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ゲームは1日1時間?

 日曜と祝日。

 その時のみ、良治と洋子はベーシックダンジョンの仕様変更について相談しあったが、常にいるというわけでもない。


 洋子の家でやっていたゲームも進んでおり、ついに地下10階へと進出。

 緊張する良治に洋子がアドバイスを飛ばし、ラスボスとなる魔術師を倒すことに成功。

 2人そろって喜びの声をあげたあと、スタート地点へと戻った良治はエンディングを無事に見ることができた。


 終わった。

 そう思ったのも束の間、洋子がネタバレを始める。


「実は、終わったあとも遊べるんですよ。アイテム集めやキャラの育成なんかも引き続きできますし、ラスボスが持っていた凄いアミュレットも複数入手できたりします」

「おぉ!! じゃあ、全キャラに持たせる事も出来るのか!」

「可能ですよ。でも、一度エンディングを見てしまったキャラを連れてだとラスボスが出ません。なので?」

「……うん?」


 もう遠慮はいらない。

 今まで耐えてきたのはこのため。

 洋子の笑顔は、そう言わんばかり。

 苦悩した良治であったが、洋子が見る前でコントローラを握り新規キャラを6人作り始めた。


 しかし、完全に最初からというわけではない。

 キャラのレベルは1からのスタートであるが、武具や金銭的な面で違うのだ。


『これボッタクリだろ!』と、多くのプレイヤーに思わせた商店には今まで拾って売りつけた武具が並んでいる。またクリアしたばかりのキャラから使っていた武具や所持している金銭を受け取ることも可能。

 

 強くてNEWゲーム。

 それに近しいものを良治が味わいだす。

 楽しむ彼の姿を、洋子がウキウキとした顔で見ている事を彼は知らない……。


 ……

 ……

 ……


 また12月といえば、大事なイベントがある。

 それは、クリスマス・イブ。

 毎年、自分には関係ないと考えていた良治であったが、今年ばかりは違う。


 その日の14:00ごろ。

 良治は、駅の構内にある伊達政宗像の前にいた。


(そろそろかな?)


 普段のデート時と比べれば多少は身だしなみに気を使った姿。

 そうかといって特別緊張しているという様子でもない。


(予約してある時間まで適当に歩くとして……多分、人が多いだろうな……)


 それを思うと早くも嫌にもなるが、いつもと変わらないデートというのも味気がない。今日は、是が非でも洋子に楽しんでほしい理由があるからだ。

 そうこう考えていると、上にコートを羽織った彼女がやってきた。

 いつ雪がふってきてもおかしくないほどの寒さだからだろう。


「じゃあ、いこうか」

「はい。まず、どこに行きましょう?」

「とりあえずは……」


 特に悩む様子もなく歩きだす。

 駅前にある大きな歩道橋を渡り、屋根のついた商店街へと足を進めていった。


 イブ限定のバーゲンセール。

 目に入った良治が足を止め、店前にかざってある衣服を手にする。

 最初は仕方がなさそうにしていた洋子であったが、途中から彼女の方が楽しみだした。


 とあるゲームセンター前。

 若い男女が、店前でプリクラ撮影をしているのを見かけ、2人も真似をしてみる。撮影し作られたシールを見ると、良治の表情が固い。撮り直しを要求された。


 路上に並べられた銀のアクセサリー。

 手作り感がちょうど良い。記念に何かを購入しようと選び始める。

 互いに同じものが欲しく、チェーンタイプの小物を購入。


 カラオケ屋の看板があったが……

 今日はスルー。


 あまり普段と変わらないが、洋子は楽しんでいるようだ。

 さらに歩き楽しんでいると、夕方の5時前。

 時間を気にし始めた2人の足が、駅前へと戻ろうとするが……。


「私、先週ログインできなかったのよね」

「あのゲームって、絶対会社員達が優先されていると思うぞ」

「それってずるくない?」

「だよな。これからの未来って言うからには、オッサン達より俺達を優先するべきだろ」

「そうそう!」


 少し愚痴混じり気味の会話を耳にし、2人共が足を止める。

 呆気にとられはしたが、ほぼ同時に小声で笑いだした。


「人気ありますよね」

「ほんとになぁ……」


 相も変わらず、ベーシックダンジョン(仮)の話題は続いている。

 本日はどうなっているのか分からないが、恐らく好調だろう。

 どこまで続く人気なのかは知らないが、今のところは元の仕様に戻される心配はないらしい。


「……っと、今日はゲーム抜きだ」

「そうでした」


 思わず話してしまったが、本日は普通のカップルのように過ごすのが目的。

 その為に、ホテルの一室も予約してある。

 窓から見える市内の夜景がムードを盛り上げてくれるだろう。

 いつかした約束を果たすため、部屋の中で踊ってみるのも悪くはない。


 すっと良治が腕で輪をつくる。

 それを彼女の手が掴み、幸せそうな笑顔で体を寄せてきた。

 一組の男女の姿が商店街から出ようとした時、冬ならではのものが空から降りてくる。


 この夜。

 1人の男が、特別な一言を告げる。

 彼女に内緒で購入しておいた指輪と共に……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――半年後


 大吉の道場内で、香織と須藤が睨み合う。

 互いに白い道着姿をし、プロテクターの類は一切なかった。


「……係長達が結婚するそうっすね」

「そうね。招待状がきたわ」

「……つまり、次は俺達ってわけで……」

「誰かいい人が見つかったの? おめでとう」


 あっさりと受け流された瞬間、須藤に隙ができた。

 その瞬間を見逃さず、香織が詰め寄る。

 須藤の腹へと彼女の掌打が向けられたが、命中する瞬間その腕ごと払われた。


「あら?」

「あぶねぇ!」


 見た目だけならば、あまり威力を感じさせない一撃であるが後を引く。

 決まったら終わりというわけではないが、後々になって影響してくる類のもの。

 今までも何度か受けてしまっているため、須藤は警戒していたようだ。


「今日こそ勝たせてもらうっすからね!」


 一体、何回目だろうか?

