前ら」
しかし、ドラゴンの言葉を覚える方法を訊ねる前に、美少女が名乗ってくる。
「あ、俺はエステルな。本当ならドラゴン狩りをする予定だった、待ち合わせのメンバー」
「はぁ、どーも。あの、災難って言うのは?」
「表にはまだほとんど出てないんだけどな。今、他大陸からの入港を空と海で規制し始めてるんだ。
で、それに関連して、お前らみたいに飛行機や船なんかを使わずに海を渡ろうとする奴らが落とされるって事態が相次いでる」
「え」
「お前らは、それに巻き込まれたんだろうな。というか、レイだとわかってたら殺されてた可能性高いし」
「殺されて?」
「俺とレイは、一部じゃ有名人なんだよ。とくに中央大陸だと。
うーん、創作物で言うところの、裏稼業の人間には恨まれてるって言えばいいか?
そっちの方だと賞金首っぽいし。
えーと、なにが言いたいのかと言うと、つまりだな。
今、中央大陸の一部ですんごいヤバいことが起こってるんだ。
具体的に言うと、俺の魔王軍幹部の一人が反乱起こされて捕まっちまったみたいでさー」
どうしよう、どこから突っ込めば良いのかわからない。
いや、エステルさん、あっはっはっ、じゃなくてさ。
と、これに反応したのは、お土産に対して歓喜の舞いを舞っていたレイだ。
「マジかよ! あの南王様捕まったの?」
「そ、俺には招集かかってないけど、面白そうだからこれから見に行くけど、お前もくるだろ?」
「行く行く!」
え、マジかよ。
「あの南王様が捕まるとか、めっちゃレアじゃん!
で、助けるの?」
「場合によっては」
なんだろう、物凄く不穏な会話に聴こえるのは気のせいだろうか。
「と、あ、そうそう土産な。
ここに来る途中で捕ってきた。
鮮度はいいんだけど、ほら冷凍してないから寄生虫心配だし、今日の夜はこれで鍋しようぜ、蒲焼でも良いけど」
そう言って、黒い塊を引っ張りあげると、全体が見えるようにエステルはそれを、ひょいと持ち上げた。
そう、軽々と持ち上げたのだ。
超巨大な海蛇だった。




