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祝杯

 大剣術士達が得た固有スキルの話が落ち着いた後、ドラゴン戦について話を聞いた。


 序盤は短槍術士がタゲをもち戦闘を行っているが、ここは以前と同じ。

 違ったのは土属性でのパワー+スラッシュ攻撃を序盤戦でのメイン攻撃として使い、変身後は使用を一時停止した事にある。理由は出来る限り早期にドラゴンの動きを少しでも遅くし、かつ火の玉連射攻撃を封じるためだ。


 ダメージが溜まり鱗の色が変わるとドラゴンが暴れはじめるが、この時点で遅延効果が表面化しだす。

 剣術士や467達は、さらに遅延効果を重ねて戦闘を安定させようとしたわけだが、その結果が火の玉連射を生み出している。

 大剣術士達は、そうなる前に攻撃の手を止め、デバフからの魔法攻撃にきりかえた。


 変身後には、2組に分かれる。

 蘇生魔法を扱えるのが短剣術士と弓術士のみなので、この2人が同時にやられる事を避ける為。

 ヘイト値は無視されるが、遅延効果のおかげで戦える状態にもっていき、その状態を維持したままデバフをかけ魔法による攻撃を繰り返したという事になる。


 融合魔法について質問が出たが、大剣術士達は使用していなかったという。

 ドラゴンは融合魔法に対して火の玉を使い防ごうとするパターンがある為なのだが、これを逆利用できる手段があれば、もっと上手くやれたかもしれないと当人達が言っていた。


 近接職2人による風牙の融合魔法という手段もあり、これなら防がれる事もなかったと思われるが、彼等はその手段をとらなかった。

 出来る限り、自分のパートナーである相手を守りたかった為、大剣術士と短槍術士が離れて行動していたからだろう。


 さらに話を聞けば、戦闘中やられたメンバーもいたようで、それでも立て直し勝利できたのは2度の敗北経験が生きた結果に過ぎないらしい。

 いつ全滅してもおかしくない状況だったらしく、蘇生魔法を何度か使ったうえでの勝利という事なのだろう。


 謎の扉を使うのであれば別だが、そうでないのであれば、まず間違いなく1度は全滅を味わうとも書き込んでいた。


 痛いのはいやだ。とにかく突破したい。

 そんなプレイヤーならば、扉を使用してクリアを目指すのが良いのかもしれないが、その報酬として得られるものは劣化版。

 どの程度までスキル効果が落ちるのか不明であるし、17階に登場するのは4竜と呼ばれる強敵たち。いくら8人PTを組めるとはいえ、その全員が劣化版の固有スキルだった場合、先々が不安でならない。


 もう一つ問題がある。

 大剣術士達は、デバフ効果を使ったうえで勝利している。

 それはつまり、彼等の戦い方を真似るとすれば、魔法職が1人は必須という事だ。

 このグループだけの話ではないが、魔法職がPTメンバーの中にいないものもいる為、そうした人々はどうしたらいいのかという問題も残っている。


 大剣術士達は勝てたが、ドラゴン討伐に関する問題が全て消えたわけではない。

 彼等の戦い方についても改良の余地は多いにあると思われる。

 剣術士達は月曜日に挑戦する予定らしいが、扉の使用や戦闘手順等については定まっていない。彼等がどういう結論を出すのかは、月曜日まで待つ事になるだろう。


 ――まずは良かった。

 良治は、この日の事をそう思いながら、迷宮をあとにした。

 これからの事を大剣術士達と話し合うのは月曜日となるだろう。

 彼等もスキル練習を必要とするだろうから、少しは待たされるかもしれないが、それでも良かったと安堵した。


 家へと帰るなり私服へと着替え、鼻歌を口ずさみながらアパートを出る。

 向かったのは、顔なじみとなっている近くの定食屋。

 こう気分がいい時は、焼き餃子でも食べながら、ビールというのが良治のジンクスじみたものである。


 良治が馴染みにしている定食屋と言うのは『来々』という。

 昭和の匂いを残したような店の玄関を開けると、カウンター越しに店主の顔が見えた。年々シワが深くなっていく男の顔を見た良治は、小さな笑みを浮かべながら店内へと入っていく。


「今日は生と餃子を。まずはそれで」


 挨拶も会釈もなしで注文をすると、店主が「あいよ」と言い顔つきを緩ませた。


 奥へと進むと、畳みが敷かれた座席が3つ。

 1人でやってきた良治が新聞を1つ手にし向かうが、それはいつもの事。


 空いていれば使う。

 空いていないのならカウンター。

 客が増えてきたら自分の方から、席移動を言い出す。

 そんな具合に良治は、奥の座席を使ってきていた。

 カウンター席を、あまり好まない性格なのだろう。


 いつもの場所に腰を下ろすと、すぐに恰幅のよい奥さんがエプロン姿で水を運んできた。


「ども」


 軽く頭を下げ言うと、髪を頭の上でまとめた奥さんが嬉しそうに言う。


「今日は飲むのかい?」

「少しだけですが、構いませんか?」

「もちろんだよ。ゆっくりしていきな」

「ありがとうございます」


 最後まで微笑んだまま言い、奥さんがカウンターの方へと戻っていった。


 この定食屋は、夫婦とその1人息子で経営している店であるが、中々に飽きさせない味を出してくれる。常連客である良治には、漬物やデザート等を無料で追加してくれる事もあって頭が上がらないようだ。


(……色々思っているだろうな)


 良治が思う色々というのは、この時間に来るようになった事についてだ。


 事件が始まる前であれば、平日この店を訪れられる時間というのは早くても20時過ぎ。それが今では、18時前には来ることが出来るようになった。


 会社を辞めたのではないか?

