田中の尋ね
田中達が、管理者と会った翌日のこと。
彼と良治達が19階で合流したが、会うなり田中が深々と頭を下げた。
「突然どうしたんですか?」
良治が戸惑うと、田中が頭をあげ愛想笑いのようなものを見せた。
「普段の礼だ。気にしないでくれ」
「目上の方に突然頭を下げられて、気にするなと言われても……」
「……ん?」
「何か?」
「係長はいくつだ?」
「37になりますが?」
「俺の方がギリギリ下だ。36になる」
田中がそう言うなり横から徹が割り込んできた。
「40代じゃなかったのか!?」
「……見た目より若くて悪かったな」
徹の予想では田中の年齢は、40代後半というもの。
髪のなかに白いものが多数混じっている事や、老けてみえる顔立ちからそう思えてならなかった。
「そういえば、峯田さんは?」
「俺は34だ」
「……」
「何故、肩を落とす?」
「いえ、何でもありません」
もし徹が自分よりも年上だとハッキリすれば、それを理由にリーダーを任せようと考えていただけなのだが、この手は使えないらしい。
(剣術士さん達と合流したら16人。それでも足りないとなれば、さらに増えるだろうし……俺がリーダーをやり続けるのは無理があるぞ)
良治のそんな考えを徹が察した。
「言っておくが、俺はリーダーをする気はないからな」
「……何も言っていませんよ」
「目は口ほどにものを言う……分かるな、係長」
「あなただって係長でしょ!」
「それは関係がないだろ!」
妙な言い争いが起き始めたが、そんなのは知るかとばかりに、田中の自己紹介が始まる。
「本名は田中 祐樹だ。知らない間に年齢を水増しされていたようだが、こう見えても36だから間違うなよ? いいな?」
「……俺に向かって言うんじゃねぇよ」
須藤が不満そうに文句を垂れると、田中は嬉しそうに微笑んだ。
そのままの表情で彼に近づくと、さらに笑みを深めて言う。
「お前が槍の派遣社員なんだろ? 若いとは思っていたが、本当に若いんだな」
「いきなり喧嘩売ってんのか!」
「そういうわけじゃない。若いというのは良い事だ」
「……あんた、やっぱり40代……いや50代だろ?」
「言ったそばから歳を増やすな!」
そこだけは断固否定したいようで、田中の声が大きい。
2人の間で喧嘩が始まりかけたが、そこに洋子が入り込んだ。
「相談したいことがあると言っていましたけど、どうしたんですか? それに1人のようですけど、他の方々は?」
洋子は地図作りの過程で田中と面識があった。
その彼女が尋ねるなり、彼の顔つきが言い辛そうに歪み始めた。
「あいつらは少し休ませている。相談というのは、その……いや、まずこれを見てくれないか?」
何のことだろうと思う洋子の前で、田中が自分のスマホを取り出した。
画面を触り始めたかと思うと、彼のスマホの画面に一枚の画像が表示される。
それは……
「俺達が使っている……いや、使わされているものだ」
田中が管理者に尋ねたかったこと。
それは、自分達が本当にゲームをやらされているのかどうかということであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
田中のスマホに表示されたのは、金属でできた円筒形のカプセル。
表面には窓ガラスがあり、その中に田中の顔があった。
「俺が尋ねた質問というのは、俺達が本当にゲームをしているのかどうかについてだ。試しに聞いてみたら、この映像を見せられた」
「……えっ?」
「もしかして、これがゲーム機なんですか!?」
説明を聞くなり、洋子の眼がスマホの画面に釘付けになる。
彼女の反応に田中が驚くが、見慣れていた仲間達は気にしていない。
「そうとも言えるし、違うとも言えるんだが……説明を続けてもいいか?」
「どうぞ。彼女のことは気にしなくていいです」
「……分かった」
洋子とは何度か会っているはずなのだが、こういう人物だということは知らなかったらしい。田中の動揺をみた良治達は、その気持ちは分かると心の中でのみ頷いた。奇妙な連帯感が生まれた瞬間である。
そんな彼等の気持ちに気付かないまま、田中は自分が聞いてきた事を話しだした。
「最初に言っておくが、俺はあくまで聞いただけだ。あいつが本当の事を言っているのかどうかは分からない。そこだけは頭の中にいれておいてくれ。いいな?」
良治と彼の仲間達を見渡しながら言うと、誰もが頭を頷かせる。
それはスマホの画面に釘付けになっている洋子も同じ。
目はスマホに向いているが、耳はしっかりと田中の言葉に向けられていた。
「窓に俺の顔が見えているだろ? それが本当の俺らしい。よく見れば分かると思うが、額のところ銀色のリングがある。それがゲーム機の一部だと言っていた」
良治も写真を見ようとしたが、洋子の頭が邪魔でよく分からない。
あとでゆっくりと見せてもらおうと思いながら、話の続きだけに意識を集中させる。
「あぁ、一部というのは、そのリングと似たものが体の数か所に付けられているらしいからだ。外面の大きな筒は別システムになっているらしく、報酬には含まれていないとも言っていたな」
「それは良かったですね。こんな大きなものを貰っても困るでしょう」
「まったくだ。こんなものどこに置けというのだ」
そう言いながら田中が苦笑いしかけたが、その表情がすぐに戻る。
スマホから目を離そうとしなかった洋子が頭を上げたのは、その時であった。
「別システムと言っていましたけど、具体的にはどういうものなんです?」
「俺も気になったんだが、それについては触れようとしなかったな。何か秘密があると思うんだが……見当がつかないか?」
多少期待したような目で見られた洋子であったが、即座に首を横ふりした。
「これだけじゃ判断できませんよ」
「……だろうな。まぁ、俺の相談というのはそのカプセルについてじゃない。情報そのものについてだ……公開していい類のものだと思うか?」
どうしたらいい?
そう言いたげな目をしながら田中が言い終えると、良治は苦々しそうに顔つきを歪めた。
「聞かれても困りますね……洋子さんはどう思う?」
「私も判断が出来ません。せっかくの情報ですけど……これって、私達もこういう状態になっているってことですよね? ……あまりいい気分じゃないですよ」
「……だろうな」
良治達が嫌がることは予想していたようだ。
田中が髪をかきむしりだすと、黙って話を聞いていた満が、首を傾けながら近づいてきてスマホに目を落とした。
「遠藤君? どうした?」
「分かっていたけどさぁ……俺達の体って管理者の手の中にあるんだなぁ……って……」
スマホに表示されているのは田中の顔であるが、満はそこに自分を重ねて見ているのだろう。彼の気持ちは良治達がもった気持ちと同じようなこと。今までも考える事はあったが、写真という形でみせられると現実味を強く感じてしまう。
(初日からこうだったんだろうな)
田中のおかげで今の自分達の状態が、イメージしやすくはなった。
だからといって良い方向に状況が変わったというわけでもない。
この情報を知り安堵する人がいるかもしれないが、逆に不安に思う人もいるだろう。
田中が情報公開を踏みとどまったのも、似たような気持ちを抱いたから。
良治達に尋ねたのは、そう思えるのは自分達だけなのかどうか確認したかったらであった。





