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「明日からテツが出てくるね~」
ツカサは、一緒にカラオケへ遊びに来ていたリーチへそう言った。
持ち込み可の所なので、歌が一区切りすると持ち込んだリーチの家族が作った大量のサンドイッチへパクつく。
「まさか、予定が入ってるとはなぁ」
本当は、謹慎が明ける前祝いで一緒にカラオケで遊ぼうとおもっていたら先約があったらしい。
リーチも、食べ慣れたサンドイッチへ手を伸ばす。
「うちの母ちゃん、今日テツとも遊ぶと思ってアイツの好きな海老カツ大量に入れてるし」
「あー、この海老カツサンド、テツ用か。
まぁ、テツはいないし僕達が美味しく食べよう」
そうして、ツナマヨ、カツサンド、フルーツサンド、ハムとレタスのサンドと消費していく二人。
その二人に、登録している動画サイトやらニュースサイトから新動画と記事のお知らせが届いた。
空中に指を滑らせて、二人はまずは動画を確認する。
「は?」
「え、これテツじゃね?」
「…………もしかしなくても、リーチ同じの見てる?」
「たぶん。ホテルの屋上? でカミナリが堕ちる動画」
「あ、それそれ!」
「なんか、生配信もあるな。何が起きてんだ?」
「記事の方だと、なんかホテルがテロリストの人達に占拠されたっぽいことが書かれてるけど」
「いやいや、その占拠が本当だとしても、この動画見る限りだと、テツらしきやつが魔法使ったことになるぞ」
「それはないよねぇ。テツ、魔法使えないし」
「というか、そもそもこんなホテルにいるわけないか」
「世の中、同じ顔の人間は三人いるらしいからなぁ。
まぁ、でも、テツならこういう騒動でも身を守るくらいは出来ると思うけどな」
ケケケ、と意地の悪い笑みを浮かべるリーチにツカサはそう言えば、と訊ねる。
「今更だけど、リーチって高校入る前からテツと知り合いだった?」
「んあ? 違うけど。知り合いじゃないけど知ってはいた」
「なに、謎謎?」
「俺のはとこがテツと幼なじみなんだよ。
小中と卒アル見てたから顔も知ってたし。
そのはとこから色々話聞いてたからなぁ」
「へぇ、珍しいね。はとこなのに仲良いって」
「いとこ連中は基本女ばっかなんだよ。
親戚の家とか行くと話合わなさ過ぎてさー。あ、男もいなくは無いけど、年上でやっぱり話が合わなくて。
唯一、そのはとこが歳が同じで、話も合ったから。なんだかんだで付き合いが続いてる」
「なるほど。
でもさー、テツもアレだよね。よくあそこまでコンプレックス持たずに来たよね。すごく羨ましい」
「……いや、そういうわけでもないらしい。
まぁ、見た目にはわかんないもんだしなぁ、そういうの」
「ってことは、やっぱり魔力が無いことに負い目を感じてるの?」
「普通の人が普通に出来ることが出来ないってなるとなぁ。
かなりのハンデだろ?
だって、五体満足で普通に走れる、体を動かせる、他人との会話も支障なくできる。理解力だってある。
体に何かしらの問題があって、食事制限があるわけでもない。
ただ、魔法が使えない。それだけだ。
他の奴らにはある、あって当たり前の機能がテツにはない。
それだけで、就職にも不利になる。
これは、はとこに聞いた話なんだけどな。だからこその家政科選択なんだと。
あいつ、進路はもう決めてあって、将来は菓子職人か調理師の資格とってそっちの方で食ってくみたいだ。
魔法付与した料理もあるけど、普通に食べてく分には魔法必要ないしな。
それに、飲食店は常に人手不足だし。
ウチの父ちゃん達も魔法使わずにパン焼いてるしなぁ。
調理をするのに、魔法は関係ないってことがはとこ曰く、テツの救いになったらしい」
もっと言えば、その救いに巡り会う前にテツは虚構に救われていたらしい。
現実でない夢物語には、テツのように何も持たない、それこそ魔法を使えない嫌われ者の主人公が活躍し、やがてその存在を認められていくと言う王道な話がこれでもかと存在する。
だからこそ、そこに、テツは誰よりも感情移入することで逃避と言われようと、心を救われていたのだ、と、リーチのはとこであるマサが、冗談混じりに話してくれたことがあった。
「救いかぁ。見てる分、そんなに悲壮感とかなさそうだけどねぇ。
あっ」
「どした?」
「生配信!! 今、ドラゴンがホテルに突っ込んだ!」
「え?」
「動画のアドレス送った!! なんか、白いドラゴンが宴会場が有る場所に突っ込んだっぽい!」
「ありゃま、本当だ。
うわ。コメントが弾幕になって画面見えねぇ」
「コメント機能、オフにしなよ」
「もうした。ん?
このドラゴン? 尻尾がテツの飼ってるゴンスケに似てるような?」
「そう?」
「頭は建物の中だから、なんとも言えないけど、なんとなく?」
「なにそれ」




