歓迎パーティーの始まり
「ゲームでタキシード……うーん……」
等身大の鏡に自分の姿を映し、良治は呆れたように呟いた。
同じ部屋にいる徹や須藤、それに満等も同様の姿。
黒のタキシードへと着替え終わった彼等を、出口付近にいるメイド達がニコニコとした表情で眺めている。
(ほんと不気味だ)
何かを言う時。
何かをする時。
一つ一つの動作に、人とは違う何かを感じる。
他の3人は特に思うことが無いようだが、良治はどうしても気になって仕方がない。
「係長も着替え終わったっすね」
須藤が声をかけながら近づいてくる。
徹と満も一緒だが、彼等はこの先について話し合っていた。
会話を耳にした良治が表情を曇らると、須藤がそれに気付く。
「どうしたっすか?」
「いや……良く分からなくて……勇者とか言っていたけど、アレはなんなんだ?」
「……係長はそうなるっすよね」
良治がそういったものに疎いのは今さらだ。
彼の仲間達が、いつものとおり教え始める。
「アニメや漫画のネタ?」
「あるいは小説っすかね?」
「それとゲームだな。とにかく色々な娯楽作品で使われている開幕時のテンプレ手段の一つだ。異世界、あるいは同じ世界から勇者を呼び、魔王や敵対戦力と戦わせるという……」
徹がスラスラと喋っていくと、須藤と満がニタニタとした顔つきで彼を見ている。その視線の意味に気付いた徹が咳を一つ。
「……と、まぁ、俺も詳しくはないんだが、そういう感じのイベントだと思う」
「徹。無理するなよ。もうバレてるって……」
「う、うるさい!」
目の前で起きている出来事が、何を意味するのか分からない。
分からないが触れない方がいいように思え、良治はそれ以上尋ねるのを止めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方その頃、女性陣と言えば。
「香織さんって、ほんと腰が細いわね……」
「くすぐったいから、触らないで!」
「だって、こんなに細いなんて……ねぇ、洋子さん。貴方もそう思わない?」
「……思います。胸も大きいし、腰も細いし、足も長いし……モデルやったほうがいいじゃないですか?」
和気藹々(?)とした会話をしながら着替え中。
メイド達に囲まれた部屋の中で、白い下着姿でいる洋子に美甘が羨ましそうな目つきをしながら近づいた。
「洋子さんも腰細いですよね……触っていいです?」
「やめてください……というか……」
洋子がジト目で美甘の胸を見返す。
薄桃色のブラジャーがつけられた彼女の胸は、洋子にとって予想外のもの。
「……な、なんですか?」
「いいえ、何でも」
絶対何でもないはずだと美甘は思ったが、それ以上は聞けなかった。
洋子の全身から、それ以上聞くなというオーラのようなものを感じとったから。
(着痩せするタイプだったのね……うぅ)
てっきり自分と同レベルと思っていたようだが、美甘の胸は意外とある。
傷を負った心を隠しながら、メイド達によって用意された白いドレスを見つめた。
自分に似合うだろうか?
良治はどう思ってくれる?
そんな気持ちを抱きながら、自分の下着に手を伸ばしていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
女性の着替えというものは時間がかかるもの。
そうした世間の一般常識を再認識しつつ、良治達は一階の大広間に集合していた。
着替えは済ませたが、武器は身に着けたままの姿。
アイテムポーチも腰に巻き付けおり、その中に防具類や脱いだ衣服をいれてある。
「これもイベントなんですか?」
「おそらくそうだろうな」
そこにいるのは良治達ばかりではない。
貴族的な風格を備えた人々が集り、ワイングラスを片手に談話をしている。
一見すると和気藹々としたムードだが、その輪の中に入っていくのは難しい。
何故なら話されている内容が、同じ事の繰り返しだから。
テンポも同じで、録音された音声データーを垂れ流しているようにすら思えてならない。
「歓迎は……されているんだろうな」
「でも、気持ち悪いぞ。『これで我が国は安泰だ』とか『魔人にやられた多くの兵たちも、これで浮かばれる』なんて話ばかりしていてさぁ」
「……攻略ヒントのつもりだろうか?」
「ヒント? じゃあ、この会話って4枚の絵と同じようなもの?」
徹のふとした言葉に良治が目を向け尋ねた。
「そんな感じのものがチラホラ聞こえるっすね……」
「魔人というのは、おそらくボスだろう。このイベントで登場するボスなのか、それとも19階なのかは分からないが……」
「おっ? 竜の尻尾について話している奴がいるぞ」
「なに? どいつだ?」
徹が身を乗り出すほどに気にすると、満の指先が威厳がありそうな男に向けられた。
『勇者様達が魔人と戦う為には、竜の尻尾が必要となる』
『まずは竜退治ですか……』
『ふん。勇者様達の敵ではない』
『まったく、まったく』
『フハハハ』
何がオカシイのか分からない。
そう思っていると会話が止まる。
一瞬静まるが、すぐに同じ会話が始まり、良治達は眉を寄せながら顔を見合わせた。
「……このイベントに関係していたものなのか。運が良かったというべきか?」
「峯田さん。この先どうなっていくのか分かりますか?」
「おそらくだが、その尻尾を入手してこい的な話をされると思う」
「でも、俺達は入手していますよね?」
「ああ。だから、その話をされたら渡せばいいだけで済むと思うが……」
疑問がわくが、さらに気になる会話が耳に聞こえてくる。
4人とも耳を澄ませ、会話の内容に集中した。
『前任の宮廷錬金術師が放浪の旅に出ているはずだが、あの男はどうなっている? あいつなら勇者様達の力になれると思うが』
『たしか、トリスといいましたか? あの男は各地に出没しているようです。ただ、あまりいい噂は聞きませんね』
『相変わらず、あくどい商売をしているのか?』
『そのようで……。あの男、腕はいいのですが性格がどうも……』
『……会わせても、碌な事にはなりそうにないな』
聞いた良治達は、複雑な表情をしながら首を傾ける。
その後も、幾つかの話を耳にしたが、あまり関係がなさそうな話ばかり。
そうした会話が止まったのは、女性陣達が大広間に入って来た時。
見事にドレスアップした彼女達の姿を見た良治達は、自分達の状況を忘れて、それぞれの相手に駆け寄った。