 同じようなセリフを毎回聞かされている気がすると考えながら、香織が蹴りを放つ。

 須藤もまた、同じように蹴り上げると香織が力負けをした。

 だが彼女は、その力を利用しクルリと半回転。

 香織の右足が伸びて、須藤の顎に命中……しかけたが、これを髪一重で避けた。


 挨拶のようなやりとりが終わると、二人の距離が離れる。

 互いに身構えたままジリジリと動きだし、2人の口元に笑みが浮かんだ。


 そんな光景を大吉が見て思った。


(そろそろ須藤君を連れて日本中を歩くのも悪くないな。とりあえずは北の方から回ってみるか?)


 その場合、香織はお留守番ということになるだろう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 時がドンドンと過ぎていく。

 ベーシックダンジョンから良治達は離れ、自分達の新たな生活について話し合った。金銭的なものは老後貯金を切り崩す形となったが、その分仕事に精をだし取り戻す。


 新生活の準備ができた数日後、市内にあるホテルに2人の関係者たちが集まる。

 家族はもちろん、親戚や会社の関係者。

 懇意にしている友人達の姿もあり、中にはベーシックダンジョンで知り合った仲間達の姿もある。


 挙式のメインイベントである誓いの儀式。

 その瞬間を逃さないとばかりに鳴り出すシャッター音。

 今まで関係してきた人々の祝福のなか、彼と彼女は夫婦となった。


 その時の洋子は、自分自身で輝いているかのようであったと、後日の良治が惚気るが、聞かされた友人知人は苦笑するしかなかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ――7年後。


 出勤前の時間に、テレビをつけたまま新聞を見ていると……


「洋子。見ろ」

「なに、あなた?」


 良治が立ち上がり、台所に立っていた洋子に一つの記事を見せた。

 そこには……


『ワールド・アルカディア。12月1日よりサービス開始! 地下迷宮から始まる冒険は、いつしか貴方を広大な大地へと(いざな)うことだろう。リアルと完全に等しい感覚をもつ新世代ゲームの開幕だ!』


 という宣伝タイトルが大きく出ている。


「12月ぅううううう―――!!!」

「お、おぃ!?」


 良治の手からひったくるように洋子が新聞をとると、そのまま記事を凝視。

 エプロン姿の彼女の瞳が爛々と輝いている。


「ちゃんと五感があるのよね? ……そう! これよ、これ! ど、どうしよ! あなた!」

「どうしようも何もないだろ。子供が無事に産まれるまでは絶対駄目だからな」

「でも、ようやくなのよ!」

「だ・め・だ!」

「……うぅ」

「泣くなよ……やるときは俺も一緒にするからさ……なんなら子供が成長するまで待っても……」


 そう。

 この時、洋子のお腹の中には、子供が出来ていた。

 まだ、目立つほどには出て来ていないが、何がおきるか分からない。

 ゲームサービスが開始されるという事は、国からの許可もおりたのだろう。

 安全面についての確認ができたのだろうが、何かがあってからでは遅すぎる。


 だから良治は本気で洋子を止めているのだが……


「1日1時間だけなら……だめ?」

「……それぐらい……いや、駄目だ! 頼むから自重してくれよ!」


 洋子を説き伏せようとする間に、つけていたテレビの放送が変わる。

 それは不思議と人気が高い朝の子供向けテレビ番組。

 内容は、こうしたものであった。


『僕が来たからには大丈夫! 絶対君達を守ってあげるからね!』

『宝箱マンさん!』

『おのれ宝箱マン!!! やれ、お前達!』

『『『『ウキィー!!』』』』

『ぼくには、どんな攻撃も通じないぞ!』


 その言葉通り、全ての攻撃から人々を守るヒーロー番組。

 人気が高い理由がベーシックダンジョン(仮)というゲームにあったことを誰も知らない。

 誰も知らないままに、新たな時代が幕を開く。


 そこを歩むかもしれない、自分達の子供。

 どのように生きていくのか今から不安ではあるが……


(とにかく無事に産まれて来てくれれば、それでいいよ)


 父親となる良治は、そう願うばかりであった。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。

本作は、これで完結とさせていただきます。

できましたら、感想並びに評価のほどよろしくお願いします。


また、完結記念として活動報告をあげますので、ご興味ある方は後でご覧下さい。


改めて読んで下さった方々にお礼を言わせていただきます。

ありがとうございましたm(_ _)m

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◆現在この作品の書籍版が発売中となっています
web版とは【異なる部分】が幾つかあるので、是非手に取って読んでみて欲しいです。
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[良い点] 神様にざまぁをしつつも勧善懲悪という感じじゃなくてもっといい未来をと人間自身の未来だからこそ教えてもらったからこそ人間自身でより良い答えを考え出したって感じがして超越者視点であるが故の同族…
[良い点] 消化不良なラスボス戦からのオチへの繋がり方が良かった [気になる点] やっぱりラスボス戦が消化不良だった… [一言] 面白かったです!
[良い点] 中小企業の会社員が、異常事態に巻き込まれつつ、実際の生活に対しての影響が出てしまいつつも、できるだけ楽しもうとする姿勢。係長のおかげで最後まで一気に読ませていただけました! [気になる点]…
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