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期末テストも無事終わり、夏休みまで片手でカウント出来るようになったある日。
「は?」
「えっと、どうしてそんなことになったのか訊いてもいい?」
昼休み、何気なく俺が口にした話題にリーチとツカサが戸惑いつつ、そう聞き返してきた。
遡ること数日前。
テスト終了直後のことだ。
ネカフェは近くに無いため、昔のラブホを改装して作ったカラオケか、喫茶店【綺羅星】、もしくは地元の学生の溜まり場であるゲームセンターのいずれかでリフレッシュをしようとしたのだが、またアンパンとココアが飲みたくなり俺は【綺羅星】を訪れていた。
そこで、従業員のリオさんに言われたのだ。
「知り合いに弟君の話をしたら、俺もそうだけどそいつも飼うとか言い出してさ。んで、ちょっと遠出になるんだけどドラゴンを探しに行くことになったんだ。
で、弟君も夏休みなら一緒に行かないか聞いてくれって言われたんだけど、行く?」
と。
いやいやいや、普通そういうの仲間内で行くものだろ、と思ったのでオブラートに包んで返答した。
「ま、普通はそうだよなぁ」
「すみません」
「いいよいいよ、謝らなくて。提案したあのバカがバカなだけだし」
すげぇ、言い草だな。なんかその人可哀想だ。
まぁ、そんな会話をしていたのだが、その日もゴンスケを連れて来ていた。
吸血鬼のジルさんに、変身魔法を教えて貰うためでもあり、一応事前にお店へ連絡もしていたため、俺が来店すると同時にジルさんは店の外に出てきてくれた。
あくまでお店が混むまでの空き時間を利用して、教えてくれている。
しかし、マスターには別の意思もあるようで。
「ほら、ジルさん、顔がいいでしょ?」
とは、マスターの言である。
つまりは客寄せ道化師ということらしい。
イケメン好きをホイホイさせるのだとか。
「月一しかやってないけど、レディースデイなんかは、もう、凄いよ」
そんな日を作ってあったのか。
「あー、凄いですよねぇ。俺、なんか勘違いしたジルさんの熱烈なファンの人に襲われましたもん」
笑って言うことじゃないだろ。
「でも、マスターが教えてくれた護身術のおかげで怪我も無かったし」
「リオちゃん、そういう時はちゃんと俺にも報告してね。警察にも行かないとだし」
「えー、俺、警察嫌いなんですよ。
すぐ動いてくれないし、なんか加害者守るようなことばっかりするし。偏見と差別酷いし」
「まぁ、お巡りさん達にも職務内容に縛りがあるからねぇ。
偏見と差別については、人間性の問題かなあ」
と、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませー」
リオさんが仕事の顔つきになり、入ってきたそのお客さんの接客を始める。
と、それは十歳くらいのセーラー服を着た女の子だった。
雪のように真っ白い髪に、金色の瞳。
肌も白いが、鱗のようなものが見える。
亜人? うーん、龍人族かな? いや蜥蜴人族?
でも可愛いなぁ。
あー、こんな妹がいたら良かったのになぁ。
素直そうだし。
と、その女の子の後ろからジルさんが現れた。
同時に女の子と俺の視線が合う。
瞬間、ぱあっと華が咲いたような笑顔を浮かべてその女の子が俺に飛びついてきた。
そして、一言。
「ぎゃう!」
え。
俺はジルさんを見た。
ジルさんは微笑ましそうに、こちらを見ている。
「え? え?」
俺は女の子とジルさんを交互に見て、やがて確信し、女の子へと声を掛けた。
「ゴンスケ? お前、ゴンスケか?」
「ぎゃう♪ ぎゃうぎゃう♪」
めっちゃ上機嫌だ。
と、さらにそこに来客があった。
「師匠! 頼まれてたものもってきましたよー!」
それは、俺と同い年か少し上くらいの、茶髪を乱雑に束ねた少女だった。
「お、ありがとう。
でも、頼んでおいて何なんだけど、レイ、今度から従業員用出入口から入ってきてくれるかな?」
マスターがそう軽く注意する。
「了解っす」
そう言いながら、その少女はビニール袋に入った食材のようなものを渡す。
と、こちらを見てきた。
俺、というよりは、抱きついたままのゴンスケを見て、茶髪の少女ーーレイは目を一瞬輝かせたように見えた。




