無敵のボディガード?
四方の壁と床が、白一色で塗りつぶされている。
その部屋にある巨大な水晶が浮かんで見えるのは、汚れが一切ないため。
徹達が戦いを始めた時、少年はその部屋にいた。
「間違いないんだね?」
再確認するかのように少年が尋ねると、水晶の内部で光が点滅し始めた。
『はい、マスター。固有スキルシステムに異常は認められません』
「なら、どうして彼は倒れたの?」
『その回答については、マスターの許可がなければできません。お答えしてもよろしいのでしょうか?』
「……」
光の点滅と共に聞こえてくる声は機械的なもの。
報告しにくる青年よりも、感情というものが感じられない。
「僕が知るということは、僕が決めたルールに違反する?」
『はい、マスター』
「……分かった。じゃあ質問をかえる。彼はいつになったら目を覚ます?」
『本日のテスト終了後となります』
「僕が手を出して目覚めさせるのは?」
『復帰は行われますが、マスターの望みには適さないと思われます』
「……僕の望み? いや、でも……」
自分の望み。
それは良治をゲームに復帰させること。
だが、それを否定されたかのような言い方をされてしまう。
少年は戸惑ったようだが、すぐに、
「……そういうこと。邪魔をしたね」
不満は残っている様子であるが、彼は背中を見せた。
ベーシックダンジョン(仮)
その管理システム。
以前、良治が管理者のキャラデータを通じ接触したもの。
少年が部屋から姿を消すと、応答していた水晶からも光が消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
倒れた良治の目が開いたのは、18時前のこと。
目を覚ますなり、頭痛が襲い掛かってくる。
反射的に額に手をあてると、嘘のように痛みが引いていった。
「……ふぅ」
安堵の息を吐きだしてから、自分がどこにいるのかを知る。
思考が回りはじめ、何をしていたのかを思い出した。
きっと洋子が心配しているだろうとスマホを見てみると、彼女から5件。
須藤と香織からも2件ずつの着信記録があった。
(また、心配をかけたか)
これは覚悟して挑まねば。
何を言わるのか想像しながら電話をかけたが、
『目が覚めたっすか?』
相手は須藤であった。
「すまん。心配かけただろ?」
『そりゃそうっすよ。ああいう倒れ方をされたら、誰だって心配するっすよ』
ああいうと言われても、良治は覚えていない。
自分は、一体どういう倒れ方をしたのか気になったが、それよりも……
「洋子さんは……その、何か言っていたか?」
『あれ? 洋子さんから電話が無かったんすか?』
「あったようだけど……まだ……電話を返していない」
『ちょっと順番が違うんじゃないっすか? まずは洋子さんに電話するべきっすよ』
「それは、そうなんだが……」
『じゃあ、そういうことで。俺、トレーニングの続きあるんで、きるっすね』
「お、おい!」
もう少し聞こうと思ったらアッサリと切られた。
確かに、須藤が言う通り洋子に電話をかけるべきだろう。
良治にも分かっていたが、その前にワンクッションを挟みたかったのだが許してくれなかったらしい。
今度こそ洋子へと電話を掛け、どう切り出そうかと考えたところで彼女が出た。
「……あっ」
『もしもし! 良治さんですよね! 大丈夫ですか!』
「あ、あぁ。俺は大丈夫だ。ほんと悪い。また心配かけただろ?」
『……それはもう……ですけど、今回は良治さんが悪いってわけじゃないですし……』
今回は……。
良治は何かを言いたくもなったが、反論できる材料が浮かばない。
その点については諦め、自分が倒れたあとのことを尋ねた。
「峯田さん達が管理者に会いに行った?」
『はい。ですけど、そのあと戻って来ないので、たぶん……』
「……やられたのか?」
『そうだと思います。彼等からの報告もありませんでしたし……』
自分が知らないところで戦闘があった。
その可能性が高いことを知り大きな溜息をつく。
無茶をして……と思うが、自分も彼等の事は言えないことに気付いた。
「分かった。明日聞いてみるよ。それと、洋子さんのスキルは試してみたか?」
『いえ、それは流石に……もしかしたら、良治さんを助けられるかもしれないとは思いましたけど香織さん達にとめられました』
「俺のあとだしな……まぁ、それも込みで、聞いてほしいことがあるんだ」
『何をです?』
「うん。実は……」
良治が話し始めると洋子は押し黙り、最後まで聞き終えたあと騒ぎ始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の迷宮で、仲間達と顔を合わせる。
体調を心配されはしたが、その話をする前に、徹達に何が起きたのかを聞いてみた。
「天使……ですか……」
「そういうしかない」
天使達というのは徹達が見た存在のこと。
外見から、そうイメージしたらしい。
主に光の槍を使って攻撃してくるらしいのだが、さほど強くは感じなかった。
動きが読みやすく対処をすることは可能なのだが、それでも徹達は勝っていない。
何故かと言えば……
「攻撃が通じているように見えなかった。魔人のように再生しているという風でも無い。あれはたぶん管理用の特殊キャラなのだろう。柊さんなら分かるんじゃないか? 運営側が使うキャラというか……」
「私よりも、係長に聞いてください」
「ん?」
こうしたことを洋子に聞いたのは、彼女のゲーム知識をあてにしてのこと。
今まで通りのことであったが、その彼女が良治へとふった。
理由を知らない徹が不思議そうに良治を見ると、彼は自分の鼻先を軽くひっかいている。
「どうした、係長?」
「……いえ、その……残念ながら、その天使というのは管理者と一緒に出てくる敵なんですよ。ダメージを与えられるのは管理者だけで……そのボディーガードというか……」
「あぁ、そういう……なに?」
言いかけていた言葉を飲み込み徹の表情が固まる。
他の仲間達は、唖然とした表情で良治を見た。
言いたいことがありそうな彼等を前に、良治は苦笑するしかなかったようだ。





