ゲームプレイ動画
田中と話しをしてから、数日が過ぎた。
知らずのうちにリーダーを任されてしまっていた事に良治が気付いたのは、81日目となる土曜日。
温水プールで洋子と食事をしていた良治が『もしかしたらアレは……』と言い出し洋子に意見を求めると、彼女は自分が知っていながら黙っていたことを白状した。
だからと言って洋子を非難する事は出来ない。
そんな事をすれば自分がしてきたアレやコレを言われ反論されることは目に見えている。予想できてしまった良治は非難するのではなく助けを求めた。
「……そうですね……そういうことなら、私のゲームプレイ動画でも見てみますか?」
「???」
洋子のゲームプレイ?
そんなのが助けになるのか疑問でしかなかったが、彼女なりに考えがあるのだろうと思い、見せてもらうことにした。
――洋子のアパート
(最近は、洋子さんの部屋で過ごす事が多いなぁ……)
そんな事を思いつつ彼女がPCを起動させているのを背後で見ていると、ランク・ザ・オンラインというゲームタイトルが画面に浮かびあがる。
「このタイトルに見覚えがありませんか?」
「あるな……どこだったかは覚えていないが」
「たぶん迷宮掲示板ですよ。一度だけ話題に上がっていましたから」
「……あっ。盾PTがどうとか言っていたアレか?」
良治が思い出すと、洋子が物悲しさを感じさせる表情をしながら頷いた。
何かあったのだろうか?
そう思えてしまう彼女の表情が気になり、尋ねずにいられない。
「どうかしたのか?」
「私が最初にやったオンラインゲームがこれなんです。面白かったんですけど、同時に嫌な部分も知ったのが、このゲームでした」
「洋子さんが嫌がる? ゲームなのに?」
「……それ、どういう意味です?」
いつも以上に声が小さい。
気のせいか怒気も感じる。
いや、気のせいではないだろう。
彼女であれば、ゲームに関係したことなら何でも好きになると思っていたが違うようだ。
良治は素直に謝罪をするために頭を下げた。
「まぁ、いいです。そういうイメージを与えちゃっているのは否定できませんし」
洋子がアッサリと怒気を静めたことで、良治はホっと息を吐きだせた。
「嫌な部分って言うのはネット上で起きている類と同じようなものです。そういうのって関わり合いたくないですけど、自衛のためには覚えないといけないこともあって、結構疲れるんですよね」
それは聞いてもいいことなのだろうか?
彼女の事であれば何でも知りたいと思うが、本人からすれば触れられたくないことだってあるだろう。
口をつぐんだままでいると、洋子の手が止まる。
画面には彼女が作り出したゲームキャラクターが5人表示されていた。
「覚えるのが大変そうだな……」
「そうでもないですよ。今はゲーム内で基本を説明してくれますし……っと、これだ」
洋子が動かしていたマウスカーソルが、リオンと名付けられた男性型キャラで止まる。
姿から判断して、おそらくは魔法使い系のキャラだろう。
そのキャラのステータスらしきものが表示されると、さらにクリック。
次に出たのは、ナンバリングされたリストのようなものだった。
「これは?」
「このキャラのプレイ動画です」
そう言う洋子の手が止まる。
記憶を探っているかのような声をだしつつ、口を尖らせた。
思い出したのか、一つのタイトル名にマウスカーソルをあてる。
「これ……だったはず。私が参加したワールドクラスのボス討伐動画ですけど、見て欲しいのはその時のチャットです」
「……ワールドクラスってなんだ?」
「そうですね……えっとまず、このゲームについてですけど……」
動画を見せる前に、ゲームと、これから見せる予定であるボスについての説明を始めた。
ランク・ザ・オンラインはゲーム内に用意されたランキングを競い争うMMORPG系のゲーム。
ベーシックダンジョンとは比べ物にならないほど細かな要素がいくつもあり、それらについてのランキングが、このゲーム最大の売りだ。
ワールドクラスボスというのは、各サーバーに一体しか存在しない最大規模のボスのことであり、これを討伐することができれば参加したプレイヤー達のランキングが一気に跳ね上がる。
ゲーム自体は現在も続いており、このボスを討伐するのに必要な最低人数は100人程とされている。しかし、洋子が参加した当時であれば違っており、500人は必要と言われていた。まず、その人数の確保が必要なわけだが、ただ集めればいいというわけではない。
移動や班分けをするだけでも軽く見積もって1時間以上。
戦闘開始から終わるまでで3時間ほどが必要であり、計4時間はログインし続けられるプレイヤーでなければ参加はできない。
それだけの時間を継続プレイできる人々を500人集めることが必要というわけになる。
また、参加するキャラのレベルや装備品などの条件もある。
これはボスにダメージを与えられる最低条件的なもので主催者側が決めるもの。
他にもアレコレ参加資格があるのだが、それら全てをゲーム内の掲示板で記載し、討伐開始日まで管理し続けなければならない。
何度も討伐されているボスであれば作業的なものになりがちだが、ワールドクラスともなれば違う。初めて主催した人の中には、連日悪夢を見てしまったという例すらあった。
そうしたことを知っていてもやりたがるのは、大きな祭りイベントのようなものをやってみたいという気持ちがあってこそ。報酬やランキング評価の爆上げ効果などもあるが、そうした打算的な気持ちだけでは務まるものではない。
そもそも報酬面でいえば割に合わないと言って良いボスであった。
費やした時間や心理的圧迫感を考えれば、祭りには参加したいが主催は嫌だという人々の方が圧倒的に多いため、後日になってから弱体化されたボスでもある。
そうした裏事情的なことまで洋子は知っているが、そこまで良治に話すつもりはない。
彼女が良治に見て欲しかったもの。
いや、感じ取ってほしかったものは別にある。
――動画に収められていたチャットログ
マヤ『2班が攻撃を開始。B地点まで誘導してください』
マヤ『蘇生班、すぐに1班の蘇生を』
マヤ『補給班に近づきすぎています。至急A地点まで誘導して』
マヤ『2班、後退! 3班タゲとりお願いします!』
マヤ『回復班。退避! 距離をとって!』
マヤ『蘇生された人は、すぐにバフ班待機場に向かってください!』
マヤ『補給班。物資の残りはどのくらいですか? 報告お願いします』
マヤ『バフ班、退避! 1班。すぐにC地点まで誘導を!』
ヤマト『蘇生はまだか! さっさとしろよ!』
マヤ『火力班の蘇生を急いで下さい!』
シキ『ごめん、先に落ちる』
グイン『おい! 約束が違うだろ!』
ルナ『そういうのはPTチャットでやってくれ!』
ハンマー『余計なことを喋るな! 指示が流れるだろ!』
クーナ『そういうお前のチャットでも流れるんだよ! 分かれ!』
ナーガ『HP残り50%!』
シズ『うちのメンバーで2人落ちた!』
オルガ『回線弱いんじゃね?』
ラクエル『不必要なチャットは止めて!』
マヤ『残り30%からが本番です。皆さん、冷静にお願いします』
アテナ『がんばるぞ!』
ヤマト『人の言う事を聞けよ! 日本語が読めないのか!』
……
……
……
良治が見せられたチャットログ。
それは、討伐に失敗した時のものであった。
戦闘状況が悪くなるほどに、チャットの内容が酷いものへと変わっていき、良治は段々と見るのが嫌になってしまう。
1時間後にもう1話追加します。