 そう思われても仕方がないだろう。

 アパートの大家も1階に住んでいるのだから、近所付き合いとして色々噂になっているかもしれないし、その噂の中にテストプレイヤーである事も含まれていると思われる。

 長く同じ場所に住んでいる良治は、名前も知られている為、そうした噂が出る事は十分に考えられる事だった。


「おまちどう」


 戻っていった奥さんがやってくると瓶ビール1本と、ガラスコップ。そして焼かれたばかりの餃子が乗った皿を置いた。


「追加は後で」

「はいよ」


 そんな会話で話がすむ。

 やってきた奥さんは、すぐに戻っていった。


(まずはビールだな)


 栓が抜かれている瓶ビールを手にすると、一緒に運ばれてきたコップに静かに注ぎ始めた。最後に勢いが増したのは泡を多めに出す為。居酒屋などで出されてくるビールジョッキのように仕上げると、満足気に微笑んだ。


 ビールの準備が出来上がると、小皿に醤油とラー油を垂らす。

 割り箸はあとでいい。

 喉がだしている欲求が、そろそろ限界だ。

 ビールが入ったコップを手にし、ゴクゴクと流しこむ。


「……ふぅ」


 美味い。

 そう言いたかったが、良治は1人だ。

 何か言うのは気が引けて、その言葉を飲み込むと寂しさを感じた。


(須藤君は飲めるんだろうか?)


 もし飲めるのなら、いつの日か彼とも飲んでみたいと思う。

 ゲームとはいえ、互いに顔と名を知った者同士。

 どこに住んでいるのか聞いた事もないが、実際の痛みを分かち合いながら頑張ってきた仲間。今の状況が終わってからも、友人として付き合っていきたいものだと考えながら、また一口つけ、コップをテーブルに置いた。


(香織さんの事は本気なんだと思うが、分からなくなる時があるな……)


 他人の恋愛事情に関係したくはないと思うが、間近で見せられると気にはなる。香織もどう考えているのか掴みづらく、あの2人がどうなっていくのか、つい考えてしまうようだ。


 そんな事を思いつつ、割り箸へと手を伸ばした。

 パキっという音を出し割り、餃子を1つ掴む。

 ひき肉の旨味と、玉ねぎの歯ごたえ。そしてニンニクの風味。

 うーん。と声をだしたくなったが、その言葉を飲み込むかのように、餃子を喉から胃へといれてやる。


 1つめ……2つめと口にし、ビールを流し込む。

 会社の同僚達には悪いが、こういう得が今の自分にあってもいいんじゃないだろうか? そんな事を思うわけだが、言い訳に過ぎないだろうとも思った。


 腹に何かが入り始めると、さらに詰めたくなった。

 メニューを横目で見て、いつもと変わらないのを確認すると、頭の中にコロッケのイメージが湧きだす。その途端、ソースの匂いを思い出し手を挙げた。


 軽く飲むつもりであった良治が定食屋『来々』を出たのは、2時間後となる。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――洋子の部屋。


 彼女のスマホに良治から電話が入ったのは、20時を過ぎた辺り。

 おそらく明日の事だろうと出てみると、何時ごろなら行っても大丈夫だろうか? と聞かれた。


「9時頃でどうです?」

『分かった。その頃に行くよ。何か買っていった方が良いものとかあるか?』

「そうですね……」


 スマホを手にしたまま、自分の台所がある隣へと目を向けた。

 食品等の買い物は済ませてある。

 良治が進ませたがっているゲームの準備も万全だ。

 部屋の掃除も済ませてあるし、ベッドのシーツ等は明日の朝一番に……


 突然、顔を大きく横へとふった。


(違うでしょ!)


 何が違うのかは彼女だけが知る事。

 とにかく必要そうなものを考えると、ある物を思い出す。


「ビールはどうです?」

『ゲームをしながらビールか?』

「えぇ。私は隣でアドバイスをするだけですし、たまには飲みながらというのもいいかなぁ~っと」

『あぁ。……って、それだと俺は隣で飲んでいる洋子さんを見ながら、ゲームをするわけか?』


 良治の声を聞くと同時に、クスリと小さな声を出し表情を緩めた。

 予想していた通りの返事であったが、それが嬉しくてたまらないのだろう。


「係長も飲んでいいんですよ。ただ、あのゲームって結構難しいですけど、それでも良ければですが」

『……分かっているが隣で飲まれると……まぁ、買っていくよ』

「お願いします」

『適当にツマミもな。じゃあ、お休み』

「はい、おやすみなさい」


 緩みまくる洋子の表情は、良治が思う残念なものとは違っていた。

 好きな相手と2人だけで楽しむ時間を想像し、嬉しく思う女としてのもの。


 電話が切れたスマホをテーブルへとおくと、湯を沸かしていた風呂場へと向かう。最近覚えた流行りの曲を口ずさみ出したのは、明日という日が楽しみでならないからだろう。


 ビールを口にしたのは、良治が好きな事を覚えていたからに過ぎなかった。


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