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――――テツさんの事を、お慕いしているんです――――
新しく出来た友達から、アストリアがそう告げられたのは、ひょんなことからやり取りをするようになって、少し経った頃だった。
それまでのやり取りと言えば、こちらの国だとどこどこの何何が有名だとか、美味しいとか、グローバルな喫茶チェーン店の新作の飲み物が出たとか、そんな感じのことを話題にしていた。
仲は、たぶん良くなった方だと、アストリアは思っている。
せっかく出来た友人らしい友人の恋路を応援しようと決めた。
友人ーー隣国の姫であり未来の女王様である少女、ルリシアの想い人のことは、アストリアも嫌いではない。
好きだと思う。
アストリアも、テツのことは好きだと思う。
しかし、それがルリシアの言う好きと同じか否かと問われたら、わからないというのが正直なところだ。
彼に食事のマナーについて頼ってもらった時は嬉しかった。
彼が、そのために家にきてくれた時も凄く嬉しくて、楽しかった。
アストリアは、彼のことは嫌いではない。
ルリシアの事も嫌いではない。
だから、そんな友人二人が結ばれれば、きっととても喜ばしいことになるだろうと思った。
気づくと、ルリシアがテツのことが好きだと打ち明けた時に、提案していた。
『なら、付き合っている人がいるか聞いてみようか?』
以前、テツは恋人はいないと言っていた。
魔力ゼロの下賎な生まれだから、誰も好きにならない、だから恋人なんて出来ない、というようなことを彼はアストリアに言っていた。
たしかに、そうなのだろう。
でもそれは、一部でしかないことをアストリアは知っていた。
だって彼には、幼なじみがいて、級友もいるのだ。
テツを貶しているのは、本当に一部なのだ。
少なくとも、アストリアはそう考えている。信じている。
テツは、テツが言うほど嫌われてはいない、と。
ルリシアへ提案した時、少しだけ、そう、ほんの少しだけ胸が痛んだ気がしたが、それは一瞬だった。
友達同士がそうやってくっつくと、自分は余るわけで。
そのことに、少しだけ胸が痛んだのだと思う。
テツと過ごした時間も、ルリシアと過ごした時間もそんなに長くない。
むしろ短いくらいだ。
それでも、友人となった二人が結ばれるのを望んでしまうくらいには、アストリアは二人のことが好きになっていた。
だから、ルリシアにテツから聞き出した情報を流した。
彼女にはチャンスがある。
でも、それはまだチャンスだけだ。
テツがルリシアのことを好きでなければ、仮にルリシアがテツに告白をしたとしても、この恋は実らないだろう。
しかし、人の恋路に邪魔は付き物で、それは恋愛小説や漫画、ドラマ、そして現実でも例外では無かったようだ。
テツの携帯の画像に写っていた、二人の女の子。
一人は茶髪で、快活そうな同い年らしい子。
もう一人は、白銀の髪に赤い瞳の、パッと見は吸血鬼種族らしい子。
どちらも美少女といって差し支えないくらい、可愛い。
ユニットを組んでアイドルをやっている、と言われたら信じてしまう所だ。
白銀の髪の子は肉付きも良い、出来れば腰より上は分けて欲しいくらいだ。
茶髪の子は、なんというかツルペタでそこは脅威にはならないのが救いだ。
自分への報酬、高級チョコがかかっていることもあって、アストリアは少し強引にこの二人のことを問い詰めた。
それによると、テツは彼女のことが好きらしい。でも、告白をする気は無いこと。
何故なら、彼の想い人であるその少女には別に想う人がいるからだ。
それだけだったなら、ルリシアのチャンスは大きかった。
問題はツルペタな方。
そう、茶髪の方だ。
なんと茶髪の彼女ーーレイは初対面にも関わらずどういうわけかテツをお泊まり旅行に誘ったらしい。
テツは最初断ったらしいが、押し切られたとか。
いや、きっと部屋は別だろうし、テツも迷惑がっている様子だった。
まさか、ルリシアがテツと恋人になりたがっているから旅行に行くな、等とはアストリアには言えるはずもなかった。
夏休みに入って、いつも通り送られてきたゴンスケとポンの画像。そして、短いメール。
その内容は、しばらく画像を送るのが不定期になる、というものだった。




